第2話 艦隊集結へ
「艦長、宇宙艦隊司令部から入電です。」
通信士が報告を上げた。
「読みあげてくれ。」
「了解。宛、駆逐艦南風艦長。駆逐艦南風は直ちにNー735宙域に向かい友軍艦艇と合流し、駆逐艦木枯を旗艦とする艦隊を編成、Cー1コロニー群を防衛せよ。以上です。」
通信士の報告により、艦橋内は俄かに緊張感に包まれた。南風に下されていた命令はNー1コロニー群の防衛だった。それが、おそらくは南風同様に集められた艦艇群で臨時編成による艦隊を組み、Cー1コロニー群を防衛しろ、と命令が変更されたのだ。発信者の表情など見られないが、その文面からも焦りのようなものを感じる。
「艦長、どういう事でしょうか?迎撃に向かった連合艦隊は一体…」
「どうやら裏を掻かれたようだな。」
「?」
まだ若い通信士は、状況を把握出来ていないようで、何やら釈然としない表情をしている。
「本艦が予定変更してまでCー1コロニー群に向かうのは何故だと思う?」
艦長である友雄の手を煩わせる前に、すかさず副長が通信士に状況説明を始めた。
「Cー1コロニー群に何らかの問題が起こったからでしょうか?」
「そうだ。では、戦時下で起こった問題とは何だ?」
「戦時下で……敵襲ですか!」
「そういう事だ。」
娑婆では中学校で数学を教えているという30歳代のハンサムな副長は、教育者らしく、通信士が自ら回答に到達出来るよう、誘導と説明を合わせて行った。この副長はきっと教育現場でも有能で、生徒にも人気のある教師なのだろう。
「引っ掛かったんだよ、参謀本部は。正面から迫る敵さんは囮ってわけだな。」
航海長が混ぜっ返すように補足した。
「しかし、地球圏防衛システムがあるじゃないですか?」
地球圏防衛システムとは、外惑星系より侵攻して来る敵対勢力から地球圏を防衛するシステムである。
概要として、この防衛システムは、シリンダー型の大口径強威力長距離レーザー砲による長距離からの攻撃と、この攻撃を突破して月軌道の内側に侵入した敵対勢力に対する、地球圏内のあらゆるレーザー砲を駆使しての近接防御の二段階から成る。
特徴として、大口径強威力長距離レーザー砲には地球圏内の電力供給網からスマートグリッドによりエネルギーが供給される。また、地球圏内に無数に展開しているリフレクター衛星が、スペースコロニーや宇宙基地からのレーザービームを何段階にも反射させ、同時に複数の標的に死角無く攻撃が可能である。謂わば、地球圏の全てをエネルギー供給源とし、兵器とするシステムと言える。
これらは、国防技術開発本部の関 徹大佐とオットー シュルツ大佐の発案により開発、配備され、大口径強威力長距離レーザー砲を、開発した関 徹大佐に因み、誰からともなく徹ハンマーと呼ぶようになっていた。
「それも突破されたか、無力化されたかしたんじゃないか?だから参謀本部も焦ってヤバイ方面に使えそうな戦力を掻き集めているんだよ。」
「「「「……」」」」
航海長の言い方は褒められたものではなかったが、ほぼ正鵠を射ていた。
艦橋内には重苦しい空気が漂い始めていた。
「どんな兵器であれ、所詮は人が作ったものだ。絶対や完璧なんてものは無いさ。今までのやり取りも飽くまで予想だ。行ってみなければわからんよ。それでは仕切り直しといこう。第一戦闘配備だ。Nー735宙域へ進路変更。最大戦速。」
「了解、最大戦速。」
友雄は、情報不足で状況がはっきりしない中、下命に従い南風をNー735宙域へと向かわせた。
読んで下さり、有難う御座います。