この世界について
外の鳥のさえずりで目が覚める。
体に痛みがないことを確認しながら、
ゆっくりと体を起こし、今までの事を振り返る。
――――――あの日から10日間全くベッドから動けなかった。
動けない間は、アルバート様やローズ様も暇があれば部屋に顔を出してくれたし、孤児で勉強などしてこなかったことを伝えると、色々な事を教えてくれた。
まずこの世界の事。
獣人と人族が暮らす世界であること。
獣人は、
魔法が使えないが、もともとの身体能力がかなり優れている。また、獣人特有のスキルにより従来の獣の姿に変身し、身体能力、攻撃力を限界まで上げることもできるらしい。
対して人族は、
魔法が使えるが、身体能力は高くないため戦闘系スキルレベルもそこそこしか上がらない。魔法の属性は1つだけ生まれたときに授かるらしい。
スキルレベルは最高10レベルだが、一般の人族は大体3、トップレベルの騎士でも戦闘スキルだと5が限界らしい。
そして
あたしが転生した国は【プラウドリア王国】獣人の国との国境の大国。
人族国家で唯一の獣人国家との同盟国である。200年前の獣人と人族の戦争を終息させたのが獣人の王族とクラーク家の当主だったそうで、その功績もあり現在も辺境伯を任されているそうだ。
洗礼については
13歳になると、人族でも獣人でも教会にて受ける儀式だそうだ。そこで自らの属性やスキルを初めて知る。
儀式に必要なものは肌身離さず身に着けられる物。
聖なる水にそれを沈め、祈りをささげると創造神の加護を受け、決して壊れず、汚れず、身に着けていれば、いつでもスキルやステータス確認ができるとの事。
コンコン。
「アンリ様よろしいでしょうか?」
頭の整理をしていたらドアの外でキャシーさんの声が聞こえた。
「どうぞ。」
ガチャッ。
ドアの音とともにキャシーさんが入ってきた。
「おはよう。キャシーさん。」
「おはようございます。アンリ様。お加減どうですか?」
「キャシーさんのおかげでもう大丈夫です。いつもありがとうございます!」
そう言ってキャシーさんに笑いかけると、優しく微笑んでくれた。
「体調がよろしいようでしたら、本日は旦那様、奥様とご一緒に朝食などいかかですか?」
「いいですねー。あっでも・・・」
思わず自分の体を見つめる。アンリは10日間動けなかった為風呂に入れていない。キャシーに拭いてもらったりはしたけどさすがにこんな姿でアルバート様とローズ様と朝食なんて・・・・。
「ふふっ・・。医者から湯浴みの許可を頂いてきましたので、ご安心ください。」
「っ・・・。」
こ、心を読まれた!?
「こちらへどうぞ。」
少し驚いているあたしにかまわずキャシーは浴室に案内してれた。そして、衣服を脱ぎそのまま湯船につかる。
「いてて・・・擦り傷にしみる・・。ぁあ~久しぶりのお風呂気持ちいい・・。」
肩までつかり久しぶりのお風呂を堪能していると後ろから声が聞こえた。
「失礼します。髪を洗うのをお手伝いさせていただきます。」
そう言ってキャシーさんがあたしの髪に触れる。髪を優しく洗い、丁寧に梳いてくれるので凄く気持ちいい。
風呂を上がり衣裳部屋へ移動すると色とりどりのドレスが目に入り思わず足を止めた。
目に入るドレスは全て子供用で自分用に用意されたものだと理解するまでに時間はかからなかった。
「あのキャシーさん・・・このドレス・・・。」
不安な顔をキャシーさんに向けると察したように笑いかけてくれる。
「ご安心ください。こちらは奥様からのプレゼントです。」
「でも、こんな・・・。」
「是非着て差し上げてください。奥様、アンリ様のドレスを選んでる時凄く楽しそうでした。アンリ様が着てくださったらすごくお喜びになると思います。」
ふふふっ・・・と思い出すように口に手を添えて笑うキャシーさんに、言いかけた言葉を飲み諦めるように頷いた。
「アンリ様こちらなんてどうですか?」
キャシーさんが1着のドレスを手に取り、見せてくれる。そのドレスは淡い水色、清楚でシンプルなデザインで装飾は少なめだが、腰の青いリボンがアクセントになっていてとても素敵だ。
「アンリ様は凄く大人っぽく、お綺麗なのでこのくらいがお似合いになるかと思いますよ。」
・・・大人っぽい?
