武器製造
快晴の空。
暖かい風。
季節は前世で言う初夏のようなさわやかな中庭での午前・・・
――――――ゴスッ!!
「ッくぅぅッッ」
ジョージの鉄拳により吹っ飛ぶ令嬢・・・。
「お嬢様、ちゃんと身体強化かけてください!死にますよ!」
3m程吹っ飛ばされ膝をつき腹をおさえうずくまる・・・。
マジで痛い、本当に痛い、おもくそみぞおち殴りやがって、この鬼教官がッ!!!
「やれやれ、そろそろ昼食の時間なので、休憩にしましょう。」
ジョージがあきれたように吹っ飛ばされたあたしに歩み寄ると手を差し出してきたが、
痛みに顔を歪めつつも睨み返し、その手を掴まず立ち上がる。
「着替えてくる。」
腹の痛みに耐えながらジョージに背を向け歩き出す。
―――――現在はあの話し合いから1ヵ月がたった。
ステータスを開示し、養女としての手続きも済み、晴れて【アンリ・ルイス・クラーク】となっていた。ステータスの開示の際、スキル情報は伝えていないが、アルバート様・・・いや、お父様は気絶しそうな勢いだった。2属性持ちであり、魔力・体力共にやはり異常だった。熟練の宮廷魔導士でも魔力量は5000が限界らしい。あたしは30000だからそりゃ驚くよね・・・。
そして、闇属性に関しては情報がかなり少ないらしく、プラウドリア王国には使える者は1人のみ。宮廷魔導士にいるくらいらしい。文献にも情報があまりないので中級魔法くらいまでしか情報がない。無属性に関しては一般的下級属性で身体強化をメインとしていて最弱の属性と言われている。無属性魔法をジョージが扱える事から、魔法の訓練はジョージに教わっているだが、護身術という名のハードな体術訓練を一緒に施され日々ボロボロにされている。
そして、問題だった瞳の色。前世と違いカラーコンタクトとかはもちろんこの世界には無い。なかば諦めて分厚い眼鏡でもかけようかと思っていたが、スキル検証を重ねた結果・・・間者スキルにて全てが解決した。間者スキルは変装の能力があり、髪の色と瞳の色を変えられる。もちろん性別や骨格までは変える事はできないが瞳の色を変える事により上位属性持ちを隠すことができる。間者スキルには、その他にも気配遮断や気配察知など隠密活動に優れた能力があったが何よりも、瞳の色の変更には喚起せずにはいられなかった。
そんな事を振り返りながら歩いていると、自室についた。ドアを開けるとキャシーが既に待ち構えていた。訓練用の動きやすい服からシンプルなドレスへの着替えを手伝ってもらいダイニングへと向かう。
ダイニングに入ると、既に2人は着席していた。キャシーに椅子を引いてもらい自身もその場に着席する。
「アンリ。魔法の訓練はうまくいってる?ジョージじゃなくて私が直々に教えてあげるわよ?」
ローズ様・・・いや、お母様が微笑みながら話しかけてくる。
「ローズ・・・君は手加減が―――いや、厳しく指導してしまうからジョージがいいと2人で決めたじゃないか。」
ため息を漏らすようにお父様が言う。
実は、お母様は無属性らしいのだが、どうにも特殊スキルのせいもあり相手に手加減ができないらしく、あたしを殺―――壊してしまう可能性があるため、同じく無属性持ちのジョージが家庭教師役に抜粋されたらしい。
壊すって・・・この愛らしい姿からは全く想像できないのだがお母様はこう見えても嫁ぐ前までは軍部でも3人しかいない【将軍】を賜っていたそうだ。しかも伯爵家のご令嬢なのに・・・
「だって、ジョージだけずるいじゃない。私だってアンリと一緒にいたいわ!」
頬を膨らませ不貞腐れたように口を尖らせる。
「も、もう少しアンリが魔法使えるようになってからでいいだろう・・・。一緒にいたいというのであれば、今度2人で王都に買い物でも行ったらどうだい?」
「それはとてもいい考えだわ!アンリ、今度一緒に王都に行きましょう!美味しい焼き菓子のお店があるから教えてあげるわ!」
お母様は花が綻ぶような笑顔を向けてくる。
「・・・はい。お母様。」
