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【前編】シルヴィア





 ―――どうして。

 身に覚えのない罪を被せられ、侮蔑の眼差しを浴びせられ。

 シルヴィアは何が起きているのか分からず酷く動揺していた。

 何かの間違い。そのはずなのに。

 シルヴィアを囲む人々の視線は冷たい。

 シルヴィアは婚約者に縋る視線を送るが、シルヴィアと目が合った途端、目を逸らされた。

(――殿下)

 一欠けらの希望は粉々に砕かれシルヴィアの青い瞳から生気が失われた。


 

 救けを求めて伸ばした手は虚しく空を切り、誰にも届くことなく力を喪い地に落ちた。

 意識を失う寸前、胸の奥に浮かんだのは――――。





***



「……ルヴィア?」

「……え?」

 シルヴィアはぼんやりと顔を上げた。何故か頭の中に靄がかかったように前後の記憶がない。

 焦点の合わない瞳にぼんやりと周りの景色が映りこむ。鮮やかな新緑。白いテーブルクロス。爽やかな風に乗って運ばれてくる木々の香り、そして甘い菓子の匂い。沢山の人の話し声。

(わたし……何を)

 顔を上げたのは頭上から名を呼ばれたから。見上げた先には困惑顔の青年がいた。

 柔らかい栗色の髪に藍色の瞳の整った顔立ちの青年。

(彼は……従兄弟の)

 シルヴィアがぼんやりとしたまま青年をじっと見つめていたら、青年はくすりと微笑んだ。

「エスコートをご所望かな?お姫さま」

「え……」

 青年は視線の高さをシルヴィアに合わせるべく、跪いてぎゅっと握られていた手に力を込めた。

 そう、青年の手は小さなシルヴィアの手と繋がれていた。

「――――――――‼」

 シルヴィアは己の失態を自覚して瞬時に蒼褪めた。数秒前の行動が脳裏に甦る。

 青年の手に縋るように手を繋いだのは己自身。目の前に映った大きな手に咄嗟にしがみついたのだ。そうしなければ死んでしまうと本能で感じたから。溺れる者が目の前に差し出された命綱を掴むように。

(わたし、なんで)

 ぐるぐると思考が搔き乱されると共に眩暈がする。


 ――救けを求めて手を伸ばした。

 ……でも、誰も救けてはくれなかった。


 絶望が胸を黒く覆い尽くす。

「シルヴィア!?」

 従兄弟のルークの声が遠くに聞こえたような気がしたが、シルヴィアの意識はそこで途絶えた。



***



 シルヴィア、と誰かに呼ばれた気がした。

 慈しむような優しい声。この数年、誰かにそんな風に愛情の籠った声をかけられたことがなかったから、泣きたくなった。

 シルヴィアを愛してくれた父が亡くなってから、全てが変わってしまった。

 父を愛していた母は心を壊し、領地で療養中で、シルヴィアが訪れてもシルヴィアを娘と認識できないようだった。

 父が亡くなった後、後継を巡って親族達が争い、領地は荒れ果て、侯爵家は力を失った。

 シルヴィアは第二王子と婚約していたが、侯爵家の力添えを目論んでいた第二王子にとって侯爵家の失墜はとんだ誤算だった。


(ああ、だからわたくしが邪魔になったのね……)

 最後に見た時、断罪されるシルヴィアが救いを求めて見つめた婚約者の傍らには隣国の王女が居た。

 シルヴィアは身に覚えのない罪を着せられ、第二王子の婚約者の座から引きずり降ろされ、その上命を奪われた。


 ――そう、あの時、シルヴィアは死んだ、はずだった。

(……――!?わたし、生きてる!?)


 がばり、と勢いよく起き上がると真横から息を飲む音が聞こえた。

「……シルヴィア、急に起き上がってはいけない」

「え?」

 シルヴィアが顔を横に向けると、従兄弟のルークが慌てたようにシルヴィアの肩に手を置いて顔を覗きこんで来た。

「吐き気は?眩暈はない?」

 シルヴィアは驚き過ぎて目を見開いたまま小さくこくりと頷いた。

「良かった……」

「……ルーク……?」

 無意識に呟くと、ルークが顔を綻ばせた。

「俺のことを覚えてくれていたんだね」

 言いながらルークはまるで小さい子にするようにシルヴィアの頭を撫でた。

 シルヴィアは絶句して固まった。

(え、なに、これは)

 違和感を覚えかけたところへ勢いよく扉が開いて誰かが駈け込んで来た。

「シルヴィ‼目が覚めたんだね‼」

「良かった、心配したのよ」

「え、お、父さま、お母さま…!?」

 亡くなったはずの父と、領地で療養しているはずの母だった。

 駆け寄って来た二人はがばりとシルヴィアを抱きしめた。シルヴィアは父の腕にすっぽりと収まる自分の身体に違和感を覚えた。

(あれ、わたし何か小さい……?)

