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始まりはボロボロで・・・


ザザァー・・・・。

・・ザァー・・・・・・・。


なんの音だろう・・・滝の音?

ぇ?・・・体中が痛い・・・頭もグラグラするし・・・動けない。頭が痛すぎて瞼も上げられない・・。何何何⁈声も出ないじゃん⁈おいおいおいっ!どんな人生の始まりだよ!くそノリセウスのやつっ!!!!


「・・ぅぅ・・・。」

何とか出せた声は唸るようなうめき声・・・。それしか出せない・・・。誰かマジ助けろっ!!!!ぁあ・・・・意識が・・。



「誰かいるのか?!」

意識を手放そうとした瞬間、低い男性の声がした。斜面を駆け下りてくる音がして、急いで駆け寄ってくる。

ガシャ!・・何か鉄が擦れるような音・・。

「おいっ!!!大丈夫か君っ!?おいっ!!」

抱き起こされて揺さぶられるけど、意識は遠のいて・・・。真っ暗になる。









「ぅ・・・んん・・・。」

ぁあ・・あたし死んだのか?短い人生だったわぁ・・・。ん???

背中の柔らかく包まれるような感覚、体にかけられた布の感触が手に触れる・・。

そのまま重い瞼を持ち上げると視界には知らない天井。ここは・・・どこだ?

とりあえず起き上がろうと体を起こした瞬間。

「いっつつつつつーーーー!」

頭と、体に激痛が走る。あまりの痛さに右手で頭に触れると包帯が巻かれている。よく見ると手にも包帯が巻かれているし、ベッドの上に寝かされていたようだ。激痛のおかげで冷静になり少し周りを見渡してみる。ベッドは天蓋つきのお姫様ベッド。机、ソファー、家具等は全体的に白で統一され落ち着いた雰囲気だがどこか豪華な雰囲気だ。


ガチャッ。


「ぁぁ。目が覚めたのだね。よかった。」

落ち着いた男性の声につられて声のしたドアの方向に目をやる。そこには金髪の長い髪をした男性がにっこりと微笑んだままこちらを見ている。男性はベッドに近づくとベッドの端に腰を掛け、こちらの顔を覗き込んでくる。


な・・・何この美形!整った目鼻立ちに少し暗めの青い瞳、白い肌に金の髪がすごく映える。年齢は少しいってて30代後半ぐらいだと思うけど凄く美人。


「君は一体どうしてあそこにいたんだい?名前は?」

思わず見とれていると、男性に声をかけられてしまい戸惑う。名前?前世のままでいいのか?なぜいたか?あたしも知らんよっ!とっ・・とりあえず答えないとこの人に変に思われてしまう!!


「ぁ、アンリ。他は・・・わからない・・です・・。ここはどこですか・・・?」

絞り出すようにそう答えると恥ずかしやら、訳が分からなくて、自分の手を見つめるようにうつむく。


「アンリかぁ。分からないとは・・・記憶がないということかな?君はね、あの大洪水後の滝の下で傷だらけで倒れていたんだ・・。被害状況の確認で私が護衛兵と視察に訪れていて君を見つけ、あまりにもひどい怪我をしていたため一旦我が家に連れ帰ったんだが・・。記憶がないとなるとなぁ・・・。」

彼は少し眉間にしわをよせ悩み始める。



・・・なるほど。そういうことか・・。あのノリセウスのくそ野郎・・・。次会ったら絶対ぶん殴ってやる。しかもグーで力いっぱい・・・。

とりあえずこの状況をどう乗り越えるか考えていると、男性がいきなりこちらを振り返ってきたので、思わず肩が揺れる。


「あっ!もしかして君の素性に関係があるかもしれないんだけど、この手紙を握りしめて倒れていたんだ!」

そういうと1枚の手紙を彼はあたしに差し出す。


「・・・申し訳ないんだけど他に身元の分かるものがなかったから開けてしまったんだが・・・これはどこの国の言葉だい?私たちには全く解読できなった。」

手紙を無言で受け取るとそのまま開く。そこには・・・日本語。あたしの前にいた世界の言語だ。手紙の差出人を見ると・・・・・ノリセウス。少し怒りを覚えながら上から手紙に目をとおしていく。



アンリへ

これを読んでるってことはちゃんと助けてもらえたみたいだな。

一応この世界の成人年齢が18歳だから約束どおり現在の年齢は13歳だ。

いきなり怪我していて驚いたと思うが、転生の年齢が高いので不自然にならないようこうするしかなかったんだ。素性は山奥の村で孤児として教会で育ち盗賊に追われたとでも伝えておけばいいだろう。

