旧校舎 【月夜譚No.13】
旧校舎に伝わる噂は、強ち嘘でもないと思う。火のないところに煙は立たない。とはいえ何の根拠もないわけだから、友人に何とはなしに話してみたところ、それじゃあ本当なのかどうか確かめに行こうということになってしまった。
放課後の旧校舎は夕日に照らされて茜色に染まり、ただでさえ古い建物が更に年月を経たように見える。そして彼等を待っていたかのように、屋根に留まった烏が一声響かせた。
先頭を歩く少女がスカートの裾を翻して、すたすたと旧校舎の中に入っていく。烏を見上げていた少年は溜息を吐いてその後に続いた。
当然のことながら旧校舎に用事などあった試しがなかった為、足を踏み入れるのは初めてだ。外から見るより中は暗く、灯りが必要な程ではないが少しでも明るい物があればほっとできるだろう。廊下の床は今にも踏み抜きそうに腐敗し、くすんだ窓硝子は少しの風でも音を立てる。教室を覗くと机や椅子は後ろに追いやられて、そこここで蜘蛛が住処を張っていた。
正直、噂の真偽はどうでも良いから早くこの埃っぽい場所から出ていきたい。が、連れはそんな意見に聞く耳を持つような人間ではない。怖いもの知らずなのか、考えなしなのか。彼は本日二回目の溜息を吐き出すと、自分より小さな背中を追いかけるように歩みを再開させた。