 そっと視線を下ろして自分の手を見ると、こどものように小さい。

 否、こどものように、ではなく正真正銘それはこどもの手だった。

(あれ……?)

 断罪された時のシルヴィアは十六歳だった。父が亡くなってから一年半。

「シルヴィは誕生日パーティーで倒れたんだよ」

 父の声にはっとして顔を上げる。

「誕生日?」

「六歳のお披露目の。覚えてないかい?」

 父は優しくシルヴィアの頭を撫でながら心配そうに顔を覗きこんだ。

(六歳……)

 シルヴィアは驚きで絶句した。

「まだ混乱しているのね。もう少しお休みなさい」

 心配そうな声に視線を巡らせると表情を陰らせた母と目が合った。

(母さま……)

 真っ直ぐに見つめられるのは何年ぶりだろう。父を失って以降、目の前のシルヴィアを見てくれなくなった母。いつもどこか遠くを見つめていた。

 胸の奥が熱くなって、それと同時に痛くもあって、シルヴィアの瞳に涙が浮かぶ。

「シルヴィ?どうしたの。何が貴女の心を哀しませているの」

 母が優しい手でシルヴィアの涙を拭ってくれる。

(これは……幸せな夢……?)

 それとも死後に辿り着く天の国だろうか。

(でも、あの時母さまは亡くなってはいなかった)

 心を壊していたが、領地で療養していたのだ。娘が断罪され、処刑されたことなど知らずに。

「怖い夢でも見たのかい?」

(夢……?)

 一体どちらが夢なのだろう。

 シルヴィアは混乱した。でも、こちらが現実だったらいいなと思った。

 その時、すっと右手から温もりが失われた。シルヴィアが視線を向けるとルークの大きな手が離されたところだった。

(え…もしかして今までずっと)

 手を、繋がれていたのだろうか。

 シルヴィアは狼狽えてルークを見ると、ルークは優しく微笑んだ。記憶にある彼より幾分身体の線も細く、顔立ちもまだ僅かに幼さを残していたが、優しい微笑みは変わらない。

「ご両親も来られたことだし、俺はこれで」

 席を立とうとするルークにシルヴィアは咄嗟にその手を掴んでいた。

「シルヴィア?」

 無意識の行動にシルヴィア自身が一番混乱した。

「あ、あの……」

 ただ、なんとなくこの手を離してしまうとあの断罪の場面を思い出してしまい、またあの悪夢に戻ってしまいそうで怖かったのだ。

「シルヴィ?怖いなら父さまが手を握っていてあげるよ」

 父が優しく諭すように言うが、シルヴィアは頭を振った。ルークは侯爵の表情が笑顔のまま凍り付いたことに気付いたが見なかったことにした。

「いや、いや……おねがい、ルーク…お兄さま……お側にいて」

 悪夢に怯えるように泣く少女の懇願を撥ね退けることなどルークには出来なかった。

「シルヴィア、側に居るから。安心してお休み」

 その言葉に安堵したのか、それとも泣き疲れたのか、シルヴィアは気絶するかのように眠りについた。



****


 断罪された世界でシルヴィアにとってルークは年の離れた従兄弟に過ぎなかった。

 父の姉の子に当たる彼は伯爵家の三男で、シルヴィアより十歳年上で、近衛騎士として働いていたためそれ程接点がなかったのだ。

 侯爵家の一人娘であるシルヴィアは八歳の時に第二王子と婚約し、王子が侯爵家に婿入りする予定だった。


 父親が亡くなったのは王子が婚約者となったことが遠因だった。

 侯爵家の力が増すことを恐れた政敵が放った暗殺者によって父は殺されたのだ。




***




 再び目覚めたシルヴィアは己の身体が六歳のままであることに安堵した。

 どういうことなのかはよくわからないが、もう二度とあの悪夢は見たくなかった。

(わたしはもう一度やり直しているの?それとも一晩で十六歳までの夢をみたの?)

 もしあれが正夢なら、シルヴィアの未来は断罪だ。恐怖が背筋を這い上る。

 シルヴィアは夢とは別の未来を掴むため、どうすれば良いか考えた。

(八歳で殿下と婚約した)

 絶対に嫌だ、と思った。

 王子は諸悪の根源だ。

 シルヴィアは父親が亡くなった頃からの記憶が曖昧だ。ショックが大きすぎて、母親程ではないがシルヴィアも相当な心の傷を抱え込んでいた。

 辛い時期を、王子はむしろシルヴィアを突き放した。

(辛かった……でも、あの時、誰かが側に居てくれた……)

 だからシルヴィアは心を失わずに済んだのだが。

(あれは……)

