垣間見える実力
「あの、アルメスさん」
下を向いて気まずそうにしているアルメスに、ミカが呼びかける。
アルメスを歓迎する為のお茶会なのに、全く喋らないアルメスを見兼ねたのだろう。
「!?」
急に名前を呼ばれ、不意に筋肉に力が入る。
勢いで顔を上げたアルメス。
それを確認し、ミカが続けて発言する。
「アルメスさん。突然の弟子生活で色々大変じゃないですか?」
「まあ、……はい、かなり」
最初誤魔化そうと思ったが、ミカの心配そうな表情を見て、出かけた言葉を必死に止め、本心を告げる。
「……」
アルメスの話を聞いていたナミアが無言の威嚇でアサナトを睨んだ。
狼の様な目で。
「……はは」
それに、申し訳なさそうにクッキーを持つ右手と何も持っていない左手を上げ、降参のポーズをしながらナミアの怒りの沈静化を図るアサナト。
だが、素直に謝まらなければ逆にナミアの怒りが収まらないのでは無いのか。
数秒間睨んでも尚はぐらかそうとするアサナトに飽れたのか、そっぽを向き、アルメス達の会話を聞く体制に戻るナミア。
「……そうですか。やはりアサナトさんのお弟子さんは、色々苦労する運命にあるようですね。」
何やら感心するように話し始めるミカ。
そもそも昔アサナトさんに弟子なんていたのか……。
ミカの話に間髪入れずナミアが笑い混じりに言う。
「確かに。アサナトの弟子になったら無条件で苦労させられる……とかいうジンクスがあるのかしらね。」
「おい、その話は……」
ナミア達の遠回しな煽り文句に耐えきれなくなったのか、アサナトがストップをかける。
「分かってます。」
それに不自然に暗い顔をしながらミカが答えた。
その顔を見てアサナトの昔の弟子に何かあったのだろうか、と思ったが、人の掘り起こされたく無い過去を無理に詮索しようとするのは、まだ知り合って間もないのだし、自分だってそういう過去があるので自重する事にしたアルメス。
その会話のせいか、部屋に流れる微妙な空気。
少し鈍感なアルメスですらわかる程の気まずい雰囲気。
雰囲気をどう解消しようか考え始めるよりも早くミカが手を叩く。
「こんな雰囲気では、まともにお茶会出来ませんね。……どうです?アルメスさんの実力確認も兼ねた鍛錬でもしませんか?」
「いいな、それ!もちろんアル、来るよな?」
さっきの雰囲気などなかったかのような程元気にアサナトが合意する。
本当ならいいえ、と言いたいのだが、女王様の提案の上、弟子になってしまったのだし、実力確認は必要、と判断する。
「……分かりました」
アルメスの言葉を聞き、笑顔になるアサナト。
「ならこのお菓子一式は戻しておいて良いわよね?」
ナミアが机の上に残された菓子類に一瞥をくれ、ミカに問いかける。
「宜しくお願いします」
ナミアの質問に、ミカが合意する。
「分かったわ」
その言葉と共に、ナミアの女王近衛隊のバッジが杖に変わる。
その行為に、アルメスは首をかしげる。
何故なら。
普通、魔法の補助道具が全く質量も、材質も違う別の物質に変えて、しかも例え変えたとしても、再度杖に戻し、それが魔法の補助道具としてまた機能することは、アルメスの知る限り、いや、あったとしても、古代魔法や古代の特殊な技術によって生み出されたものなり、莫大な魔力を使う特殊な魔法ぐらいしか無い筈。
だが、ナミアは簡単に杖の変化をやってのけている。
凄まじい技術だ。
ナミアが菓子類の乗せられた机に杖を向ける。その瞬間杖が光り、菓子類の周りを光が覆う。
光が消えた頃には、菓子類は消えていた。
アルメスは当たり前か、と小さな笑みを浮かべる。
杖が魔法補助道具として機能しているのも含め、『詠唱を必要としていない』という事が彼女が超一流の魔導師だという事を物語っていたからだ。
「さぁ、行きますわよ」
「ああ」
