阿保過ぎる敵達
「……でだ、アル。早速で悪いが、任務に行くぞ」
昼食を取り終わって前のお茶会をした部屋に着いた瞬間、アサナトが予想だにしない言葉を言い始めた。
「……え?」
昼食の時に話が出たばっかりなのにもう行くの?
早過ぎじゃ……
そんなアルメスの思考をかき乱すようにアサナトが肩を叩いてくる。
「まあそう不安がるな、俺とナミア、そしてアイレスもいるんだ。どんな任務だって問題なく完了出来るさ」
「確かに行けるかもしれませんけど……僕が足を引っ張ってしまうのが怖いんです」
そう。確かにアサナトさん達は国を守った英雄。確かに、アサナトさん達ならどんな任務だって危なげなく達成出来ると思う。
だけど、一番の不安分子は僕。アサナトさん達の中にただの一般人の僕が入って、余計に足を引っ張ってしまうのが怖いんだ。もしかしたら、と考えると更に。
「大丈夫。お前は充分強い。というより、お前が俺たちの足を引っ張れる程の雑魚なら、アイレスがお前を認める筈ないだろう?」
アサナトのその言葉に、ナミアとミカがうんうんと頷いている。
それでもやっぱり自信は無い。だけど、アサナトさんのフォローとアイレスさんが認めてくれた事をふいには出来ない。
目を閉じ、覚悟する。
僕は、運命に身を任せることにした。
「分かりました。もう任せますよ。弟子ですからね、師匠の無茶ぶりには応えないといけません」
僕ののその言葉に、アサナトさんが懐かしそうに笑った、気がした。
「よし、じゃあ任務の内容を確認するぞ、お前らもこっち来い」
アサナトがナミアとアイレスに呼びかける。そうすると、双方申し訳なさそうな顔でアサナトを見つめる。
「そのことなんですが……」
ナミアがアイレスと目を合わせ、アイレスが発言する。
「……?どうした二人とも」
まだ理解できていないアサナトが少し困惑する。
「私達、ミキシティリアとの重大な会合の準備を絶対に今日にやらないといけないんです」
アサナトがハッと思い出したように頭を抱える。
「そうか……確かに今日だったな……」
ミカ達が頷く。
「だがこの任務だって、今日やらねば甚大な被害が出るぞ!?」
ミカ達とアサナト。
双方絶対に今日やらねばならない用事がある。
アイレス達という強大な支援が無くなった今、俺とアルのみで任務を遂行せねばならなくなった。
騎士団の協力を仰ぐ、という手もあるが、大半は会合の準備に回されるだろう。しかも、魔族の国、シュプリーム王国の息がかかった者達の王国襲撃が起こった故に、兵達がそれの復興作業を行なっている。
見込めるのは、精々五千人程度か。
どれだけ頑張った所で、兵は死んでしまうだろう。
だがそれは、アサナトのプライドが許さない。
絶対に兵は死なせない。
たった一人の犠牲で終わったとしても、それは損失になる。
それなら。
兵を出さずに、犠牲無く終わらせた方が良いに決まっている。
それがアサナトの精神なのだ。
……手っ取り早く済ませるならやはり兵を出さず、二人という小人数にて、敵本陣に潜り込んで敵首領を討ち取る、という作戦。
だがその場合。
首領をたった二人のみで相手しなければならない。
首領討伐なら行けるかもしれないが、その後だ。
その残党達。いい具合に戦意喪失してくれれば良いが、逆に士気を上げてしまうかも知れない。
いや、ほぼ確実に。
その場合、恐らく退路は断たれ、かなりの混戦になるだろう。その混戦の中、アルを守れるだろうか。
いや。守れるかどうかじゃなくて、守るんだろ。絶対に。
決して『あの時』のような失態は晒さない。
あんな感情は、一生感じたくも無い。
アルを、死なせはしない。
アサナトは少し乱れた精神を統一する為に深く目を閉じ、深呼吸する。
目を開け、不安そうにしているアルメスに向かって言葉を吐く。
「仕方ない……二人で任務を遂行するぞ」
「……出来るんですか?」
不安を隠しきれないアルメス。
「きっと……いや、絶対に成功させる」
アサナトの決意の顔。それにアルメスは昨日の夜のアサナトの表情を重ねる。
(いくら先が見えなくても、それでも託したくなる、そんな顔つきですね。アサナトさん)
顔を俯かせ、不安の表情から笑みに変え、顔を上げる。
「分かりました。託しますよ。アサナトさん」
「ああ」
アルメスの決断に、小さくも心から感謝する。
「では、これから任務の内容を確認するぞ」
アサナトがそう言い、机に地図と任務内容が書かれた紙を広げる。