 シルヴィアが考えていると優しく頭を撫でられた。

「シルヴィア、よく眠れた?」

「!?」

 突然かけられた声にシルヴィアが驚いて振り向くと至近距離にルークの顔があって心臓が止まる程驚いた。

 ルークは後ろからシルヴィアを抱きしめるような格好で同じ寝台に横たわっていた。ルークは悪戯っ子のように微笑んだ。

「な、なんで」

「……シルヴィアがどうしても手を離してくれなくて、侯爵も仕方なくお許しになったんだよ」

 ただし、二人の間には沢山のクッションや枕を並べて、出来るだけルークは腕を伸ばしてシルヴィアから遠ざかるように、と厳命されていたが、いつの間にかシルヴィアがルークの腕の中に転がり込んでいたのだった。

 シルヴィアははっとしてシーツの中に包まっていた手を見ると、しっかりとルークの手と繋がれていた。

 慌ててパッと離す。

「あ、あの……」

「……シルヴィア。泣いたのか?」

 そっと目尻を拭われ、反射的に目を閉じた直後、ふわりと抱き寄せられた。

「……守るから」

 耳元で囁かれた言葉には子供をあやすにしては真摯な響きがあった。

 一瞬、ぎゅっと抱きしめられた気がしたが、すぐにその腕はシルヴィアを優しく包み込み、片腕であやすように背中にトントンとリズムを刻んだ。

「……どうして?……どうして、そんなに優しいの……?」

 従兄弟とはいえ、まともに対面したのはあの誕生日会が初めてだったはずだ。

「……助けて、と言われた気がしたんだよ」

「……え?」

 ルークの言葉の意味を問おうとシルヴィアが口を開きかけたその瞬間、音を立てて寝室の扉が開き、父の悲鳴が響き渡った。

「ルーク――!!シルヴィから離れるんだぁぁぁぁぁ!!」

 父の大声に反射的にびくりと身体が震えてシルヴィアは逆にルークにしがみついてしまった。それを見た父は絶望的な表情をした。

「し、シルヴィ――」

「侯爵、シルヴィアは怖い夢を見て魘されていたのです。もう少しだけ抱きしめさせてください」

「な、それなら私が」

 父が両腕を広げてシルヴィアを見つめるが、シルヴィアは何故かルークの腕の中が居心地がよく、離れがたかった。ちらりと上目遣いでルークを見上げると、ルークが視線に気付いて目を合わせた。

 ルークは安心させるように柔らかく微笑んでシルヴィアの頭を撫でた。

 その感触が心地良くてシルヴィアはうっとりと目を閉じた。

 十六歳のルークは既に背も高く、騎士団に所属して身体を鍛えている。大きな手は小さなシルヴィアにとって絶対的な安心感を与えてくれた。

「……守るってほんとう?」

 シルヴィアはルークの耳元に唇を寄せて小さな声で訊ねた。

「……本当だよ」

「ぜったい?」

「絶対」

 ルークも小声でシルヴィアに囁いた。

「シルヴィアが怖い夢を見ないように、守るよ」

 こつんとルークがシルヴィアの額に己の額を当てて、誓いを立てる。

 シルヴィアはこくりと頷いた。ルークのことなら信じられる。何故かすとんとそう感じたのだ。

「ルーク、私の目の前でシルヴィといちゃつくとはいい度胸だね…………」

 次の瞬間にはシルヴィアはがばりと横から掻っ攫われるように父の腕に抱きしめられていた。

「シルヴィ、シルヴィの一番大好きはお父さまだろう?」

「お父さま、いたい」

 ぎゅうぎゅう抱きしめられてシルヴィアは呻く。

 でも見上げた父の目尻には涙が滲んでいて、シルヴィアは絆された。

「お父さま、だいすき」

 ちゅっと頬に口付けると、とたんにご機嫌になるところも愛しい。



***


 ルークは騎士団に所属しているため、しょっちゅう会えるわけではない。実際、断罪された世界では、シルヴィアとルークはほとんど顔を合わせたことがなかった、王子の婚約者と護衛の近衛騎士として出会うまでは。


(あれ…?あの悪夢の世界で、ルークは六歳の誕生日会に来ていたっけ……?)

 覚えていない。シルヴィアは本家の娘なので恐らくルークも招かれていただろうが、幼い少女と青年では挨拶程度の付き合いだったのだろう。



 シルヴィアの六歳の誕生日会の為にルークは三日間の休暇をとって侯爵領へ来ていた。王都から侯爵領へは馬車で一日半かかる。馬を飛ばせば一日弱で行けるよ、とルークは笑って言ったが、シルヴィアが手を離さなかったためにルークは一晩侯爵領に留まることになってしまった。そしてすぐに出立しなければ仕事に間に合わない。


「また、来てくれる?」

「もちろん。ごめんな、ずっと側にいられなくて」


 シルヴィアは覚醒してからずっと手を繋いでいてくれたルークがいなくなってしまうことが怖くて涙目でルークに抱き付いてしまったが、この手を離さなければならないことは理解していた。

