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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第ニ章〔蓄積憤怒〕
26/27

英雄の集結

 

 ドン、と。


 勢い良く訓練室の扉が開けられる。


 重厚な扉が両開きに音を立てて開くと同時に、眩いばかりの日差しが訓練室へと差し込む。


 そして、その日差しを背に浴びる三人の黒い人影。


 身長差が激しく見られるその立ち姿に、アルメスは輪郭しか見えないながらも既視感を覚えた。


 しかも、雰囲気的に宮殿の召使いなどではない。



 ……もっと地位が高い人物達だろう。



 アルメスは、咄嗟にその人物達の魔力を見た……が、全く見えない。



 ……いや、魔力がないわけでは無く、隠しているだけなのか。



 アルメスがそれについて本格的に思考するよりも早く、その内の一人が声を上げる。


「ここに居たのかよ……お。そこに居るのがアサナトの弟子か……?あれ、二人いる」

 ワイルドな声だけれども、澄んだ声音。

 男の人だ。

 声の位置的に、アルメスから見て一番右の人物だろう。


 逆光でよく見えないが、体格的にはアサナトと同じ位の身長。


 そして、肉体もかなり鍛え上げられているというのが分かる。


「馬鹿者、先ずは帰還報告からだろうが」

 疑問の声を上げる男の頭を叩く真ん中の人影。


 リーダー気質な様だ。


 耳に透き通る様に入るその声と、女性らしいすらっとした体格。


 声の高さで女性だと推理するのが自然なのだが……。


 問題は、その男の様な言葉使い。


 まあ、見れば分かる事なのでこれ以上は考えないことにしたアルメス。


 スーシャは、突然の事で多少固まっている。


「そうですよ、イェネオスさん。先ずは帰還しました、から入るのが妥当ですよー」


 そして、人影の一番左に居る小さな人影。


 幼い子供の声をしている。


 身長的に少女だろう。


 アルメスの知っている人物の中で一番近い身長の持ち主は……キアだろうか。


 だが、幾分かあの少女の方が身長が高い。


「あ。ああ、そうだったな。探索から帰還したぜ」


 逆光でただの黒い人影となっている状態で、手を振ってアサナト達に報告する男。


 紛らわしい、というより姿が見えずに、話が勝手に進んでいる事に付いて行けていないスーシャやアルメスを見兼ねて、ミカが人影達に告げる。


「すみませんが、逆光の所為で姿が見えず、アルメスさん達が困惑しているので扉を閉めて頂けますか?」


「分かった。直ぐに閉めよう」

 中心の人影が直ぐに了承し、両方の扉を閉める。


 これで逆光問題は解決した。


 後は……。



「……!?」

 その人物達を見たアルメス。


 機を見て、アサナトが解説を始める。


「改めて紹介しよう。こいつらは、女王近衛隊の残りの隊員だ」



 ーーー停止。


 アルメスの身体全ての動きが止まった瞬間である。


 勿論、比喩だが。


 音も立てずひっそりと止まったアルメスに気付く事なく、話を続ける。


「この方達が、ですか!?」


 スーシャはまだ生きているので声を上げて驚くが。


「そう。左から、シリアン・フィスィ。エセウナ・ローレッジ。そして……イェネオス・アーサイドこと馬鹿だ」


「え?ばーーーー」

 スーシャがそれに反応する前に、イェネオスが大声で遮る。


「誤解の入る様な紹介を挟むんじゃ無いぜ、アサナト!」


「揺るがない事実だと思うのだが?」


「ぐ……」


「エセウナは違うよな!」

 隠す事無く悪口を飛ばすアサナトに、否定する事なく横のエセウナに助けを求めるイェネオス。


「全くその通りだな……」

 アサナトの言葉に首を縦に振って感心するエセウナ。


「……え?」

 そして、逃げる様にイェネオスはミカを見る。


「ミカは!?」

 だが、帰ってきたのは和かな笑顔だった。


 否定も肯定もしない、判断を私に押し付けるのはやめてくださいとイェネオスに察せさせる笑みだった。