その時にはもうミカ達は会合の準備の為、既にこの宮殿を発っていた。
色々心配の言葉と、助言を残して。
「任務内容は、リリスヴェールを根城にした、オークの首領と軍団の討伐だ」
アルメスはよりにもよってオークか、と眉をひそめる。
オーク。生命力が強く、体躯も力も強い。人間より知能が若干劣るが、弱点はそれぐらいの種族。
しかも繁殖能力が高く、主への忠誠心も高い。
オークは、環境や地域によって豚をモチーフにしたタイプや、猪をモチーフにしたタイプなど様々で、タイプによって能力が若干異なったりする。
しかも、リリスヴェールを根城にしている。
あそこは隠れ、密かに軍団を築くには十分すぎる土地。森の構造の複雑化もそうだけど、あそこは魔物が多く住み着いている為に住民はおろか、森を監視する兵すら居ない。
何故森に監視が居ないか。それは高さの異なる木々が生い茂っていて、外から見ても、森の中の様子を全く視認出来ないから。
人間の監視が行き届かないからこそ、リリスヴェールは多くの魔物が巣食う魔の森となっている。
元々、リリスヴェールは魔王の軍勢の住処だったらしいから、その名残か。
ここでアルメスはあることに気付く。
ん?そんな監視が行き届いていないリリスヴェールで、なんでオークがいるってのが分かったの?
疑問に思ったアルメスは聞いてみることにした。
「?なんで深く監視の行き届かないリリスヴェールに住み着くオークの事を知れたんですか?」
「ある冒険者達の情報で、とんでもないオーク達がリリスヴェールに居るって情報が入って来たんだよ」
「そうなんですか….」
納得したアルメスはちょっと気になっていたオークのタイプについて聞いてみることにした。
「では、そのオークのタイプは何なんですか?」
「豚だ」
「豚……ですか。厄介ですね」
豚をモチーフとしたオークは、ほかのタイプのオークよりも体躯が大きく筋肉質。
つまり、耐久力が高い。そんなオーク達に囲まれたら瞬く間に狩られてしまう。
攻撃一発一発をものともせず攻撃を繰り出してくる為、急所を率先的に狙わないと中々倒れない。
「……オーク達の数と首領の正体を教えてください」
「ざっと一万から二万。首領はオークロード」
アサナトの言葉を聞いて、アルメスの顔が凍り付く。
「数は一万から二万で、しかも首領はオークロードですか……」
オークロード。そのくらい高位の存在なら一万から二万の大量の軍勢を従えていてもおかしくない。
……恐らく固有の能力も発現しているはず。
ここでアルメスは妙な引っ掛かりを覚える。
……?待って、何でオークロード?高位過ぎない?
そのくらいの高位存在があの森、この国で生まれる筈は無い。
それは、生まれる必要など無いから。
それは何故かというと、『争いという、自らが自らを進化させねばならない出来事が無いと、オークはそれ程高位の存在を生み出す必要性が皆無』だから。
元々リリスヴェールは魔物が巣食う森。だけど、別々の種族同士の争いなど起こらない。それは、互いが互いの境界をしっかり認識しているから。
ならば何故?
何故オークロードは誕生した?
それ以上考えるよりもアサナトに問いかけた方が早いと思い、問いかけてみる。
「なんで、争いなど起こらないリリスヴェールで、オークロードなんていう高位存在が生まれたんですか?」
(いい着眼点だ)
疑問を抱いたアルメスを心の中で賞賛するアサナト。実際に面と向かって言わないのは、そこに疑問を確実に抱くと思っていたから。
「実際、オークロードはリリスヴェールで生まれては居ない。というより、そんな高位存在が生まれるのは、魔族の国、シュプリーム王国くらいだがな」
「じゃあまさかこのクエストが、任務として僕たちに渡って来たのって……」
アサナトの言葉によって察したアルメスに、アサナトが軽く笑う。
「そう。オークロードは、シュプリーム王国の手先だよ」
「!?」
アルメスの予想は当たっていた。悪い予感が的中したのだ。
「そしてそんなオークロードは、カラリエーヴァへの襲撃を企んでいる。早くて明日から明後日辺りだ」
「ならもう今すぐにでも!」
焦りの感情が滲み出ているアルメスを、アサナトが冷静に止める。
「まあそんな焦るな、まずは俺の作戦を聞け」
アサナトは作戦をアルメスに話す。
その作戦というのは、ほぼ暗殺に近い強襲だった。
♢
光の刺さない深い森の中。
現在、日が落ちて暗くなるその一時間前くらい……かな?