 それでも手を離したらまたあの悪夢に戻ってしまうのではないかと、恐怖が拭えない。


「すっかり懐いたわね……」

「いつの間に……ああ、でも可愛らしいわ」

 シルヴィアの母とルークの母が穏やかに微笑み合っている。幼い少女が親戚のお兄さんに懐くさまはひたすら微笑ましいの一言に尽きる、のだが。

「シルヴィ、ルークを困らせてはダメだろう?ほら、父さまが抱っこしてあげるから」

 約一名、ぐぐぐと歯を噛みしめ唸り声を上げて物凄い形相をしている大人がいた。



「シルヴィア。いつでも呼んで。直ぐに駆けつけるから」

 父に抱き上げられたシルヴィアと視線を合わせてルークは優しく微笑んだ。シルヴィアの心臓は恐怖に壊れそうなほど早くなっていたけれど、涙を堪えて頷いた。

(だいじょうぶ、一晩寝て起きても覚めなかったもの)



 その日の夜は両親に挟まれて親子三人並んで眠った。

 もう六歳になるというのに、こんな風に甘えたことはなかったが、両親は不安定なシルヴィアを心配して甘やかしてくれた。

 シルヴィアはもう二度と会えないと思っていた父と、正気の母に可愛がられて心底幸せを感じた。それでも、この幸せがいつか突然失われてしまうのではないかという恐怖は拭えなかった。


***



 シルヴィアは八歳になった。

 六歳で目覚めてから二年が経過した。その間、何度も悪夢に苛まれた。けれどその都度父母がシルヴィアを抱きしめてくれた。ルークも長期休暇の度にシルヴィアに会いに来てくれた。そのお陰でシルヴィアの精神は大分安定していた。悪夢は悪夢でしかないと漸く受け入れられたのだ。だがその名前を聞いて恐怖に背筋を凍らせた。



「ディートハルト殿下のお誕生日会……?」

 悪夢の中で婚約者となった第二王子。シルヴィアを破滅に導く人物。

 絶対に近寄りたくない相手だ。

「い、嫌………」

「シルヴィ?どうしたの?」

「行きたくない」

 ポロポロと大粒の涙を流して泣き始めた娘に母は困惑したが、シルヴィアが本気で怯えていることを見て取りそっと抱きしめた。

「何が怖いの?……シルヴィが魘されている夢に関係あるの?」

「!」

(お母さま……気付いて……)

「……このところずっと安定していたのに。貴女がそんなに怯えるのは六歳の誕生日会以来ね」

「シルヴィ!行きたくないなら行かなくていいのだぞ!」

 娘に激甘の侯爵はあっさりとシルヴィアの我儘を許した。

 この誕生日会では第二王子と同年代の令息令嬢が集められ、その中から王子の側近候補、婚約者候補が絞られて行く、一番初めの選抜パーティーだった。

 この日密かに採点され、合格した者が次のお茶会へと駒を進め、最後に残った者が側近あるいは婚約者となるのだ。

 基本的には招待状を受け取った男子はすべてに出席義務があるが、女子については家の方針や、既に婚約者のいる場合、王子の婚約者になることを望まなければ欠席しても構わないとされている。

 ほとんどの貴族にとって王家と縁続きになることは名誉であり、また金銭的な面でも優遇されるため敢えて欠席することはまずない。

 けれど侯爵にとっては娘の気持ちが第一だった。王子妃になることの誉れなどどうでもよいし、金銭的にも不自由していない侯爵家にとって王家との婚姻など制約が多いばかりで面倒だというのが本音だ。

 シルヴィアの一度目の生において彼女が王子妃となったのは、彼女が初めて王子と会った時に王子に対して無邪気に好意を抱いたからだった。

 王子は野心家だった。そしてシルヴィアの好意を敏感に嗅ぎ取り、渋る侯爵を唆して力ある侯爵家の後ろ盾を見事勝ち取ったのだった。




***


 

 シルヴィアは病弱の為、誕生日会は欠席するとの報告を受けてディートハルトはぎり、と奥歯を噛みしめた。

 侯爵家は自分と同じ年頃の娘を持つ貴族の中で一番上位だ。

 三つ年上の兄である王太子には王太子より二つ年上の公爵家の姫が妃候補として既に内定している。側近候補の子息は同年代に沢山いるが、令嬢は少なく、他は伯爵家に数人、後は子爵家と、かなり身分が下がってしまうのだ。

 一番有力候補と考えていたシルヴィアが戦線離脱と知ってディートハルトは苦虫を噛み潰したような気分だった。

(この僕に伯爵家程度の妻を娶れと?侯爵家だってギリギリの身分だと言うのに、冗談ではない)

