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守るために


帰宅して直ぐに予想通りアルバート様に呼び出された。一人で進む足取りはとても重く、自分のステータスについてどう話せばいいのか考えていた。

そもそもこの世界の基準がわからないし、

クラーク家の人々をどこまで信用していいのか・・・。


・・・信用?


そこまで考えて、気持ちが一気に冷めたのが分かった。

前世で散々経験したのにあたしはまだ希望を持っているのかと・・・。

まだ、他を求めているのかと・・・。


人は醜く、愚かだ。


自身が都合のいいように行動し、平気で嘘をつき、他者を利用し貶める。時に甘い言葉で誘い、選択肢さえ奪って・・・・。





「・・・アンリ様?」


「!!」


驚きのあまり体が飛び跳ねる。

ドアの前で突っ立っているあたしを不審に思ったのだろう。振り返ると洗濯物の籠を抱えたキャシーさんが首をかしげながらこちらを見ていた。

「・・・?お入りにならないのですか?」

「ぁ・・・いや、入ります!入りますよッ!」


ゴンゴンッ!


あまりの動揺にノックをする手に力が入りすぎて大きな音を立ててしまった。

「入りなさい」という声が中から聞こえたので、恥ずかしさを隠すように足早に中に入る。

部屋の中には、デスクに座るアルバート様とソファーに座るローズ様。


「わざわざ呼び出して申し訳ない。少し話がしたくてね。まぁ、座りなさい。」

アルバート様はそう伝えるとデスクから移動し、ローズ様の横に腰かけ真剣な顔をこちらに向ける。あたしは促されるまま反対のソファーに腰かけ、アルバート様の言葉を待つ。


「アンリ・・・・・私たちの養女になってくれないか?」


「???」


確実にステータスについて聞かれるだろうと思っていたし、部屋を訪れるまでにある程度の覚悟はしてきたつもりだ。

だが、この状況はなんだ?

あまりにも突拍子もないアルバート様の発言にあたしは目を見開き見つめ返す事しかできない。


だって・・・だって、いきなり何?

養女って?

洗礼の結果についてじゃないの?




「はぁぁ・・。アル。そんな言い方ではアンリには分からないわ。」

ローズ様が隣でため息をつく。

「ぁぁ、すまない。結論を急ぎ過ぎた・・・。」

アルバート様は一つ咳払いをすると話を続ける。

「今日の洗礼にて自分の属性が判明した訳だが、おそらく・・・上位属性の光属性または闇属性だったであろう?」


「・・・。」

・・・なんで?・・・なんで分かったの?

言い当てられてしまった事に思わず体が強張り膝の上の手を握りしめる。


「アンリ・・・落ち着いて聞いて欲しい。太古の昔から黒に近い瞳の色ほど強大な魔力を持つ者の証とされている。アンリの瞳の色は漆黒・・・洗礼を受ける前からおそらく上位属性だろうと予想はしていたが、その反応からすると間違いないね。上位属性はどの国もこぞって欲しがる・・・それほど稀有な力と言えよう。見つかれば、その力を利用しようと貴族、王族、他国までもが君に接触してくるだろう。最悪の場合、奴隷として扱われる事も少なくない。そんな悪意を・・・跳ねのける事が君にはできるかい?」


アルバート様は辛そうな・・・今にも泣きだしそうな顔をこちらに向ける。


・・・答えは・・・否。できるはずがない。この世界についての知識があたしにはまずない。強大な力や才能があったとしても、力の使い方も分からなければ抵抗も出来ないただの子供だ。きっと簡単に捕らえられ、一生利用され続けるだろう・・・。


そんな事分かってる。


だからあたしはずっと誰にも負けない、誰にも貶められない、蔑まれない力が欲しかった。


「ローズとも相談したんだが、我がクラーク家であれば辺境伯、君の心が育ち自分で判断できるようになるまでの防波堤ぐらいにはなるであろう。もちろん君の意思を尊重するつもりだし、こんな短期間で私たちを信じられないのもわかる。だが・・・・・養女として君を守らせてほしい。」

そこまでアルバート様は言うと口を閉じ、綺麗な顔を歪ませてて微笑んだ。


どうしてこんなに悲しい顔をあたしに向けるのか。どうしてここまであたしに構うのか。ただ拾っただけの孤児に同情しているのか。理由は分からない。でも、それだけではない気がした・・・。


「アンリ・・・。すぐに信じて欲しいとは言わないわ。共に暮らしながら判断してもらえばいい。でもこれだけは信じて欲しいの。私たちはあなたを利用したりなんかしない。この命に誓ったっていい。だって私、アンリの事が大好きだもの。」


ローズ様はそう言いながら少し寂しそうに微笑んだ。


正直、いくら考えてもこの人達の手を掴むことが正解なのか、不正解なのかあたしには分からない・・・。


拾った後も従者たちに任せればいいのに2人はわざわざ暇があれば顔を出し、色々な話をしてくれた。そんな手間をかけず、怪我を治療せず利用することだって容易いはずなのに。それにこんな話をわざわざしてあえて疑心を抱かせることにメリットはない。


この手を掴んだら、また裏切られるのかもしれない・・・・。


けど・・・。


この人たちに裏切られたとしても・・・それでもいいかと思ってしまった。


もうきっと失う物も、傷つく心もないのだから。


できるだけ長い生きする為に・・・あたしだって利用してもいいよね?




―――――答えは決まった。




顔をあげ、背筋を伸ばして大きく息を吸う。


「よろしくお願いします。」


勢いよく頭を下げるあたしには2人の顔は見えなかったが、とても生温い・・・いや、暖かい空気に包まれた気がした。


「アンリ・・・ありがとう。これからは家族だ。手続きは早急に済ませよう!」


顔を上げると寄り添い柔らかく微笑む2人がいた。



「ところでアンリの属性は上位属性なのはわかっていたが、光属性と闇属性どちらなんだい?今後の対策として一応ステータスを聞いておきたいんだが・・・?」


「あっ・・・実は闇属性と無属性です。」


「「!!!」」


2人が目を見開き、口を開けたまま固まる。


「・・・やはり・・・おかしいですか?」


その様子に不安になり少し上目遣いで固まった2人を見つめる。


やはり2属性はおかしいのか・・・。事前情報的に言うべきか迷ったのだが、知識がないことには前にも進めない。だから開示する事にしたのだが2人の反応的にまずかっただろうか・・・。


「・・・まさかそこまでとは・・・」

アルバート様は深くため息を漏らすと片手で目を覆う。ローズ様は大きな愛らしい瞳を瞬かせている。


「アンリ結論から言うと・・・上位属性と言うだけでも稀有な力なのに、2属性とは・・・・かなり稀だ・・・。というか私は2属性持ち合わせている者を見たこともないし、今までの人生で聞いた事もない。」


ぁあ・・。だろうね。なんとなくそんな気がしてたよ・・・。


「と、とりあえず今後の対策の為そのほかのステータス情報も聞いてもいいかな?勿論拒否権はある。断わっても構わないが・・・知っていればある程度の対策は立てられるだろう?」


アルバート様・・・顔引きつってるよ・・・。


うん。

あたしイレギュラーなんだね。

もうここまで来たら隠すのも面倒だし・・・情報や知識は必要だもんね?

ある意味開き直ってしまったあたしはそのまま言葉を発した。


「わかりました。・・・ステータス。」

目の前にステータス画面が広がり、2人の息をのむ音だけが部屋に響き渡った。


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