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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
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挽回する信念

 

「キア……ですか」


「あれだけ入れ込んで置いて、最後は簡単に切り捨てるの?」


 急所。



 そう言われると、アルメスは言い返せない。


 どうでも良い、とも言えない。


 キアは、アルメスにとっての最大の未練だ。


 連れて行ってはいけないから。


 自分と一緒に連れて行ったら、安全は保証できない。


 だから置いて行くつもり……だった。


 だが、ナミアさんの言葉により、その気持ちが揺らいできているのも事実。


 キアを引き取り育てるのは、自分の人生の教訓を教える事もあり、償いでもあった。


 自分の様になるな、と分かってもらうために。


 現実を受け入れてもらうために。


 ……二つの選択肢がある。


 自分が逃げ出して、キアを見捨てる選択。


 このまま残り、全員に嘘をついて行く選択。


 それを引き合いに出されている。


 だがナミアも、アルメスに事情があって弟子を辞めようとしているのは分かっている。


 ただ後者を選ばせたとてアルメスは更生できないと。


 だが、考えがあるならどうだろう。


 もし、ナミアが後者のデメリットを解消できる手段を有しているなら?


 それなら、この行動の意味にも辻褄があう。


 だが、アルメスはそれらを察せなかった。


 ただ今は愚直に悩んでいる。


「僕は……どうして良いか分からないんです」


「なら、両方取ればいいじゃない。キアも、私達も」


「それが出来たら苦労しませんよ……」

 卑屈になって行くアルメス。


 だが、やはりナミアには考えがある様だ。


「ちょっと来なさい」


「……え?」

 アルメスは手を取られ、おもむろに進んで行くナミアについて行った。


 抵抗しなかったのは、何かの可能性を肌で感じたから。






 ♢




「はいここ」


 ナミアに連れられるまま、着いたのは何のドアプレートも書かれていないドア。


 そして、途中の廊下の飾りつけなどが、かなり宮殿と似ていた為、ここは宮殿なのだろう。


 大体の宮殿の部屋にはちゃんとドアプレートが付いている筈なのに、ここは無し。



 だとしたら、この部屋は一体……。



 思案に暮れるアルメスの肩を軽く叩いて起こし、扉を開ける様にジェスチャーを送るナミア。


 開ければ分かると。


 アルメスは恐る恐る、その扉を開けた。


「……!キア……?」


 そこに居たのは、ベットに横たわり寝ているキアであった。


 無意識に歩み寄るアルメス。

 やはり見ておきたかったんだろう。この目で。


「貴方は初日の任務の時、何を思ったの?」

 キアの寝顔を観察するアルメスの背後からナミアの質問。


 答えない理由は無い。


「それは楽しくもあり、悲しかったですよ。そして皆さんの強さを見て、ワクワクもありました。正直言って充実していた、と僕は思います。でも、それは僕には勿体無かった」


「じゃあ何で、貴方はそんな幸せを斬って捨てる様な事になったの?」


「無力感、ですよ」


「……はあ。分かってないわね」

 アルメスのその言葉に深くため息を溢すナミア。


 呆れの意味で。


「……どういう意味ですか?」


「アサナトが貴方に求めるものって何だと思う?」


 少し食い気味で質問するナミア。

 質問に質問、だが答える事にした。


「強さ……ですか?」


「違うわ」

 簡単に否定された。


「……じゃあ、何が」


「ーーーー成長よ。主に人格面とか。肉体面は後で良いのよ、あいつは」

 成長。


 しかも、主に肉体的な面ではなく、人格面の成長の方を、アサナトはアルメスに求めていた。


 分からない。


 強さを手に入れてもらう為に任務などに連れ出した訳では無いと……?