 同じ年頃と言っても第二王子は十二歳、シルヴィアの四つ年上で、この年まで婚約者を選定しなかったのはほぼシルヴィアが成長するのを待っていた為といっても過言ではない。けれど理由が病弱では無理強いは出来なかった。病弱な妻では跡取りを設けることに不安があるためだ。


***



「ルークお兄さま!」

「シルヴィ、元気にしていた?」

 半年ぶりにルークが侯爵家を訪れた。シルヴィアは突然の訪問に驚きつつも満面の笑みでルークを出迎えた。

 シルヴィアにとってルークは大好きな兄のような存在となっていた。

 もう八歳になったというのに無邪気に駆け寄って抱き付いてもルークは嫌な顔もせず軽々とシルヴィアを抱き上げてくれた。

 シルヴィアは存分にルークに甘えた。

 ルークの腕の中は居心地が良すぎた。

「お兄さま、大好き!シルヴィはお兄さまと結婚するの」

「はは、俺もシルヴィが大好きだよ」

 子供の無邪気さを装ってシルヴィアはルークの首に抱き付く。

 ルークは妹に接するように優しくシルヴィアの頭を撫でてくれた。

 シルヴィアはルークがこんな子供の言葉を本気にするはずがないと分かっていた。それでいいと思っていた。

(ディートハルト殿下の婚約者にだけはなりたくないの)

 ルークに好きな人が出来るまでの間でいい。自分がもう少し大人になるまでの僅かな時間だけでいい。

 シルヴィアが無邪気にルークを慕っている間は彼女を溺愛する両親が無理に縁談を結ぶことはないだろう。

 その間に第二王子の婚約者が決まればいいと、シルヴィアは祈っていた。



***




「…………………………………………………………………………………………………」

「…………………………………………………………………………………………………」

 侯爵家の書斎にて、屋敷の主である侯爵とその甥っ子に当たるルークは先ほどから無言で相対していた。

 侯爵は苦悶の表情を浮かべて唇を噛みしめている。ルークはそんな侯爵が口を開くのを辛抱強く待っていた。



「………あなた、そろそろ観念なさっては?」

 同じく書斎にて侯爵の隣に座っていた侯爵夫人は優雅に紅茶を飲みながら、呆れた視線を彼女の夫に向けた。

「………!」

 侯爵は妻の言葉に弾かれたように肩を揺らし、縋るような視線を向けたが夫人は拒絶の笑みを浮かべた。

「…………っ、ルーク……ヴィ……の、……こ………しゃ……に」

 侯爵は妻に見捨てられそうになって焦りと絶望に苛まれ、苦し気に呻いた。

「はっきり仰って」

「……ルークをシルヴィの婚約者にと考えている!!文句あるか!!」

「いえ、光栄です」

 やけっぱちに叫んだ侯爵に、ルークはあっさりと頷いた。

「……!!いや、あの子はまだ八歳だ、婚約するといっても結婚は十年後で、その頃まで君、待てるのか?」

 あっさりと快諾したルークに侯爵は逆にたじろいだ。

「待ちますよ」

 にっこりと穏やかに微笑む青年に侯爵の頭が沸騰した。

「いや、本気で婚約する必要はない!あの子が幼い初恋を忘れる頃までで……」

「初恋ですか、それは嬉しいですね」

「……!!勘違いするな、あれは兄への憧憬のようなもので」

 娘を取られたくない侯爵は大人げなくルークに釘を刺す。

 侯爵家は一刻も早くシルヴィアの婚約者を決定する必要に迫られていた。

 ディートハルト第二王子がなかなか婚約者を決めないことに危機感を覚えていたのだ。

(あの王子はなんだかんだとシルヴィアとの接触を目論んでいる)

 

 王家からの茶会や夜会の招待はシルヴィアの病弱を名目に悉く断っている。婚約者選抜の第一関門すら欠席した。

 侯爵家は第二王子を後見する意志はないとはっきりと示した形だが、当の第二王子に諦める様子がない。

 シルヴィアが来られないなら自分が侯爵家に赴きたいと言ってくる始末だ。

 侯爵家の領地は王都からそこそこ遠い。馬車で片道一日半の距離である。王子が訪れるとなれば日帰りという訳にもいかない。数日は滞在することになる。何の理由もなしに王子が一侯爵家に数日滞在するなどと考える者はいない。必然的に様々な憶測を呼ぶ。

 侯爵家の姫が婚約者だと決定したと思われてもおかしくない事態である。


 王子よりも先にシルヴィアの婚約者を決めてしまうことが望ましい。

 シルヴィアは侯爵家の一人娘だ。親族から婿を選ぶのは至極もっともな選択だった。何故ならシルヴィアは「病弱」という建前を使っていたからだ。

 病弱の娘では跡継ぎを産めないかもしれない。侯爵家には他に年頃の娘はおらず、婿が他家の者では、その愛妾に産ませた子は侯爵家の血を継げない。


 侯爵夫妻は病弱で長生き出来ない(かもしれない)娘のために、彼女が好いている憧れの青年に婚約者役をお願いしたのだ、という態でシルヴィアの婚約を押し進めた。婚約者の青年もシルヴィアを妹のように可愛がっており、大切にしているとの触れ込みと共に。