何しろはっきりしないのは、ほぼ空の様子が見えないリリスヴェールの森の中だから。
僕は、戦闘用の服に着替えさせられ、アサナトさんも戦闘用の、しかも闇に溶け込む為、黒色に着色された色々な機能を備えているらしい特殊な戦闘服に身を包んでいる。
……元々アサナトさんはいつも黒い服を着ているからあまり違いが分からない。
「着いたぞ、ここから先が、オークロード達の縄張りだ」
縄張りをはっきり区別させる為なのか道のように木が切られていて、それのお陰で綺麗に空が見える。
その空を見てみて大体アルメスの見立ては合っていたようだ。空が黄色になって、薄暗くなって来ている。
アルメスが一応後ろを見る。やはり騎士団達は居ない。
やっぱり居ないかと少しため息をつく。
「準備、出来たか?」
当然、出来ている。
「はい!いつでも良いですよ」
アルメスは作戦の事を思い出す。
(作戦第一段階、アサナトさんの大魔法による陽動)
『いいか、まずオーク達の縄張りに着いたら俺が注意を逸らすために大魔法を放つ。そしたら、一気に敵本陣まで突っ込み、オークロードを討伐する。そこからが勝負だ。その後すぐさま退散し、リリスヴェールの外へと突っ走る。その途中に残党のオーク達に襲われるかも知れんが、全員俺が排除する。流石にリリスヴェールの外までは追ってこないから、逃げ帰って来たタイミングで任務完了だ』
『オークロードを討伐後に残党から逃げ切れる』それがアサナトが始めてアルメスについた嘘だった。
アルメスはそれが嘘だということに気付けなかった。
『それって僕居る必要あるんですか?』
それがアサナトの作戦を聞いてみての率直な感想だった。
アサナトが怒ったのかアルメスを睨む。
『いいか。これはお前が成長するための任務だ。それなのにお前が居なくては話にならないだろ』
アサナトの熱い説得を聞いて、仕方ない、と自分を納得させる。
『分かりました、それで行きましょう』
こうして作戦は決まった。
「あ、そうだこれ飲んでおけ」
そう言いながら、丸い錠剤のような物を手渡された。
全く見たことがない物。
「なんですか、これ」
「飲用すると、魔法を使えないものでも通信魔法を使うことができる優れものだ。連携の時に言葉を発さずに話せて便利だから飲んでおけ」
「まあ、変な物じゃなければ」
飲まないメリットがないので、とりあえず飲んでおくことにした。
飲み込んだ瞬間、頭の中にアサナトの声が響く。
(聞こえるか、アル?)
少し動揺したが、通信魔法という事に気付いた。
(これが通信魔法なんですか?)
