教会へ
馬車に揺られながら両手で小さな箱を握りしめる。
――――――朝食後―――――
部屋で準備をしているとローズ様が尋ねてきた。
小さな箱をあたし手渡してきた。にっこりと微笑むローズ様に促され箱を開けると・・・・・箱の中にはダイアの小さなピアスがキラキラと輝いていた。
クラーク家では洗礼の際にピアスを使う習慣があり、男性は1つ、女性は社交の場で着飾るため3つ穴を開け肌身離さず身につけるのだと・・・。そして今回洗礼を受けるあたしの分も用意しておいた・・・・とのことらしいが・・・・こんな高級なものもらえない。
受け取れないと少し渋ってみたが、「私からのプレゼントとして受け取って欲しい」と悲しそうな顔で言われ、渋々受け取ってしまったのだった。
・・・・・はぁ。
外の景色を眺めながら思わずため息がこぼれる。
なんでこの人たちはこんなに良くしてくれるのだろうか・・・。
「アンリ?大丈夫?」
外を見ながらため息をつくあたしを心配したのか向かいに座るローズ様が心配そうな顔で覗き込んでくる。
「大丈夫です。少し考え事をしてただけなので。」
「ならいいのだけど・・・あっ!そろそろ教会に付くわよ!ほら見えた!」
ローズ様声に外を眺めると、前世でも見覚えがある教会が見えた。
教会ってどこの世界でも変わらないんだな。聖職者たちの服装もローブのようなものを着用しているし。なんだかイメージしたままで拍子抜けした。
馬車を降りると、アルバート様がもろもろの手続きを済ませてくれたのでスムーズに洗礼の儀にうつることになった。
入口で「ここからは洗礼者だけで」と言われ一人で奥へと進もうとしたとき、後ろから声がした。
「アンリ!帰ったら皆で美味しいものでも食べよう・・・。」
普段落ち着いた雰囲気のアルバート様から大きめの声が放たれたことに驚いたが、振り返り2人の姿を眺めると、寄り添う姿がなんだかとても微笑ましく・・・・『帰ったら』なんて・・・あたかも自分の居場所がここでいいのだと肯定されたようで・・・緩む口元を隠すように奥へと進むしかなかった。
室内には聖なる水が入った桶のようなものと・・・・・その奥には石像がある。
・・・・かなりの老人姿だがたぶん創造神なのかな・・・?あたしが見たの10歳ぐらいの少年だったんだけど・・・老婆の姿も仮の姿だとか言ってたし。神様だからそういうこともあるのかもしれない。
教わった通りに桶の前まで行き、ローズ様から頂いたピアスを沈める。その場で跪き胸の前で手を組み、祈りを捧げた・・・その瞬間・・・桶が光で覆われた。
光はすぐに消え、恐る恐る桶を覗くと聖なる水がなくなり、ピアスだけが転がっていいた。
驚きながらもピアスを拾い上げ、アルバート様に教わったとおりに呟いてみる。
「ステータス。」
ピアスが少し光を放つと目の前に薄い金色の板のようなものが現れた。
【名前】アンリ
【種族】人族
【性別】女性
【年齢】13歳
【レベル】1
「オープン。」
もう一度呟くと金の板が広がる。
【属性】闇属性・無属性
【体力】10000
【魔力】30000
【特殊スキル】瞬間記憶・武器製造・痛覚遮断
【スキル】剣術レベル∞/苦痛体制レベル10/鑑定レベル7/アルコール耐性レベル8/間者レベル7
ん???????????
まてまてまて!!!
13歳のか弱き乙女の体力がレベル1なのに10000・・・。王道ロールプレイングゲームの勇者とかでも初期100いってないよね?ゴリラなの?いや、それ以上の体力か・・・。魔力も・・・絶対普通じゃない。
しかも属性って1つじゃないの?
剣術∞って?人族の戦闘系スキルレベル5までって・・・・・・・。
色付けるとか言いていたけど、平凡に長生きとかできなそうなんだけど・・・・。
特殊スキル・・・・言葉の意味はなんとなく分かるけど・・・あ・・補足あるわ・・。
【瞬間記憶】すべての物事を瞬間的に覚え、再現可能。ただし、3回以上反復して覚えないと1か月ほどで忘却する。
※再現可能範囲は取得スキルレベルや身体能力上限、魔力上限、属性による
【武器製造】材料があればイメージ通りの武器が製造可能。
【痛覚遮断】一定時間痛覚を遮断できる。※効果が切れると痛みは体に戻る。
・・・・・なんだろう。
感覚が麻痺したのか補足で少し安心した。つまり万能ではないということ。たぶん記憶したものであれば戦闘スキルとかも再現できるんだろうけど、前提として戦闘スキルを取得してること。例えば体術スキルであれば、体術レベル5の技を再現したい場合は自身も体術レベル5以上が必要になる。属性も自らが使えないものは再現不可。ってところかな。
まーでも自分が極めてるものだったら即座に再現可能、3回記憶ないしは反復すれば完全習得ということか。知識とかに関しては3回読めば完全に記憶するってことだからまぁまぁチートかな・・・。他にもツッコミどころはまだあるけど今はやめておこう。
「・・・クローズ。」
「・・・はぁぁぁ・・・・。」
思わず大きなため息が漏れる。
あたしはそこそこ幸せで長生きできれば満足だったんだけど・・・なんだか大事になりそうな予感しかしない。
このまま悩んでいても無駄な時間だし・・・とりあえず、戻ろう。
考える事を放棄し、右手で眉間を抑えつつ、振り返りドアを開いた。
ドアを開くと来た時と同じように2人が寄り添いながらあたしを待っていた。
「終わったかい?」
「・・・はい。」
「そうか。それでは帰ろうか。」
自分のステータスについて考えすぎて、帰りの馬車では一切言葉を発することもなく、ただボーッと窓の外を眺める事しかできなかった。
そんなあたしの姿を不安そうに眺める人達がいた事に気付く事もできずに。