 だが、考えても答えらしい答えが浮かばない。


 これ以上は説明を求める他、納得できる術はない。


「何故、アサナトさんは僕の成長を望むんですか?」


「残念だけど、根幹の理由は言えない。でも、これだけは言える様よ。ーーーー君の為だ。アルメス、と」


(あの夜の……)

 既視感。


 でも、嫌な訳じゃなかった。

 寧ろ嬉しかったぐらいだ。


 そして、その言葉が今出てくると言うことは……。


「全ては僕の為に、ですか」

 ナミアは相槌を打ち、言った。


「じゃあ、もう一度聞くわ。貴方、いや。アルは本当にその決断で後悔しないの?アルなら、自分の本当にしたい事、自分も、私達も傷付かない最高の選択を、アルは選べるはずよ」


 その言葉に抑えていた感情が暴発した。

 それは、アルメスの魂の叫びだった。


「僕は……僕は……ここに居たい!キアを育てたい!ですけど……僕は」

 卑屈になりかけるアルメスのアルメスの手を優しく握るナミア。


「私達女王近衛隊は、どんな弟子だって受け入れるわ。アル。後は踏み出すだけよ」


 トドメと行くような元気付ける言葉。


 それでアルメスは初めて、人に頼るという手段について考えた。


 揺らぐ決意。


 いずれ、嘘をつかずに生きていけるかも知れないと感じた選択。


 今が大事なのでは無く、自分の未来を期待して。


 今の僕が、どう僕と向き合っていくか。


 成長を期待されている。そして、僕もそれが出来たなら本当に良い。


 アサナトさんが求む物で、僕も求めている物だから。


 利害の一致。


 初めて浮かんだ選択肢。


 だが、アルメスにはそれをすぐに選ぶ勇気が……無かった。


「……少し考えさせて下さい」


 だから少し、逃げられる手段を残してしまった。


 心で自分を猛烈に叱責しつつも、新しい選択について真剣に考えたくなった事に、自分の進歩を感じた。


「分かったわ。存分に思考しなさい」


 だが、そんなアルメスをナミアは寛容に受け入れた。


 自分と向き合い始めようとしたアルメスを応援するように、キアが無意識中に手を握ってきた。


 裏切れない。と使命感のような物を感じた気がする。


 双方への感謝を胸に、アルメスは答えた。


「ありがとうございます!!」


 そう言って、アルメスは部屋を飛び出した。


(僕は……あれから初めて人を真に信じられるかも知れません!!)


 そんなアルメスに浮かぶ表情は、いつもの暗い表情では無く、笑顔と感謝に塗れていた。



 ーーーー成長。



 そのアサナトの意思を体現し始めた瞬間だ。


 そして、それをナミアは見送った。


 ナミア自身、ここには自分とキアしか居ないと思っていた……が。


 キアが眠る部屋に居たのは、ナミアだけでは……無かった。




 ♢♦︎♢♦︎




 翌日の昼。


 アルメスは、偶然会った友人と話していた。


「アルメス最近見なかったけど、どうしたんだ?」


 青少年。

 誰もがそう捉える様な、笑顔が綺麗な少年だった。


 声は澄み、綺麗に鍛えられた体に、その笑顔。


 アルメスは、そんな少年と今現在会話中なのだ。


 名は、メル・セルリア。


 音魔法を主に使う、頭脳明晰な完璧少年だ。


 そして、ミキシティリア社会見学の時の襲撃には、メルの音魔法の発動音のお陰で助かったので、礼を言おうと思っていた所。


 そして、相談を受けて貰うのに、これ程適材は居ない。


 それ程の親友だ。


「ああメル。それはーーーー」

 そして、最近の事を事細かに話したアルメス。


 そう。起こった全てを。


 常人なら、信じがたい事実を教えられて焦るのだろうが、メルは違う。


「へえ……それで、現在は女王近衛隊の皆さんと仲違い中、と。でも、解決の糸口はあるんだろ?」


「うん……」


「なら、行っちゃえ」


「え?」

 聞き返すアルメス。


 その返答が、軽過ぎたからだ。


「アルメスがそれをしたいのなら、しちゃえば良いんだよ。それが通じる良い人たちなんだろ?」


 それは、踏み切れなかったアルメスの背中を押す、心強い一言だった。


「うんーーーーーうん!!」

 その言葉で、やっと決意を固めるアルメス。



 本当に、メルは聞きたかった言葉を的確に言ってくれる。



「ありがとう、メル!決意が固まったよ!」


「ああ!後で土産話を聞かせてくれよな!」

 手を振りながら、アルメスは走った。


 メルも、それに笑顔と手振りで返した。


 それを見て、アルメスは更に決意を固め、宮殿へと走った。


 ナミアと親友がくれたチャンスを無駄にしないために。


 だが、その時アルメスは思いもしなかった。


 メル・セルリア。


 その親友が自分を、国を裏切る事を。

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