第3話 戦闘開始
事実は南風艦橋メンバーの推測通りの展開となっていた。地球圏へと侵攻するアムロイの主力艦隊と、それを迎え撃つ地球連邦軍の連合艦隊は未だ互いに会敵していなかった。
その同時期、アムロイの主力艦隊とは別方向から地球圏へと接近する未確認の艦隊が地球連邦軍の警戒網により察知された。
その艦隊は、警戒衛星を破壊しながら地球圏へと接近しつつあり、地球連邦軍宇宙艦隊司令部は直ちに地球圏内に残存する艦隊から偵察任務群を抽出派遣した。その後、偵察任務群は、接近しつつある未確認の艦隊について、詳細情報を月にある宇宙艦隊司令部に打電後、連絡を絶った。
偵察任務群の詳細情報により、地球圏に接近する未確認の艦隊がアムロイの別働隊である事が確認された。その大まかな陣容は、一隻の戦艦と思われる大型艦を中心とした、大小の艦艇合わせて約300隻からなり、地球連邦軍は直ちに地球圏防衛システムによる迎撃を開始する。
アムロイ別働艦隊は、その進行方向に移動した地球圏防衛システムの第一段階である三機の大口径強威力長距離レーザー砲の、三方向からの十字砲火により、その約2/3が消滅した。
しかし、生き残った約1/3の艦艇が地球圏内へと侵入する事に成功し、地球圏防衛システムの第ニ段階である近距離レーザー攻撃が開始される。
地球圏内の攻撃衛星、月面基地、宇宙要塞、スペースコロニーからアムロイの別働艦隊に向けてレーザービームが放射された。幾筋ものレーザービームを地球圏内に展開した無数のリフレクター衛星が反射し、あらゆる方向からアムロイの別働艦隊に襲いかかった。やがて旗艦の大型戦艦を残して全滅したが、満身創痍となりながらもアムロイ別働艦隊の旗艦は、地球圏の内懐へと侵入して行った。
駆逐艦南風を含むNー735宙域で合流した駆逐艦5隻は、その中の駆逐艦木枯を旗艦とする臨時戦隊に編成され、Cー1コロニー群防衛の任に就く。
そして、臨時戦隊は編成早々に地球圏防衛システムの迎撃から唯一生き残ったアムロイの大型戦艦の接近を探知したのだった。
臨時戦隊に宇宙艦隊司令部からアムロイ艦迎撃が下命された。最大戦速でアムロイの戦艦に接近しつつある南風の艦橋では、初めての実戦、しかも異星人との戦闘を前にして緊張感に包まれていた。
「やる事は決まっている。旗艦からの命令があり次第、航海長が舳先を敵艦に向け、機関長がエンジン吹かして、砲雷長が魚雷をぶっ放す。そして、航海長がターンしてズラかる、それだけだ。気楽に行こう。」
「「「「「………」」」」」
(あれ?)
部下の緊張を解そうとした友雄だったが、それに笑う者は居なかった。しかし、ベテランである機関長が、彼の意図を汲んでくれたようだった。
「それで、艦長は部下達が仕事している間、何をなさるんで?」
友雄は機関長の好意に感謝しつつ、「そうだな」と少し考える仕草をする。
「まあ、地球圏内で異星人に人類史上初めて雷撃した艦長の一人になる訳だから、自叙伝に書く格好いい文章でも考えるさ。」
今度こそ、艦橋内に笑いが広がった。
(気分転換はこれでよし、と)
友雄がそう考えていると、通信士から報告が上がった。
「艦長、旗艦より入電。敵艦に対し、全艦凸隊形にて雷撃戦を用意せよ。以上です。」
「旗艦に了解と伝えろ。」
「了解。」
(いよいよか。まさか俺が先陣を切るとは思わなかったな。)
心の中でそう呟きながら、友雄は緊張から奥歯を強く噛み締めていた。
そして、臨時戦隊の先制攻撃により、戦闘が開始された。
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