13歳なのに大人っぽいってなんか変じゃない?
・・・あっ!!!!
アンリは気づいてしまった。
転生して色々あったとはいえ、ノリセウスに『おまけして』とか言った癖にすっかり自分の容姿の確認を忘れていたのだ。
部屋に鏡が無かった事もあるが、すっかり頭から抜け落ちていた。少しだけ・・・ほんの少しだけ・・・ノリセウスに申し訳ない気持ちに苛まれたが、振り払うようにして差し出されたドレスに視界を戻す。
「ぁ、あたしドレスとかあまり詳しくないので、キャシーさんにおまかせします!」
「承知しました 。ではこちらにいたしましょう。」
そう言うと、どうやっているのか全く分からないが素早くドレスを着せられ鏡の前に立たされた。
「いかがですか?」
―――――鏡には黒髪、黒目で凛とした・・・美しい少女が映っていた。
・・・だれ??
・・・・・・・・ぁあ、あたしか!
思わず2度見した・・・。
とりあえず、鏡に映る自分をよくよく観察してみる。
髪は黒髪のサラサラストレート。長さは腰まであり、前髪は軽く横に流している。
瞳も黒。つり目気味の切れ長な二重。凛とした整った顔立ち。まつ毛も凄く長いし間違いなく美人。
しかし・・・・・・何となく、悪役令嬢っぽい。
前世の名残もなくはないが、髪質とつり目ということぐらいだろう。
「アンリ様、お気に召しませんでしたか?」
グレードアップを果たした自分の姿を凝視していると、不安そうなキャシーさんの顔が鏡越しに現れた。
「ぇっ・・あ。とっても素敵です!ありがとうございます!」
そう慌てて返すあたしに少し口元を緩めながら「とてもお似合いです」とキャシーさんは告げるとダイニングへと案内してくれた。入室するとすでに2人とも席についており、キャシーさんに椅子を引かれ席に着く。
「おはよう、アンリ。」
「おはよう。そのドレスすっごく似合ってるわ!」
「おはようございます。アルバート様、ローズ様。ドレスありがとうございます。」
褒められたことに少し照れくささを感じながららも2人に笑顔を向ける。
挨拶を終えると、
料理が次々と運ばれてきた。とても豪華な朝食だなと感心しながら手を付ける始めると、アルバート様が口を開いた。
「アンリの怪我もそろそろよくなってきたし、今日は教会へ皆で行こうかと思うのだがどうだろう?」
教会?ぁあそういえば13歳のあたしは洗礼を受けなきゃいけないのか。
「そうね!アンリも13歳だし洗礼を済ませなきゃね!」
なんだかローズ様ワクワクしてるなぁ。
でも・・・肌身離さず身につけられる物ってあたし持ってないけど洗礼受けられるのか?
そんな事を考えながらも2人の会話に耳を傾ける。
「属性が分かったら魔法の練習もしなきゃいけないし、家庭教師でも雇いましょうか!」
「そうだな。きっとアンリの属性は・・・。」
「アルっ!それ以上はアンリが自分で知ることよっ!」
ローズ様が少し低い声でアルバート様の言葉を遮る。
「ぅ・・そうだな。すまない。」
ん?なんだろうこの含みのある感じ・・・。アルバート様なんだかしょげてるし。あたしの属性って?洗礼しないと分からないんじゃないの?そもそも家庭教師ってあたしの為にそこまでしなくていいから!
もう訳が分からなくなってとりあえず首をかしげると、ローズ様に「気にしないでいいのよ。楽しみね。」と微笑みながら、誤魔化された。
その後は各自部屋で準備を整えると、
馬車に乗り込み教会へ向け出発したのだった。