 王子が付け入る隙が無い程素早くその美談は社交界に知れ渡る。

 近衛騎士として出仕していたルークも可愛い婚約者のために近衛を辞して侯爵家の領主後継者となることを決め、近々屋敷に引っ越してくることになった。


***



 当のシルヴィアがそのことを知ったのはルークが屋敷に引っ越してきた当日だった。

 愛娘の婚約を認めたくない父侯爵が重い口をなかなか開かなかったためだ。


「ルークお兄さまがシルヴィの婚約者になるって本当!?」

 引っ越してきた割には馬車一台分の荷だけで現れたルークの元へシルヴィアが可愛らしい足音を響かせて駆け寄る。

「本当だよ、俺のお姫さま」

 ルークはシルヴィアを抱き上げて片腕に座らせると、柔らかなその頬に軽く口付けた。

「だからもう、『お兄さま』は卒業。いいね?」

「……‼」

 途端にシルヴィアの白い頬が真っ赤に染まる。ルークが返事を待つようにシルヴィアの瞳をじっと見つめると、シルヴィアは小さくこくんと頷いた。

 シルヴィアはゆるく波打つ白金の髪に極上のサファイアのような深い青色の瞳の美しい少女だ。

 シルヴィアを抱き上げているルークも派手さはないが端正な顔立ちの青年だ。その上近衛騎士として鍛えていただけあって、細身に見えるがしっかりと筋肉のついた引き締まった身体付きのため、見映えがいい。

 使用人たちは二人の姿に、一幅の絵画のようだとうっとりと魅入った。


 シルヴィアは嬉しそうにくしゃっと相好を崩してルークの首に抱き付いた。

「それならルーク、はシルヴィの王子様ね」

 恥ずかしそうにルーク、と言うシルヴィアにルークは優しく微笑んだ。



 シルヴィアにとってその婚約は幸せなおまま事のようなものだった。

 いつかルークは年の近い素敵な女性と本物の結婚をするのだろう。自分との婚約は王家からの打診を断るための偽装。

 それでもシルヴィアにとっては夢のように幸せな時間だった。

 ルークはシルヴィアを大切にしてくれた。幼い少女の為に誰もが憧れる婚約者を演じてくれた。


「お手をどうぞ、お姫さま」

 領地で開かれるティーパーティーでは必ずエスコートしてくれる。子ども扱いせず、きちんとレディとして扱ってくれるのだ。

まだ幼いシルヴィアは夜会には参加しないが、ルークはシルヴィアの参加しない会には同伴者を伴わずに一人で出席した。

「シルヴィ以外の女性をエスコートするつもりはないよ」

 指先に軽く口付けられて甘く微笑まれてシルヴィアは身体中を真っ赤に染めた。


 九歳になると、領内のお勉強と称して二人で町へ下りることを許可された。

 迷子になるといけないからと、ルークにしっかりと指と指を絡めて手を繋がれ、繁華街をそぞろ歩く。

 石畳の綺麗に舗装された商店街は所々街路樹が聳え、柔らかな木陰が点在している。商店の二階の窓には揃いの花の鉢が並べられ、華やかだ。

「ルーク、ルーク、綺麗ね!」

 はしゃぐシルヴィアを見つめるルークの眼差しは柔らかく甘やかだ。

 今日のシルヴィアの恰好は動きやすい膝丈の若草色のドレスだ。髪には同じ布のリボンを飾っている。

 生き生きと表情を輝かせているシルヴィアは控えめに言っても天使かというくらい可愛い。

 ルークはシルヴィアが攫われてしまうのではないかと気が気ではない。一応少し離れて護衛が二人付いているが、さり気なく少女の身体を自身に引き寄せた。本当は抱き上げて運びたいが、一人前のレディにそれは出来ない。

 シルヴィアがショコラ店の店先で足を止めた。ショウウィンドウに飾られている宝石のように美しいショコラの数々に目が釘づけだ。

「気になる?」

 ルークは微笑んでシルヴィアを店内に誘った。店内は明かりを絞り全体的にダークチョコレート色で統一され重厚で大人っぽい雰囲気を漂わせているが、長い歴史を刻む侯爵邸に住むシルヴィアにとってはまだ新しいその店はテーブルもショーケースも壁も床もピカピカと眩しく感じるくらいだった。

 ルークは店内のショーケースの中に並ぶショコラを眺めて、シルヴィアの熱い視線が止まっているショコラを注文し、その場でシルヴィアに与えた。

「シルヴィ、あーん」

「あーん…?」

 よくわからずに開いた口にショコラを押し込まれ、反射的にぱくりと食べて、シルヴィアは瞳を輝かせる。

(美味しい……!!)