 全く、本人はそう思ってはいないのだが。


 そして、やっとアサナトが体の機能が停止しているアルメスに気付く。


「そんな事どうでも良いから、冬眠中の熊の如く停止しているアルの救命に入るべきだとは思わないか?」


「あ」




 ♢




 アルメスの救命治療後。


「え……まだ状況を把握出来ていないんですが……この御三方が……あの?」


「そうだぜ?……分かったところで聞くがお前はアサナトの何なんだ?」

 ぎこちなく笑うアルメスに、恐れる事なく聞くイェネオス。


 なんなんだ、という言い方では少し語弊が生まれてしまう気がするのだが。


「何なんだ、とは?」

 案の定、疑問を持たれて仕舞うイェネオス。


 変な話の絡まり方をしないように、アサナトが説明する。


「弟子だ。名前はアルメス・レジュリゲート」


「ほう……こんな小僧がな……」

 そうアサナトが解説すると、横のエセウナが意外そうに声を上げた。


 エセウナはスーシャがアサナトの弟子だと思っていた様だ。


 エセウナの紫眼が、アルメスの身体を見て回る。


 そして、早々に納得した様で純白の髪を靡かせ、顔を上げた。


 次に、イェネオスもアルメスの身体を見て回った。


 尚、以下エセウナと同じ反応。


「まあ。納得は出来るな。存在能力も開花してるから、良いとは思うぜ」


「え?」

 存在能力が開花している?


「やっぱりそう思うか」


「え?存在能力が開花って、どう言う……」

 新事実に耐えきれず、聞くアルメス。


 無理はないが。


「なら……ちょっと来い。アル」

 アルメスの手を取るイェネオス。


 いつの間にかあだ名で呼ばれている事についてはもう気にすることはないと見切りを付け、そのままイェネオスの手に引かれて行ったアルメス。


 側から見たら誘拐犯の様だ。



 だが途中で止まり、スーシャの方向へ振り返りながら言うイェネオス。


「そこの君も来い」


「え?あ、はい」

 多少困惑しつつも、相手が女王近衛隊隊員なので、そのままついて行くスーシャ。



 私の名前紹介などはしていないけど、それで良いのかな。


 そんな事を、スーシャは杞憂していた。




 ♢




 アルメスは心の中で、思い出していた。


 カラリエーヴァを守った、五人の英雄の事を。


 アサナト、ナミア、エセウナ、イェネオス、シリアン。


 シュプリーム王国がカラリエーヴァ王国を襲撃した際に、たった数千人の犠牲で済んだのは、この五人の英雄のお陰と言っても過言では無い。


 その五人の英雄達は、敵国であるシュプリーム王国に凡ゆる二つ名を付けられた。


 アサナトは、フラルゴの悪魔……爆殺の死神と恐れられ、敵兵の目や耳に、燃え爆ぜる爆発のトラウマを植え付けた故にその名を冠された。


 ナミアで言うと、金髪の俊豪と恐れられ、敵国が凡ゆる策を弄しても全て読まれて、回避不可能の策、陥穽に陥れた事から、その名を冠された。


 他三人も同じ様に二つ名を付けられているが、イェネオスだけは勇猛果敢の戦士、と意味は分かる、がしかし、二つ名を付けられた経緯や人物像がはっきりしていなかった。




 そして、アルメスの目の前に居るイェネオス・アーサイドという人物は、正直言って、謎だ。





 存在能力の開花の事を聞かれて、迷い無くスーシャごと小部屋へと連れて行くという行動があまり理解出来ない。


 が、信じられない訳でもない。


 持っているオーラ、というべきだろうか。


 それが、この人物は信じられる人物と本能が感知している。


 鵜呑みにする気は無い……だが。


 既視感があるのだ。


 オーラというか、そんな感覚というのが、本当に。


 アサナトさんと。ミカさんと。ナミアさんと。


 他の皆さんもそうだった。


 一目で分かったんだ。


 アサナトさん達と始めて出会ったあの時の様に。


 だから……信じる。


 勇気を貰ったあの時の様に。

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