少しこの会話が面倒になったあたしは目の前のパンを掴み口に運ぶ。
「そういえば、今日は午後来客があるんだ。私とローズで迎えるので、アンリが会う事はないと思うんだが一応伝えておくね。」
「わかりました。午後は庭園でスキルの検証等しようと思っていたので特に問題ないです。」
お父様はこういった来客がある際には必ず教えてくれる。
あたしの属性がバレないようにという配慮であり、そういう時は、自室に籠るか、本館から離れた庭園にて過ごすようにしている。
「そうか。あと、この前頼まれていたものが届いたのでキャシーから後で受け取るといい。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
待ちに待った者が届いたとの知らせに思わず目を輝かしながらお父様に目を向ける。
とうとうアレが造れる。
この1ヵ月本を読み漁ったがアレはこの世界には無いようなので、折角なので武器製造スキル検証の第1号にしようと似たような材料をお父様に頼んでいたのだ。
「あんなのがそんなに嬉しいのかい?普通の女の子はドレスやアクセサリー等を好むのに、アンリは本当に変わっているなぁ。でも喜んでくれてよかったよ。」
「はい!とても嬉しいです!」
そう笑顔で返すとお父様は優しく微笑んでくれた。
昼食をいち早く済ませるとキャシーから材料の入った木箱を受け取り庭園へと足早に向かった。
クラーク家の庭園はさほど大きくはないが、様々な花たちが咲き誇り、中央の白いガボゼがとても可愛らしい。少し重い木箱を椅子の上に置き、耐火布をテーブルの上に広げ、灰色の様々な鉄の塊や鉱石、魔石、木片などをのせていく。
そう。あたしが造りたいもの・・・・それは【日本刀】。この世界は女性が剣を持つなんてほぼあり得ない。ましてや貴族女性であればなおの事、蝶よ花よなんて育てられる。ただ折角の剣術スキル・・・使ってみたいじゃないか!
前世で幼い頃から剣道を12年続けていたあたしはどんな技が使えるのか・・・斬釘截鉄とか虎振とか・・・試してみたい、試してみたいのだッ!
でも、一般的に販売されている剣はどれもかなりの重量で女性が扱うことはできない。レイピアのようなものもあるが折れやすいし、戦い方があまり好きじゃない。だって・・・貴族感半端ない。そして何より前世のあたしは体格に恵まれなかった事もあり、戦い方が少々汚く、お奇麗な剣ではないのだ。
だったら造ってしまおう!と考え、似たような材料を探したのだ。まず玉鋼があるのかどうか、前世では技術の進化や終戦などもあり、たたら場なるものはほぼなくなっていた。
しかし、前世より技術が進んでいないこの世界であれば、たたら製鉄のようなものが残っているのではと本を読み漁り、獣人の国で見つけた。そこからお父様に輸入してもらい、そのほかの鋼や鉄などもそろえてもらった。魔力耐性のための希少な闇属性魔石や、加熱のための火属性魔石なども用意し、やっとためせるのだ!
「ふふふ・・・。」
怪しげに笑いながらも製造過程を頭の中に思い描く。
何度も何度も鉄を叩き加熱し、折り返し鍛錬、叩き伸ばす・・・心鉄には闇属性の魔石も混ぜ魔力付与にも耐えられるよう・・・折れず、曲がらず、よく切れる・・・そう凛と美しいイメージ・・・材料に手をかざし、スキルと魔石発動の為微量の魔力を流す。
一瞬、耐火布全体を炎が包み、次第に鎮火した。
そこには・・・・
黒い刀身の【日本刀】。手にもってみても凄く軽く、持ちやすいし、一発目にしては上出来だろう。しみじみと黒い刀身を眺めていたら背後に気配を感じた。
パキッ――――
振り返るとガボゼの柱に隠れた小さな子供?外套を頭から深く被っているため顔が全く見えない。かろうじて襟足から見える髪が白い事が分かるが、大きめな外套の為体系から性別の判断もできない。
ズキッ―――
一瞬頭に激しい痛みがはしり思わず顔を歪める。
なに?片頭痛?
突然の事に不思議に思いながら再度後ろの人物に目を向けた。