 思わず頬を押さえて幸せそうにもぐもぐしている美少女の姿に店員や客の視線が集中し、店内が微笑ましい空気に包まれた。


 ルークはお土産にシルヴィアへ30粒入りのショコラを贈ってくれた。全部違う味だ。

「ルークありがとう、大好き」

 極上の宝石のような青い瞳を潤ませて頬を染めるシルヴィアは抱きしめたくなるほど可愛らしい。

 ルークは我慢出来なくてシルヴィアを抱き上げた。

「ルーク!?」

 びっくりしているシルヴィアのこめかみに口付けて、髪を梳く。

「シルヴィが可愛すぎて誘拐されるんじゃないかと心配だ。俺の精神安定のためにもこの腕の中に居て」

「……!!」

 婚約者が過保護過ぎる。

 シルヴィアは恥ずかしさとむず痒さでルークの肩に顔を伏せた。


 その日、ルークはずっとシルヴィアを抱えたままだった。

 その後も二人で街へ出かける時は大抵ルークがシルヴィアを抱えて行くこととなる。

 その光景は領地の民にとって微笑ましく、領民は次期領主夫妻を好ましく思い、温かく見守るのだった。


 ルークはシルヴィアの誕生日には必ず黒に近い青のサファイアをあしらったアクセサリーを贈ってくれた。

「これはシルヴィの色ではなく、俺の色だよ」と言って。

 ルークの瞳の色の装飾品は必ず毎日どれかを付けて、とお願いされている。そのため、誕生日に贈られるアクセサリーは普段使いしやすい可愛らしいデザインの物が多い。

 シルヴィアは毎日髪飾りか首飾り、耳飾りを付けた。


 誕生日以外に贈るアクセサリーは色鮮やかな様々な宝石をあしらったものだった。

 様々な色の小さな宝石を花束のように束ねた可愛らしい首飾りを、シルヴィアを膝の上に向い合せに座らせた状態で首の後ろに腕を回して付けてくれた。

「うん、可愛い」

 シルヴィアはドクドクと高鳴る胸を押さえて平常心を保とうと必死だった。

 ルークが優しすぎて辛い。

 シルヴィアは十一歳になった。

 とはいえ、ルークから見ればまだまだ子供だろうに、彼は婚約者として完璧だった。

 シルヴィアをとても大事にしてくれている。

(好きになっちゃったらどうしよう)

 シルヴィアの中で、相変わらずルークは仮初の婚約者だった。

 第二王子の婚約者が決まるまでの隠れ蓑。

 ルークが本物の婚約者ならいいのに、と思ってしまう。けれどこんな子供が相手ではルークが可哀想だし、ルークが子供を本気で婚約者と考えるはずがないと分かっていた。

 そう考える度につきんと胸の奥が痛むけれど、気付かない振りをする。

 少しでもこの時間が長く続けばいい、それだけを願って。



 長らく暗礁に乗り上げていた第二王子の婚約者が決まった。

 隣国の王女だという。

 その報を聞いて、シルヴィアは目の前が真っ暗になる気がした。


(ついに、夢が終わる時が来たのね)


 第二王子の婚約者が決まるまでの間はルークが婚約者でいてくれる。

 だがそれも終わりを告げる。

 シルヴィアはもうすぐ十二歳になる。ルークは既に二十二歳だ。シルヴィアはまだ結婚できる年齢ではない。あと少なくとも四年はルークを待たせることになる。

(解放しなくてはいけないのだわ)

 考えただけで涙が溢れた。

(わたし、いつの間にかこんなにもルークのことを――)

