第5話 決断
この時、南風と共に左に舵を切り退避した駆逐艦キャメルはアムロイ艦の反撃により撃沈されていた。そのため、位置的にアムロイ艦とCー1コロニー群の12号コロニーとの間に存在する地球連邦軍の戦力は雷撃が出来ない旧型駆逐艦の南風ただ一隻という状態になっていた。
「雷撃戦用意だ。」
「艦長、本艦は魚雷発射管が使用出来ませんが?」
「雷撃する振りだけでいい。敵はコッチが魚雷撃てないなんて知らんだろ。敵からの旗艦への注意をこちらにそらすんだ。」
「…了解しました。」
南風がアムロイ艦に対し、ほぼ正面からの雷撃態勢に入ると、それに呼応するように、アムロイ艦の後方から旗艦木枯と駆逐艦ダナンが雷撃を開始した。
木枯とダナン、二隻による合計24発の魚雷が発射された。アムロイ艦は最大戦速で航行中であり、また、今までの戦闘による損傷で防御力が低下していたため魚雷を迎撃仕切れず、二発の魚雷が命中した。
魚雷はアムロイ艦の艦橋付近に命中したため、アムロイ艦は指揮系統を失い、そのままの推力を維持した状態で12号コロニーに向かって進み続ける。
友雄は雷撃による火球から現れたアムロイ艦を見た。右舷の副構造体は半壊し、艦橋は破壊されて存在していなかった。そして、木枯とダナンが魚雷を撃ち尽くした今、アムロイ艦の衝突から12号コロニーを守る方法が最早一つしかない事を友雄は悟る。
「皆、聞いてくれ。我々では敵艦を仕留め切れなかった。このままでは敵艦がコロニーに衝突するのは時間の問題だ。そして、事此処に至っては敵艦からコロニーを守る方法は一つしかない。」
「艦長、回りくどいですよ。状況は理解してます。」
「そうですよ、艦長。アム公どもに地球人の心意気って奴を見せてやりましょうよ。」
砲雷長と通信士はそう言うと、なあみんな、とばかりに艦橋内を見回し、副長、機関長、航海長も深く頷いた。
友雄は皆が同じ認識である事を確認し、これからの自分の行動についても理解が得られると安心して下命する。
「よろしい。では、ここは俺に任せろ。総員退艦せよ。副長、退艦の指揮をとれ。」
「艦長、お言葉ですが、俺は残ります。本艦は基本、動かすだけなら艦長一人でも可能ですが、動かすだけです。本艦を敵艦にぶつけるのなら機関長たる俺が居なけりゃ無駄死にです。」
「同じく自分も残ります。魚雷もぶつけりゃ爆発するってもんじゃないんですよ。」
「あ〜、もう、俺も残りますよ。理由は機関長と同じです。艦長一人じゃ無理ですよ。」
機関長、砲雷長、航海長が抗命して残留を宣言した。彼等の言う事はもっともであり、もう彼等を説得する時間は無い。
「すまない、みんな。副長、退艦指揮を頼む。」
「…了解しました。ご武運を。」
副長は敬礼すると、退艦指揮に取り掛かるため退室し、機関長、砲雷長、航海長は早速特別攻撃の準備に取り掛かった。
「通信士、君も急げ。時間が無いぞ。」
大学で奨学金のため予備士官養成課程を受講し、二年間の短期現役士官として軍務に就いたばかりの通信士は泣きそうな顔をしていた。
「なんて顔してるんだ。戦争はまだ始まったばかりだ。お前は生きて地球のために戦ってくれ。」
「艦長…」
通信士は立ち上がり直立不動の姿勢を執ると、挙手の敬礼をして退室した。
「よし、それではこれより本艦は12号コロニー防衛のため敵艦に突撃を敢行する。機関長、最大戦速。航海長、操艦任せる。砲雷長は魚雷起爆のタイミングを確実にしろ。」
「「「了解。」」」
友雄は最後の命令を下し、救命艇の脱出を確認すると、旗艦木枯の艦長と、宇宙艦隊司令部宛に電文を平文で一通送った。そして、迫り来るアムロイ艦を見据えながら、妻と二人の娘に「ごめんな」と呟いた。
臨時戦隊の旗艦となった駆逐艦木枯の艦長西村少佐は、12号コロニーにアムロイ艦が衝突せんとする事実に絶望していた。魚雷を撃ち尽くした自分達には、最早それを止める術は無かった。
(このまま、ただ敵艦の体当りによる虐殺を見ているしかないのか)
だがその時、通信士から報告が上がった。
「艦長、南風から電文を受信しました。」
「こんな時に何の報告だ。」
西村は腹立たしく思ったが、通信士に読み上げさせた。
「宛、宇宙艦隊司令部及び駆逐艦木枯艦長。" 我等コレヨリ地球連邦軍人ノ本分ヲ尽クサントス。地球ヲ頼ム、サラバ "以上です。」
「何だと!」
西村は顔も知らない南風艦長の意図を瞬時に理解した。
木枯の艦橋内は通信士が読み上げた南風からの電文により重苦しい空気に支配されたが、他でもない通信士によりそれは破られた。
「艦長、南風は敵艦に」
だが、西村は通信士に皆まで言わせなかった。
「わかっとる。わかっとるから、何も言うな。」
木枯の艦橋内では、西村を始めとする艦橋員全員が固唾を飲んで南風を見守っていた。そして、南風の体当りと自爆によりアムロイ艦が大爆発を起こして撃沈されると、全員が起立して南風に対して敬礼をしたのだった。
「艦長、救助信号を受信しました。南風の救命艇です。」
「救助急げ。丁重にだぞ。」
こうして、Cー1コロニー群防衛戦は終わり、臨時戦隊はその戦力の半数以上を失いながらも、その目的を完遂した。
お読み下さり、有難う御座います。今回でこの話は終了となりますが、時期を見て続きである『朝倉家の戦争 女達の戦い(仮)』 を投入したいと思います。引き続き、よろしくお願いします。