「ああ、通信魔法の使い方を簡単に説明するぞ」
一度会話に切り替え、通信魔法の使い方を説明し始めるアサナト。何か口頭で説明しなければならない事があるのだろうか。
「え、あ……はい。どうぞ」
「今回アルが使う通信魔法は本人に伝える、という意思を持って語りかける事によって伝わる、という魔法だ。だから伝えたくない事とかを無意識に伝えてしまうという事が無いから連携の行き違いなどが無くて汎用性が高い種類の魔法さ」
変に伝える事がない……か、ありがたい魔法で助かります。
「この魔法はいつ切れるんですか?」
飲用系の魔法習得は一時的なものが多い。それは、消化によって錠剤に込められた魔法が消えてしまうから。
だが、魔法が消えない物もある。かなり高級品だが。
淡い期待を込めてとりあえず聞いてみた。
「切れないよ、それは」
困惑するアルメス。
「え、それってかなり高級品じゃ……」
「いや。これは女王近衛隊が量産しているから無料さ」
量産しているって。こんな高級品を簡単に量産している女王近衛隊ってやっぱりおかしいよ。
「量産ってどうやってこんな高級品を……」
「それは企業秘密」
いい感じにはぐらかされたのでこれ以上聞くことは無かった。
「さて、無駄話してないで、そろそろ『始めるぞ』」
その言葉を聞いて緩んできた気を引き締める。
「……どうぞ」
アサナトがその言葉を聞いて斜め上辺りに左手を手をかざす。
その瞬間、アサナトの体が赤色に光りだす。
「大魔法、発動」
言葉を発した瞬間、光が消える。
その次に鳴り響く轟音と焦げ臭い温風。
その匂いを嗅いで、シュプリーム王国に付けられたアサナトの二つ名を思い出す。
(フラルゴの悪魔……爆殺の死神)
アサナトさんは爆裂魔法か強力な炎魔法の使い手らしい……けどアサナトさんが魔法を使うのは最初の一撃のみで、大軍を一気に葬るのにそれが使いやすいというだけらしく、実力を隠しているらしい。
今回も陽動の為だけのために魔法を使っている。そして当然の如く詠唱無し……と。
やっぱり女王近衛隊、怖い。
「さ、走るぞ、これからはスピード勝負だ」
「はい!」
アサナトの合図と同時に全速力で走り始める。
走ってて気付いたが、異常に足が速くなっている。
身体能力の強化の所為もあるが、それだけでは無い筈。
あ、こういう時の通信魔法か。
(アサナトさん、なんか強化魔法でも僕にかけました?)
質問するが、足は止めない。
平行して走っているアサナトが、アルメスを見て笑う。
(あの錠剤に、強化魔法も込めておいたんだよ。だがこれは効果が切れる代わりに、瞬発的に莫大な力を引き出す事が出来るような作りになっている)
二つの魔法を込めた錠剤……もしかして僕、古代技術並みの物飲んじゃった?
しかもそんな物を量産って……やっぱり女王近衛隊は人外しか居ないのかな……?
(そろそろ敵本陣に着くって……待て)
アサナトがアルメスを止める。
何かに気付いたようだ。
と同時に、アサナトにスイッチが入る。
戦いの。
(どうしたんです?)
アルメスは周囲を見回してみてもその何かに気付けなかったので聞いてみる。
(敵の攻撃が来たと知って、伏兵達を忍ばせているようだ、気付かれないように突破するなら、五十体程を瞬時に排除せねばならないか)
(……できるんですか?)
いくらアサナトさんでも気付かれずに五十体を一気に、とは難しいのでは無いか。
(聞くまでも無いだろう)
アルメスの心配する語りかけに焦りなどの感情を全く見せずに余裕の表情で答える。
経験からなる自信だ。
恐らくこれは崩せない。
(伏兵?か。確かに伏兵も伏兵、だが陽動用の魔法の規模の所為で敵は大軍が来ると勘違いしている。だが、こちらは二人。しかも見たところ位置取りが拙い。何故か大軍を相手取ることを意識した位置取りでは無い事を分かっていない。ただ一点に固まって、動く様子もない。これでは只の軍対軍の正面戦闘の陣形。背後から襲って軍を壊滅させる目的の伏兵では無くなっている。……このタイプの位置取りは、ただ雷を纏わせたナイフ三本で事足りる)
アサナトは腰から投げナイフを三本だけ取り、指の間に一個一個挟み込むようにして握り込み、暗闇に紛れさせるために黒色の雷の魔力を流し込む。
このナイフは魔力伝道性能を高めた特別製の投げナイフ。そこらへんの市販投げナイフとは訳が違う。
プロ仕様だ。プロ仕様。
流し込まれた魔力を倍増させる能力を持つ。まあ、アサナトの魔力量は底が無いので、燃費を良くしたところで関係ないのだが。
たった一秒足らずで投げナイフに魔力を流し込むのが完了した。
それを確認したアサナトが五十体の伏兵を三角で囲むようにナイフを投げる。
ナイフが地面に刺さる。
音が出たはずなのにオーク達は気付かない。
(もっと頭を良くしてから来るんだな)
アサナトがまだ気付かないオーク達に皮肉を飛ばす。
その瞬間。伏兵達を黒い雷が襲う。
「……!?がああああっ!!」
アサナト達に聞こえるオーク達の掠れた悲鳴。
(行くぞ。アル、間もなく敵本陣だ)
呆気に取られる暇もなかった。
(あ、はい!)
