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後日談、開戦の狼煙

 俺がギルドから受けた緊急依頼。これに呼応するかのように、各方面に散っていたミスリル級冒険者が、集合地点でもある廃村に集まって居るが、中々壮観だ。

 

 こんな中に降り立つ訳だが、やはり息子であるユウトと、小型の竜種は目立つのだろう。一瞬だけざわめきが広がるが、そこは流石と言うべきか、当然と言うべきか。流石はミスリル級冒険者と言う事か。


「フ。成程、今代も粒揃いと言う事だな」


 そう、ミスリル級冒険者は、冒険者ランクで言えば、上から三番目。一人一人の能力も高く、技能(スキル)や相性によっては、単騎で上位の竜種まで、独自に対処できるだけの力を持っている。


 そんな存在が、数人単位のパーティで、数十組が集まって居ると言えば、強いとは言えユウト一人が現れた位で、動揺し続ける訳にも行かないだろう。


「……悪くは無いわね、でも」


 俺の言葉に続く様に、安芸が小声で現状に待ったをかける。そう、確かに彼等は強い。


「まぁ、な」


 ただし、それはあくまで『個対個』である場合に限る。討伐目標となるビッグホーネットは、この先の山岳地帯。斥候に出ていた調査員の報告によれば、山岳下層、大きめの洞窟を根城にしている事が判明している訳だが、その規模は段違いだ。


 このビッグホーネットは、現世におけるハチと同様に、巨大な巣を形成して肥大化して行く。考えても見て欲しい。体長が最低でも一メートル級の巨大バチ。これが数百から、大規模なモノになれば数千と言う数の働きバチ(兵隊)を作る。


 その凶暴性は、下手な竜種をも凌ぐ。圧倒的戦闘力と、統率された編隊は、ジャイアントキリングすら容易にしてしまう。現世アマゾンでも、軍隊アリがアナコンダを狩り、喰らい尽くす位の物だと言えば、どれだけ凶悪な相手かが分かると思う。


「父さん、母さん、こっちだ」


 と、ビッグホーネットの危険性を考えて居た所に、ユウトが俺達の移動を促してくる。いかんな。顔合わせと作戦の確認をしなければ。そう思いながら、この場を取り仕切るギルドマスターの元へと向かう訳だが……。




「おう、戻ったかユウト……そちらの方々、が…………ええええぇぇぇぇ!? ゆ、ユウキ殿にアキ殿!?」

「相変わらず、声でかいわねー。そんなに驚かなくても、ユウトの呼ぶ援軍なんだから、想像はつくでしょ?」


 そんな大声を出すギルドマスターに、安芸は溜息を付きながら答える訳だ。こう、頬に手を付く感じで、あらあら、仕方ないわね。という雰囲気を醸し出している。


 まぁ、こうなるよな。俺達が見渡した限り、今代のミスリル級冒険者に、俺と安芸の名を知る者は居なかった。唯一、このギルドマスターを除いては。

 

 当然俺と安芸の力を知る故に、ギルドマスターの驚きは分からんでもない。実際、ランクアップ試験を蹴り続けているから、別の意味でも有名なんだよな、俺達夫婦は。


「ともかく、以前の討伐以来だが……ギルマス、対策はあるのか? 前回の二の舞にはしたくない。状況次第では、俺と安芸は文字通り『全力全開』で行く」

「ッ! わ、分かっております。対策は取ってあります。作戦要綱はこちらに、御目通しを」


 このやり取りに間に、俺が持つ本気の殺意を、ほんの一瞬だけ出した訳だ。ギルドマスターも、元アダマンタイト級――ミスリル級冒険者のワンランク上と言う実力者――。それでもなお、神の一端たる存在の覇気は堪えるらしいな。


「……夜陰に乗じて、か。こちらの視界の確保が厳しいが……ああ、そう言う事か。本丸を討つ。分かった。だが……」


 作戦はこうだ。隠蔽魔法を展開しつつ、ハチの巣へがある洞窟への強襲。洞窟の見張りを排除後、各種魔法により煙幕を発生させ、洞窟をいぶす。現世におけるハチ駆除でも行われる方法。


 これも、俺が秘かに広めたハチ駆除から取って居るのだと推測出来る。実際、対象を窒息させるのは有効な手段となる。これにより能力の減少したビッグホーネットを叩く。


 夜間と言う事も有り、現世と同じく気温差で動きの鈍った状態を殲滅。最終的に火魔法で洞窟内の巣を駆除、と言う作戦である。ただ、欠点が無い訳では無い。


「ユウキ殿?」


 作戦要綱を見ていた俺。表情が強張っていたのだろう。ギルドマスターは不安に駆られたのか、俺手を声を掛けて来る訳だ。


「あぁ、作戦要綱自体に問題ないよ。ただし、俺は別行動を取る。万全を期したい」


 俺の言葉を聞き、ギルドマスターも深々と頷いてくれた。確かに作戦自体に問題はない。だが、この作戦の大本は、俺の現世情報が深く関わって居る。殺虫剤の存在しないこの世界だからこそ、陰から俺が支援をする必要があると判断した訳だ。