能力やスキルについては13歳になると教会に行って調べる形になっているからその時まで楽しみにしていてくれ。約束どおり希望のスキルや魔法使えるようにし、少し色を付けてある。学園入学は15歳だが通うかは自分で決めていい。この世界について学ぶにはいい場所ではあると思うがそこは貴方の判断に任せよう。

ちなみに前世の記憶はそのままにしてあるので活用して構わない。

今回のことは本当に申し訳なかった。

君の人生が幸せに溢れるよう願っている。

                                           ノリセウス



・・・・。

・・・・・・。

「・・・・・。」

一通り読んで考える。

説明短くねぇーか?くそっ・・1回ではなく2回殴ってやる・・・。


「どうだい?何か思い出せたかい?」

黙っていたあたしを心配したのか顔を覗き込みながら話かけてきた。


「あ、えっと。思い・・・出しました。あたしは山奥の小さな村の孤児です。親の顔は・・・・・知りません。村が盗賊に襲われ逃げていたところ、洪水に巻き込まれました。この手紙は恐らく盗賊のものでしょう。争ったときに握ってしまったのだと思います。あたしにも読めません。」

一気に伝えると、そのままうつむく。



何故だろう・・・思わず前世を思い出してしまい体が硬くなるのが分かる。前世では誰も信じてくれなった・・・誰も手を差し伸べてくれなかった・・・今回もそうなるであろうと・・・。あたしなんかに手を差し伸べてくれる人なんていない・・・そんな考えが脳裏をぐるぐると周り自然と表情が暗くなる。


「・・・そうか。それは辛かったねぇ・・。」

声につられて顔を上げると、彼は少し辛そうな顔をして、そっとあたしの髪に触れ優しく撫でてくれた。その手はとても暖かくて、優しくて・・・・・胸の奥に何か熱いものがこみ上げてくる。胸がキリキリ悲鳴を上げ、目頭が熱く、視界が歪む。彼の優しい顔が見えなくなった時、頬に熱いものを感じた。


「・・・っ。」


思わず声が漏れ自分が泣いているのだと理解した。彼の優しさに、初めての優しさに涙が止まらなかった。頬を次々に伝う涙を優しく彼は拭いてくれた。こんな優しくしてもらったことはない・・。いつも突き放された・・裏切られた・・・自分はいなくていいのではないかと何度も何度も何度も思った・・・・。

だから諦めた・・・なのに・・この人は訳の分からない、ましてや素性すらも怪しい子供に優しくしてくれる・・・。なんで・・・?

あたしはひたすらに泣き続けた・・・。


あたしが落ち着くのを待っていたのか、頭を撫でながら彼は口を開いた。

「アンリ。暫くここにいなさい。そんな怪我じゃ動けないだろうし、帰るところもないのだろう?まぁ、君さえよければ・・なのだが・・・?」

彼の言葉に驚き目を見開く。

「・・ぇ?・・でも迷惑ではないのですか?」


「迷惑なもんか!君さえよければいくらでもいてくれていいよ!」

彼はそこまで言うとまたにっこりと微笑んでくれた。その優しさにまた目頭が熱くなったが今度は我慢し、きちんとお礼を言わなくてはと口を開くが、喉の奥が締まり、なかなか声がだせない。


「・・・・あり・・がとうご・・ざいます。」

ふり絞った声はたどたどしく少し上ずったがちゃんと言えた。その言葉に反応して彼は微笑みまた撫ででくれた。


「よしっ!そうと決まれば、アンリを私の家族に紹介しないとだな!」

ベッドから腰を上げ部屋を出ていこうと背を向ける彼に声をかける。

「・・あの聞いてもいいですか?」

「なんだい?」


「ぇ・・あの・・・。」

「・・・・・・・・・差し支えなければお名前伺ってもいいですか?」

あたしが言葉を発した瞬間彼の顔が驚きの表情に変わり勢いよく頭を下げる。

「申し訳ないっ!!女性に名乗らず話すなんてなんて無礼な事を!私の名前はアルバート・ルイス・クラーク辺境伯。」

優雅に名乗りゆっくりと一礼した後にっこりと微笑む。


・・・・辺境伯・・・・貴族のたぶん偉い人・・・だった気がする。あたしには現在ラノベの知識しかないが、王族、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵の順位だったような・・・。