敵本陣の手前。
途中に真っ黒に焦げたオーク達が転んでいた。鎧を着ているにも関わらず、その鎧さえも黒焦げになっていて、匂いは刺すように焦げ臭かった。込めた雷の魔力が高いのだろう、でなければこんなに焦げない。
(さて、もうこの草を搔き分ければもう敵本陣だ)
アサナトが一メートル程に伸びた草を草の上から上半身が出ないように屈みながら草を掻き分ける。アルメスもそれに習って屈みながら掻き分けられた草から本陣を眺める。
(流石にそこまで馬鹿じゃないか、侵入者を拒む柵があるな……まあ転送魔法があるから簡単に抜けれ……いや、柵を切り取るぞ )
転送魔法の方が楽なのに突然柵を切り取ることに切り替えたアサナト。
アルメスはその理由に気付けなかった。だから聞いてみることにした。こういう所を吸収する為の任務、らしいから。
(何故転送魔法を使わないんですか?)
アサナトが上を見ろとジェスチャーをする。ジェスチャーのままに上を見ると。
そこには黒い、光さえも曲げている穴のようなものが浮いていた。かなり禍々しい。こんな魔法は見たことがない、もしかして、オークロードの固有の能力か……?
(あれって、オークロードの能力ですか?)
アルメスのその問いかけにアサナトは頷く。
(おそらく、あれは引力や力を制御する能力だな。浮いているあれは、この柵の向こうで展開された魔法を記録する用の物だろう。もうここまで使いこなしているとは、素直に賞賛だな)
(じゃあ、柵の向こうで魔法が使われたら、直ぐに……)
アルメスの推察に頷くアサナト。
(直ぐに捕捉される。それは流石に隠密の討伐には枷にしかならん)
アサナトが柵を切り始める。これからは見つかった途端に戦闘が始まってしまう。
アルメスは緊張で鳴り響く心音を必死に抑える。
アサナトが柵を切り終わり、先に穴に身を通す。安全を確認してから、アルメスに目でアイコンタクトで合図する。
アルメスは緊張している自分に折り合いをつけて、穴に身を通す。
緊張に簡単に折り合いをつけれたのは、前の師匠のお陰か。
そう健気なアルメスを見て、小さい笑みを浮かべるアサナト。
「どうしたんですか?」
その笑みの意味が分からず、しかもうっかり口で話してしまった。
アサナトがそれに気付き、嫌な表情を浮かべながらジェスチャーで静かにと問いかける。
やっと気付いたアルメスはハッと口を塞ぐ。
ここでアルメスはある事に気付く。
(この通信魔法ってあれに感知されないんですか?)
(これは特殊なプロテクトが掛かっていて、感知されない様になっている。強化魔法もそうだ)
(用意周到ですね)
アルメスの賞賛の言葉に笑うアサナト。
(そのくせ、会合の準備の事については忘れてたんだがな)
アサナトのその言葉に釣られて、笑いを溢すアルメス。
そのお陰で、完全に緊張を忘れ去ることができた。
そして今は、建物の陰に隠れて、うまく進めていられている。
だが、歩みが止まる。オークロードが居るであろう建物の近くに、身を隠せる建物が無い上に、陽動の所為で護衛が居る。そして死角がなくなる様に立っている。
さっきの伏兵の様な拙い陣形では無い。明らかに訓練され、洗練された立ち振る舞い。雑兵では無い事は一目でわかった。
アサナトがそれを見て、正面突破とほぼ同じの、捕捉されるのを覚悟で転送魔法でオークロードの懐に潜り込む作戦に変える。
(アル、『転送するぞ』)
アルメスはその言葉でアサナトの作戦に気付く。
(感付かれる事を承知で……ですか。こんな状況ではそれしか無いですね)
アルメスの合意を聞いて転送魔法を始めるアサナト。
青色の魔法陣がアルメスとアサナトを包む。
魔法陣が発する閃光によってアルメスは目を閉じる。
目を開けると。
玉座に堂々たる姿でオークロードが居座っていた。
焦りなど感じさせない威厳を感じさせる。
これが高位存在、オークロードか。
オークロードの威厳に圧倒されているアルメスを代理する様に、アサナトがオークロードに向かって威嚇する。
「オークロード。お前を王国に仇なす存在として排除する」
それは凛々しく、尊敬する程の立ち振る舞いだった。
これから六つ程、このくらいの文字数になりますが、ご了承ください。