目の前でかなり高度な技術が使われているというのに、平然と返事するアサナト。
その姿を見て、呆気にとられるアルメス。
(これが女王近衛隊の日常……怖い)
「ほら、行くぞ」
すれ違いざまにアサナトが呆気にとられているアルメスの肩を叩く。
「あ、はい!」
咄嗟に返事し、ミカ先頭を先頭に部屋を出る。
「あの……ミカ・アイレス様?実力確認とは具体的にどういう……」
少し疑問だった『実力確認』とはなんなのかを確認したかった。
今思えば普通に無礼だったと思う。
「私が相手アルメスさんの相手をするんですよ。あと、普通に『アイレス』でいいですよ」
「え、でも……」
アルメスには、実力確認についての答えの反応よりも『呼び捨てでいい』という旨の発言の反応の方が先に来てしまう。
アルメスのその反応に無言の圧力を浴びせるミカ。
だが、アルメスも譲れないものもある。
「じゃあ、『アイレスさん』で……良いですか?」
五秒ほど悩み、受け入れた様でニッコリと笑うミカ。
「私はナミアでいいわよ」
横からナミアが顔を出す。
かなり近くにナミアの顔が接近してきたので、赤面するアルメス。
「では、ナミアさん……で」
少しだけ期待していたナミアは期待を裏切られ、ため息するナミア。
「譲らないわね」
「こんな奴なんだから仕方ないだろ」
知った様にナミアに向けて話すアサナト。
会って一日目な筈なのになんでこんな風に話せるのかとは思ったが、会う前に調べていた様なのでとりあえずそれで納得して流しておくことにした。
ミカが立ち止まる。
顔を上げるとかなり大きい、しかも重厚で、特殊な魔術刻印が施された扉があり、その上には『訓練室』と書かれたドアプレートがあった。
「さあ、着きましたよ、『訓練室』に」
そう言いながらミカが扉を開ける。
その先にはかなり広く、あらゆる訓練の衝撃にも耐えられそうな程頑丈な部屋が待っていた。
置かれている武器の種類も多種多様だ。
アルメスが見た事すら無い武器達も、ちらほらある。
……流石の宮殿内訓練室。豪華だ。
正直。
財力凄まじいですね、と言いたかった。
まあそれは当然、脳内会議によって却下されたのだが。
「では、実力確認をしましょうか」
ミカが開かれた扉の前で振り向き、アルメスを見ながら微笑む。
実力確認の始まりだ。
♢
激しい剣撃によって飛び散る火花。
実力確認中の二人を隔てる白い壁の向こうで観戦するアサナトとナミア。
「アルって、やっぱり武術の心得があるのね。」
アルメスの素人ならざる剣技と身のこなしを見て、ナミアが感心する様にアサナトに向けて話す。
「ああ、昔剣を教えて貰っていた様だ」
「そんなことまで調べてたのね……アサナト、あんたプライバシーって知ってるわよね?」
嫌味。
「仕方ないだろ、弟子の事は調べないと、な」
「あんたまさかあの事まで……」
その言葉によって急に焦り聞き出すナミア。
「しょうがないだろ。知らないといけなかったんだから。だが大丈夫だ。無理に掘り起こすことは無いさ」
それでナミアの焦っていた表情が安心した表情に戻る。
「それなら良いわよ。だけど今は、ね」
「……そうだな」
そうこう二人が話しているうちに、事が済んだのか、白い壁が解除される。
「終わりました。しかも色々教えたい事を教えられました」
そう話すミカの後ろで、かなり疲れた様子で倒れているアルメスを見つけたアサナト。
「回復魔法は使ったのか?」
「使いましたが、精神的疲労の所為でしょう」
アサナトがアルメスに詰め寄り、アルメスを背負い、適当に寝れそうな椅子に寝かせ、怪しい笑みを浮かべながら振り向く。
何かを企んでいる。
「弟子もこんなになっちまったし……どうだ?俺と闘わないか?」
恐らくアルメスを鼓舞する目的で言ったであろう発言に、ミカがにこやかな笑顔を浮かべ、
「分かりました。その戦い、受けましょう」
承知した。