同窓会
「瑞希のこと覚えてる?」
飲みはじめて一時間、場に酔いも行き渡った頃合いだった。七恵の唐突な呟きに、私たちは言葉に詰まった。個室の外の喧騒が遠く聞こえてくる。その明るさが場違いに聞こえても、むしろこの瞬間場違いになったのは私たちの方だ。
「ああ……うん、そりゃあ」
「忘れられないでしょ、あれは」
「本当に? 今言われるまで忘れてたんじゃない?」
気まずく顔を見合わせる私たちに、責めてるわけじゃないよ、と、ハイボールを置いた七恵はゆらゆらと片手を振る。
進学、就職を経て随分久しぶりに集まる面々だったが、中学生の頃は仲のよいグループだったのだ。七恵も私も含めてここに集まった四人、いや、皆川瑞希もその輪にいたはずだった。
誤魔化すよりも認めるべきだと思った。
「てことは、七恵はちゃんと覚えてたんだね」
「違うよ。私も一緒。こないだまで忘れてたの。思い出すまで忘れてた」
四人の中で七恵だけは、地元を離れて街に就職していた。一週間ほど前に、大きな駅の人混みの中で、ふとひとりの女の子が目に留まったのだという。あの頃の私たちと同じくらいの年格好、もちろん制服ははじめて見るもので、見ず知らずの子だった。けれどそれをきっかけに、記憶の引き出しが開いたそうだ。不自然なほど固く閉じていた引き出しが。
「でもあんなこと忘れる?」
「まだ見つかってないんだよね、確か」
自然に声が低くなる。
中学校卒業を間近に控えて、瑞希はいなくなった。
不吉な話題から目を逸らすように、少し、話題がずれる。忘れていたことを自分たちの生活に言い訳して、また、ずれが大きくなる。今まで彼女のことを話題にしなかったのと同じように、彼女の姿は輪の中から遠ざかる。
またどこかで、どっと笑い声が上がる。それをぼんやりと聞きながら、私は瑞希がいなくなる前、見かけた背中を思い出していた。
足元に何か、小さな動物がいた気がしたのだ。それは繋がれるでもなく、逃げるでもなく、隣を歩く瑞希と視線を交わしていて、そして私は、また瑞希のことを思い出せなくなっていく。