回る歯車、地獄の訓練の始まり
同刻。
メル・セルリアが消失した瞬間。
アサナト達は、察知していた。
その元凶である謎の女性の魔力を。
アサナト達は、王国内で発生した身元不明の魔力を全て察知できるのだ。
例外なく、全て。
魔力を使わない能力などは察知できない……がそれでも広大な範囲。
今回、謎の女性が魔力を発する迄、そんな人物は王国圏内には居なかった。
何処からともなく現れたのだ。
これは、かなりの確率で襲撃か偵察だ。
確実的な異変に気付き、アサナト達は声を上げる。
「ーーーー謎の人物を、王国内にて発見!全員対応だ!」
現在、絶賛アルメスとスーシャの訓練中だ。
突然そんな事を言われて、困惑しない訳が無い。
「え?」
状況が理解できずに戸惑うアルメス達に、ミカが声を掛ける。
「シンゼル・アリエスです。襲撃の可能性が有ります。転送魔法で急行します」
「え?あ……はい」
取り敢えず了承する。
「じゃあ、行くわよ」
有り合わせの武器で装備を整えたアルメスに、愛用の武器を携えてもう既に臨戦態勢を取ったスーシャ。
キアは既に部屋で眠っている。
アサナト達は武器も持たず、転送魔法を使用するナミアすらも素手の状態だ。
杖を持たないで転送魔法を使用するつもりだろう。
そして、問題なく魔法陣が展開され、転送準備を完了させた。
一流の魔導師と言う事が見て取れるが、アルメスはそんな事を考えている場合では無い。
シンゼル・アリエス。
女王側近が、わざわざこちらの所へ来たのだ。
何か理由がある。
気を引き締めて掛かろう。
♢
アルメスは光り輝く魔法陣の中で、時を待った。
何の為にシンゼル・アリエスは此方へ来たのか。
それは、見ればわかる事。
閉じた瞼の中で、薄れて行く光を感じ、目を開ける。
ーーーーいざ、その理由を見てみる事にしよう。
「ちっ……」
一番最初に入ったのは、アサナトの舌打ちだった。
……何も無い。
人の姿も、痕跡すらも。
だが、残っているものが一つだけあった。
それは、アルメスには見えない物。
魔力の残穢だ。しかも二つの。
「もう遅かった様ですね……」
周りを見渡し、本当にシンゼルが消えてしまった事を確認したミカ。
そして、その場に残った魔力の解析を始める。
「二つの魔力の残穢が有りますね」
「……二つ?」
まず、一つ目の魔力の解析を始めてーーーー終了。
「一つは、シンゼル・アリエス女王側近の物です」
「じゃあ、二つ目は誰なんですか……?」
妙な胸騒ぎが止まらないアルメス。
まさか、と有り得ない予想を組み立てる。
「メル・セルリアという少年です」
「……っ!?」
予想的中。
ミカの口から出た言葉は、アルメスが最も聞きたく無い一言であった。
さっきまで笑って、僕と話していたのに……と。
「ご存知なのですか?……まさか、ご友人?」
「……はい」
その答えを聞いて絶句するミカ。
「不味いな。というより、何故アルの友人を……」
何故シンゼル・アリエスがアルメスの友人、メル・セルリアを攫う、ないし殺害を試みたのかが不明。
気配をどれだけ探っても、シンゼルはおろか、メルすらも発見出来ない。
十中八九、シュプリーム王国へと連れ去られただろう。
尋問目的か、或いは引き入れる為か……。
「理由は分かりません、ですがこれもカラリエーヴァ襲撃の計画の内でしょうね」
「本格的に、襲撃への歯車は回されたと言う、事?」
スーシャの疑問の声に相槌するミカ。
「メルは、生きてるんですか……」
青ざめた表情で、アルメスは掠れた声で、言った。
心を預けられる、数少ない友人が荒事に巻き込まれたのだ。無理はない。
だが、元気付けの言葉を掛けてやれる程、そう現実は甘くない。
だから、アサナトは包み隠さず、言った。
「……死んでいるかも知れない」
「……!?そう、ですか……」
現実を叩きつけられ、アルメスは絶望する。
「済まない」
アサナトの謝罪を聞いても尚、アルメスは落ち込んだ肩を戻さない。
ーーーだが。
「……生きているかも知れないのなら、僕はそれに賭けたいです」
希望を見出した。
今までなら、このまま落ち込んでいたであろうアルメスが、一歩を踏み出した。
「……当然、俺達もそのつもりだ」
なら答えるしかないだろう。
「私も、仲間の友人の危機だし、喜んで手助けするよ?」
スーシャの元気付け。
健気な笑みを浮かべて言ったその言葉には、ネガティブな感情など全くない。
心から手を貸そうとしてくれている。
俄然、やる気が出てきた。
「有難う。皆さん」
心から感謝を述べ、アルメスは気合を入れる。
友人を救う為。
仲間からの期待を背負って。
「今すぐにでも行きます?」
そこで、アルメスのよく考えないで出た爆弾発言。
当然。
「実力不足だ。却下」
「ですよね……」
「だから明日から訓練に本腰を入れて貰うぞ。スーシャもだ」
自分は訓練しなくても強いから大丈夫、と思い安心するスーシャが、突然指名されて仰天する。
「私もですか!?」
「わたくしたちの仲間となるんだから、努力は必要なのよ?」
「了解です……」
ナミアの言葉に、自分の気持ちを押し殺して納得させるスーシャ。
そして、アルメスは友人を救う為、スーシャは巻き込まれて鍛錬に参加させられることになった。
ーーーだが、この鍛錬で両者が大きな成長を遂げるのは、言うまでも無かった。
別シリーズの投稿に急ぐので、こちらでは二日一更新になりそうです。
そちらでは一人称視点での描写を頑張ってみます。