先ほどの事を思い出し顔が火照る・・。


ぁあ・・・もうどうにでもなれ・・・・・。


「顔が赤いが大丈夫かい?」

顔を赤らめ口を開けたまま固まるあたしに不思議そうな顔で見ているが、あたしの心中はそれどころではない。お偉い貴族様に頭を撫でられ、目の前で号泣とか恥ずかしくて穴があったら入りたい。普段人前で泣かないから余計に恥ずかしい・・・。


「だっ・・大丈夫です。怪我のせいです・・。」


「そうか。それでは我が家族を呼んでくる。」


閉じられたドアを見送ってから現在の状況を整理してみる。

現在あたしは13歳、孤児のアンリ。大洪水の影響で全身怪我だらけで、立ち上がることもままならない状態。性別は・・・・うん・・女だな。鏡がないから容姿は分からないけど、視界に映る黒い髪・・・たぶん腰まであるかな・・・。前世がショートカットだったからなんか違和感あるけど邪魔だったら切るかな。とりあえず怪我が治るまではお言葉に甘えてこの家に厄介になるしかなさそうだな・・・。

そのあとは教会に行って、街に出て情報収集しなきゃ。



ガチャッ。


ドアが開くとともにローズピンクの髪が視界を塞ぎ、思いっきり抱き着かれた・・。痛い・・。


「きゃぁぁぁ!あなたがアンリね!私はローズ・ルイス・クラークよ!よろしくねっ。」


「ローズ・・・そんなに抱き着いたら怪我に悪いよ。アンリが痛がってるじゃないか・・・。」

後ろから入ってきたのだろう。あたしに抱き着く女性にアルバートは声をかける。


「あら。ごめんなさい。かわいいから・・・つい・・。」

申し訳なさそうにあたしから離れた彼女の瞳は髪と同じピンク色。大きな瞳がかわいらしさを際立たせている。


「いえ、大丈夫です。気にしないでください。」

そう言って少し笑うと彼女も花のようにかわいしく微笑んでくれた。


「アンリ。彼女は妻のローズ。そして護衛兵のジョージだ。」

ローズとドアの近くに立つ男性に目を向ける。身長はかなり高い。茶色の短髪、瞳も茶色。目鼻立ちは男性的で無表情でドアの前に立ちあたしに一礼する。


「ジョージが滝の下でアンリを見つけて運んでくれたんだよ。」

この人が運んでくれたのか。重かっただろうに・・・。


「ありがとうございます。・・・・重くなかったですか・・?」

「いえ。問題ありません。」

無表情のまま答えられ、重かったのかと少しショックを受ける。


「ジョージ!その言い方はレディーに失礼よ!アンリが重いわけないでしょ!」

「し・・・失礼いたしました。」

無表情だが少しだけ眉がたれそのまま頭を下げた。


「ごめんなさいね、アンリ。ジョージは無愛想だけど悪い人ではないの。許してあげて・・?」

ローズがまた申し訳なさそうに謝る。


「大丈夫です。気にしていませんから。」

そう伝えて部屋の中に入ってきたもう一人の女性に目を向ける。赤茶色の髪をまとめ上げ背筋をピンと張る彼女は侍女の鏡と言うべきだろう。


「彼女は侍女のキャシー。怪我でしばらくは動けないだろから、アンリには彼女についてもらうことにしたよ。」

「よろしくお願い致します。」

キャシーは深く頭を下げてくれる。


「よ、よろしくお願いします。」

侍女なんて、あたしなんかに付けなくいいのにと思ったが断われる雰囲気でもなかったのでそのままうなずき挨拶をする。


「皆我がクラーク家の家族だ。この他にも何人かいるが、追々紹介しよう。今は疲れただろう、少し休みなさい。」

そういうとローズの肩に手を回す。


「そうね。そのほうがいいわ。良くなったら私とお茶しましょうね。」


「はい。ありがとうございます。」

そう答えると、クラーク夫妻が微笑み、ドアから出ていくとジョージ、キャシーも続きドアが閉まる。


「はぁぁぁ・・・・・・・。」

色々ありすぎて思わずため息が出る。なんだか凄く大変なことになってしまった・・・。しかしなってしまった事はしょうがない。

今後のことも色々と考えなければいけないのだけれど怪我のせいもあるのか眠気に誘われる。

とりあえず休もうと思いベッドに横たわり目を閉じる。

怪我のせいなのか、快適なベッドのせいなのか、そのまま深い眠りについた。





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