 涙が止まらないシルヴィアはその晩、夕食を食べなかった。


「シルヴィ?具合が悪いと聞いたけど」

 部屋を訪ねたルークに「何でもない」と扉越しに返したが、それでルークが納得するはずもなかった。

 問答無用で部屋に足を踏み入れたルークは、長椅子に座って静かに涙を流すシルヴィアに虚を突かれた。

「…………シルヴィ、どうして泣いているの?」

 心配そうに眉を寄せて素早く近付いて来るルークに、シルヴィアは涙を隠す暇もなく抱き上げられ膝の上に収まっていた。

 背中を優しく撫でられ、こつんと額と額が合わさってルークの落ち着いた声が身体に響く。

「シルヴィ?そんな風に一人で泣かないで」

 優しくされたらもうダメだった。シルヴィアは耐えきれずにルークに抱き付いて泣いた。

「ルーク、だいすき」

「シルヴィ?俺もシルヴィが大好きだよ」

 ルークの腕がぎゅっとシルヴィアを抱きしめた。

 ルークが優しく微笑む気配がした。ルークの大きな手がシルヴィアの柔らかな髪を撫でる。

「何を不安になっている?シルヴィ、もう第二王子の婚約者になる心配はないんだ。怖がることは何もないだろう?」

「……でもっ……ルークお兄さまは…」

「……お兄さま?」

 不意に声に不穏な響きが混じって、くいっとシルヴィアの顎が上向かされた。

「その呼び方は卒業と言ったはずだが?」

「………!?」

 初めて見るルークの少し怖い表情にシルヴィアの涙がぴたりと止まる。

 シルヴィアの瞳に少しの怯えを見て取ってルークは直ぐに表情を緩めた。ゆっくりとシルヴィアの強張りを解すように頬を撫でる。

「……シルヴィ。何が怖い?なんでも言ってほしい」

 シルヴィアの薔薇色の頬に流れた涙の痕を拭うようにルークは無意識にシルヴィアの目尻から頬へ口付けていた。

 ちゅ、ちゅと微かな音を立てて、繰り返される甘やかな行為にシルヴィアの顔が朱に染まる。

「ル、ルーク!」

 小さな悲鳴にルークがはっとして我に返ると、目尻に新たな涙を溜めて首まで真っ赤に染めて睨み付けているシルヴィアと目が合った。

 可愛いシルヴィアには刺激が強すぎたようだ。やり過ぎた、と気付いたが睨み付けてくるシルヴィアがあまりにも愛らしくてルークは口元を押さえた。

 押さえていないとまたキスをしてしまいそうだった。

「……シルヴィが一人で泣くのがいけないんだよ」

 拗ねたようなルークの声音にシルヴィアが瞬きする。

「悩みを打ち明けられない程俺は頼りない?」

「ちが…!」

「可愛い婚約者が泣いていたら俺も辛い。どんなことでも受け止めるから、話して欲しい」

 ルークの瞳があまりにも優しくて、シルヴィアは陥落した。



「……あのね、ずっと……いつかルークは他の人と結婚するのだと思ってたの……」

(………………………………………………………は?)




 たどたどしいながらも一生懸命話すシルヴィアの話を聞いてルークは天を仰いだ。


「………つまり。シルヴィには俺の愛が全っっっく伝わっていなかったということだね」

「……あ、愛…!?」

「……我慢していたことが裏目に出たということか……」

「あ、あの」

「――シルヴィア」

 愛という言葉に動揺するシルヴィアの頬に掌が当てられ顔を固定され、至近距離からルークの藍色の瞳に見つめられ、シルヴィアの心臓が止まった。

「愛している」

「――!!」

 ドクッと大きく心臓が鳴ったと同時に唇に温かい物が押し当てられ、再度心臓が止まった。

 ちゅ、と音を立てて一度離れたそれは角度を変えてもう一度シルヴィアの唇を覆う。

「……」

 シルヴィアは頭が沸騰するのではないかと言うほど熱が上がるのを感じると同時に意識を失った。










 誰がどう見ても溺愛しているとしか言えないルークの愛情表現が当のシルヴィアには欠片も伝わっていなかったという事実に屋敷中の使用人は戦慄した。

 そのため、その後の溝(?)を埋めるべくルークの溺愛がエスカレートするのを屋敷中で応援することになるのだった。


 侯爵が朝不在の際の食堂では、膝に座らせたシルヴィアにルークが給餌するのは当たり前だったし、朝晩の挨拶で今までは頬に軽く口付けるだけだったものが唇を啄むようなものに進化していたことも見て見ぬ振りをした。その度にシルヴィアは気絶していたが。

(お嬢さまにはそのくらいしないと伝わらないものね……)

 執務の休憩時間にはシルヴィアの部屋へすっ飛んで行き、抱き上げて長椅子に座ってじっとシルヴィアを見つめる。シルヴィアが恥ずかしさのあまり目を逸らそうとすると、顎を固定して逸らすことを許さず、「逸らしたらお仕置き」と言って唇に触れるだけの口付けを落とす。

 時折切なげに瞳を細めて「早く結婚したい」と囁かれて、シルヴィアは気絶しそうになった。最近は漸く気絶せずにいられるようになった。それでも心臓が壊れそうなほどドキドキして、くらくらする。

「も、もうわかったから―!」

「シルヴィ、愛している。シルヴィは?」

「……っ、だ……、だいすき……」

 顔を真っ赤に染めて息も絶え絶えに告白するシルヴィアにルークは破顔する。

「可愛い、シルヴィ」

「………っ!」


 その後。

 シルヴィアが十三歳で初潮を迎えるや否や、ルークはシルヴィアが十四歳になったら結婚したいと侯爵に申し出て侯爵に大反対されるも、なんとか十五歳での結婚をもぎ取り、十四歳になると同時にシルヴィアを少しずつ慣らすためと称して同衾するようになり、十五歳で結婚した後は片時も離さない溺愛ぶりで、末永く仲良く幸せに暮らしたのだった。







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