規格外な遊び人
なろうに、初投稿なので、キーワードが違うかもしれない(^^;;
目の前で、勇者が魔王へ最後の一撃を放った。魔王が光の粒子に分解されていき、勇者パーティーは魔王の討伐に成功した。
セントラル王国の王子である勇者、鮮やかな緑髪をなびかせるハイエルフである賢者、盾役をこなし続けた騎士…そして、僕…
遊び人である僕の役割は、囮になること。これって結構重要らしい。騎士への攻撃を減らし、勇者と賢者への攻撃機会を失わせないこと、これが僕の任務であった。
長かった魔王討伐の旅が終わり、凱旋パレードをしながら、城へと帰る三名。僕はこっそりとパレードから抜け出し、彼らの勇姿を群衆と共に見守っている。この後、王子と元カノである賢者の結婚織が行われるだろうから。そんな物…僕としては見たかない。ちっぽけな僕のプライドの問題であるのだ。
◇
あれから幾月か流れ、新たな魔王と新たなる勇者パーティーが戦っている。僕の目の前には、愚かな神が青白い顔で震えていた。
「どういうことかな?」
僕の問い…
「適材適所で召喚した結果だよ。なぁ、今までに無く、ドラマチックだと思わないか?」
魔王である女性…その目の前には彼女の兄だった勇者が、驚愕な表情をしている。召喚する直前まで、二人は愛し合う行為をしていたそうだ。それなのに、こんなオチって…
「義兄さん…どうして?」
「俺にもわからない。なんで、お前が魔王なんだ…」
血の繋がらない兄妹を召喚し、魔王と勇者に仕立てた神。何がドラマチックなんだ?これのどこに救いがあるのだ?僕には分からない。取り敢えず、目の前の愚かな神をミンチにして、彼らの行く末を見守る。
兄が妹に抱きつき、全身が燃え始めた。勇者とは言え、人間が魔王に触れれば、オーラ濃度の違いで、燃えてしまう。
「義兄さん…殺して」
「わかった」
聖剣を魔王の背中に突き刺し、自分の背中まで貫通させた勇者。魔王は聖剣の力で灰になっていく。勇者は魔王のオーラで燃えて炭化し、やはり灰になっていく。
やがて、二人は完全に灰となり、灰の山の上で踊る様に飛び廻るの2つの魂となった。僕はそれらを優しく抱き締め、器に収めた。
◇
夢うつつでベッドで寝ていると、息子であるシャーロックが僕を揺すっていた。
「父さん、ハイエルフの女性が訪ねて来たよ。どこで、引っ掛けたんだ?」
ハイエルフ?ナンパした覚えは無い。僕はエルフ系が苦手であるから。
「品行方正…娼館でしか遊んでいないけど…」
娼館にはエルフ系は居ない。主に、アマゾネスか人間である。
「お父さん…お父さんの娘って名乗っているけど…」
困った顔をしている娘であるアルセーヌ。
「娘はアルだけだ。なんかの間違いだろ?」
アルとシャーに抱きかかえられて、客間に連行される僕。寝間着なんだけど…全裸で無い
から、問題無い?じゃ、いいか。
客間には、あの時の彼女がいた。あり得ない。あれから、随分と経ち、尚且つ、あれから
若返っているように見える彼女。
「ジュノン?」
元カノの愛称で呼んでみた。
「そうです。お父様…会いたかったです」
見知らぬハイエルフの娘が、僕に抱きついて来た。う~ん…知り合った頃の彼女ソックリ
である。彼女の娘であるのは間違い無いのだろう。だが、僕は彼女とやっていない。アイ
ツは王子と結婚したはずである。
「お前の父親は王子だろ?いや、王になったか」
「あぁ、育ての父は既に他界しております」
人間の寿命って、50年くらいだっけ?