 まだ夜が訪れるまで時間があるが、俺は今からでも行動する必要があると考えて居る。今この時間帯、日中こそがビッグホーネットの最大の活動時間。だからこそ、今動く必要がある。


「安芸、済まないが作戦時には、皆の守りを頼む。そして、力の解放に関しては、お前の判断に任せる」

「その辺は大丈夫だよ。でもー久し振りの戦いだから、ちょっとだけパワーチャージをしたいなー?」


 その言葉に、俺の背筋にゾクリと寒気が走る。幾ら何でもこんな所でする訳にもいかんだろうに。


 案の定と言うべきか、安芸ちゃんはニヤリと、俺にしか分からないレベルの笑みすら浮かべる訳だ。まぁ良い。


 正直言えば、安芸と再会して初めて訪れた冒険者ギルド。あの時の焼き増しとも言えなくもない。言ってしまえば、俺と安芸の正体を知るのはギルマスのみ。


 それだけではなく、遠目に見ても安芸の美貌は、想像を絶する。元となった少女レオナが、最上級の美の持ち主だった為でもあるが。故に、羨望の眼差しが凄まじい事になって居る。


「ほら、安芸」


 俺はそっと手を伸ばし、クイっと安芸の顎を上げると、そのまま口付けを交わす。その瞬間に、俺の保有するエネルギーがごっそりと奪われて行く。体感で約四割と言う所か。


 勿論そんな光景を見て、あわよくば安芸を口説けるか。と思って居た冒険者達の、怨嗟を含んだ怒号が聞こえて来るが、そもそも俺の妻だ。それにこれは、熾天使たる安芸にエネルギーを補充する為の行為。文句を言われる筋合いも無い。


「良し。んじゃ開幕の一撃は、任せて貰うね」


 その言葉と共にスッと俺から離れ、騒ぐ冒険者たちを後目に……ニコリ、と笑顔を浮かべる安芸は、そのまま腰に備えた剣を抜き放ち、天へ向けて構える。直後、一閃の光が天を割く。


 衝撃で砂埃が舞い、草木が余波でなぎ倒される。その場にいた冒険者達も、何事かと思うと同時に、防御の姿勢をして堪えて居る状態だ。


 熾天使として覚醒進化して居る安芸の持つ、神霊力。これに超重機神たる俺のエネルギーを掛け合わせた、純粋な聖のエネルギーが、上空を旋回するビッグホーネットを打ち砕く。


「開戦の狼煙は、これで良いかな?」


 安芸の言葉に、俺は無言で親指を立てる。そう、この集結場所は、既にビッグホーネットの勢力圏下にある。幾ら彼等がミスリル級冒険者とは言え、正直気を抜き過ぎだ。


「安芸、ギルマス。他のミスリル級冒険者の事を頼む。ユウト!」

「あ、は、はい!」


 恐らくユウトも、安芸の放った一撃を見るのは、今回が初だろう。故に若干呆けて居るが、そんな場合ではないと軽く呼び起こした訳だ。


「油断はしない事だ。既に戦闘は始まって居る……作戦開始時刻まで、今みたいなのが飛来するだろう。お前もミスリル級冒険者だろう? 何をすべきかは、分かるな」

「はい!!」


 本当なら共闘し、戦う父の姿を見せるべきなのだとは思う。だが、あの苦渋を。悲劇を繰り返さない為に、俺は往く。


「ふぅ……重機召喚。解放、超重機融合……そして、来い! 我が盟友、聖獣ガルーダ、俺に力を貸せぇぇぇぇ!!」


 俺の言葉に呼応し、巨大な重機が顕現する。バックホー、ブルドーザー、戦車。そして、召喚魔法を唱えると、俺を救い出してくれた最強の守護者たる、風の聖獣ガルーダが呼び出された。


 暴風を従え、稲妻を巻き散らしながら。東方を守る最強の相棒が、ここに参上したのである。


『主よ!』

「おう、空中戦がメインだ。頼むぜガルーダ!」


 聖獣の召喚と言う光景を、呆然と見守るミスリル級冒険者達。それでも直ぐに我を取り戻し、俺がガルーダに騎乗した瞬間には、大歓声で俺を見送ってくれる。


 だから俺は、大声で皆に答えを返す。


「全員、死ぬなよ! 討伐したら、皆で盛大に打ち上げをしようぜ!!」


 再びの大歓声に包まれながら、俺達は空へと舞い上がる。目標はビッグホーネットの偵察兵、及び遊撃兵。安芸により開戦の狼煙は上げられた。ここから日が落ちるまでが勝負だ。



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