「お前、王女で無いのか?」
「人間と同じ土俵には、いられません。何しろ寿命が違うから…私、王位継承権無いんですよ」
笑顔のジュノン。元カノのジュリアーノは、自分の愛称を娘に相続させたようだ。
「現在、育ての父は、英霊となって、母の従属になっています」
勇者が死ぬと英霊になるのか…で、元ダンと従属契約か…
「はっきりさせようか。僕はお前の母親とはやっていない」
「お父様って爆睡派ですよね?」
小悪魔調の笑顔を浮かべるジュノン。なんか、嫌な予感がする。爆睡派である僕は、大抵のことでは起き無い。オチを悟ったのか、シャーとアルが苦笑いを浮かべていた。
「母は、魔王との戦いの前日…夜這いをしたそうです」
寝ている僕とヤッタのか?なんか、とっても損した気分なんですが…凹んでいる僕を尻目に、シャーとアルが、ジュノンを彼女の部屋へと案内している。既に同居を認めたらしい二人。なんてことだ…この世界では、まだ未婚なのにコブ3つになってしまった。
◇
ジュノンによると、ジュリアーノは勇者との結婚ではなく、セントラル王家と契約を結んだそうだ。賢者としての知恵と知識を、王家の為に捧げる契約し、今年で契約年数が満了するそうで、ジュノンを僕の元へ、説明役として先に送り込まれ、ジュリアーノは引き継ぎ業務と残務整理で、ここへの合流はまだ先のようだ。
「お父様のお仕事は何ですか?」
「通り縋りの遊び人だけど…」
ジュノンの顔から血の気が失せていく。母親に聞いていないのか?
「ジョブは?」
ジョブはジョブクラスと言い、専門的な上級職に就ける資格のような物だ。
「ジョブは大賢者と大司教だけど…」
本業と真逆のジョブクラス…いや、僕もなんだかなぁ~って感じである。
「はぁい?」
理解不能になったらしいジュノン。因みに、アルとシャーの仕事はハンターであるが、ジョブはアルが魔王で、シャーが勇者だったりする。
「とりあえず、ジュノンは、メイドをしてもらう。家事をアルに習え」
「はい…」
自信が無さそうな元王女様。家事をしたことが無いのだろう。だけど、遊び人である僕も、ハンターであるアルとシャーも、家にいないことが多いのだ。お外で働く経験の無かったジュノンに、家を任せるのが一番だと思う。
◇
いきなり呼び出された。現場へ急ぐと、黒ずくめの者達の前に、息が絶え絶えの女性が、何かを護っていた。僕は女性に近づき、シャーとアルが、黒ずくめの者達を狩り始める。生気が失せ始めている女性を抱き締め、彼女の状態を確認するも、もう虫の息のようだ。
「お願いです。坊ちゃまを…」
僕に篭を差し出して、息を絶った女性。篭の中には、布にくるまれた男児と何かの紋章が入っていた。訳ありの子供ってことか…
「父さん…」
心配そうにシャーが覗きこんだ。
「人間は醜いなぁ…神もそうだが…」
僕は篭をアルに手渡し、女性の亡骸を土に埋め、鎮魂の祝詞を唱えていく。
「お父さん、この子はどうするの?」
「お前達、弟が欲しくないか?」
二人の返答を待たずに、男児へ僕の加護と恩恵を授ける。
「お前の名前は、リンドベル。愛称はベルにする。健やかに真っ直ぐに育てよ」
ベルに永遠の18歳の呪いを掛ける。この先、どんなに歳を重ねようと、ベルはアル、シャーと同じに、永遠に18歳として生きて行ける不老不死なる呪いである。因みに僕は永年の17歳である。ジュノンにも掛けようと思ったのだが、既に彼女の年齢は二桁では収まらないようなので、永遠の200歳にしてあげた。
「さて、帰るか…」
◇
「その子はなんですか?」
ジュノンに訊かれた。
「拾った。名前はリンドベルにした。愛称はベルだ」
「拾った?子犬とか子猫レベルですか?」
「ジュノンは、幼い弟は嫌いか?」
はっとしたジュノン。欲しかったようだ。
「そんなことは無いです。お姉ちゃんとして、ベルの面倒を見ます!」
ベルをジュノンにまかせ、散歩へと出掛けた僕。