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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
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その信念の行く先は

 

 最強。


 カラリエーヴァのある六人は、そう呼ばれた。


 不敗、勇猛果敢、英雄。


 実際、呼び名はどれでも良かった。


 それが国の象徴となり、民草の盾になれれば。


 だが、脆い盾では。簡単に敗れる英雄になる訳にはいかない。


 積み重ねてきた、涙ぐましい努力……それを悟られる訳には。


 国の象徴の英雄は、絶対的に民草を失望させてはならない。


 敗北してはならない。


 常に最強であるのは、見た目以上に過酷なことなのだ。


 弱者を救い、敵は跳ね除ける。


 それを気の遠くなる程続けて来た。


 カラリエーヴァ現女王、ミカ・アイレスは、その苦労の倍以上の負担を抱えている。


 常人では理解できないほどの長い時間を、ミカ達は歩み続けてきた。


 それを、アルメスは理解出来なかった。


 アサナト達が戦い続ける本当の理由を知れたのなら、アルメスは弟子を辞める、何て言葉は出なかった筈だ。


 別にアサナトはそれを咎めたりはしない。


 アルメスにだって、葛藤や苦しみはある。


 だが、アルメスとアサナト達には、共通点があり過ぎる。


 捨ててしまった感情だってある。


 だから、アサナトはアルメスを弟子に取った。


 それが、アルメスを傷付けてしまう動機だとしても、死んでしまうよりはましだ。


 誰だって、償いたい罪はある。


 アルメスの場合は、それが大き過ぎた。身に余るほど。


 アサナトだってそうだった。


 だから止めはしない。止められない。


 不純な動機からなる説得は、心に陰りをもたらすだけだ。


 思考の行き違い。


 絡まってしまったアルメスとの思念の違いを、アサナトは解けない。


 そこが、アサナトの不器用なところだ。



 ……だから、アサナトは受け入れる。アサナトだけは。



 過去の自分が残した軌跡を愚直に辿って。




 ♢




 埠頭にて別れを告げるアリセム達。


 海に乱反射する朝の日差しを浴びながら、別れを惜しむ。


「今回は災難だったが、何より実害がなくて良かった。また来いよ。お前たち」


「ああ。次は休暇の時に、だな」

 笑顔で答えるアサナト。


 キューラがスーシャに向けて、笑顔で言う。


「楽しんで行ってね、スーシャ」


「ありがとう。そっちも、体調を崩さないように……ね?」

 キューラに感謝を述べつつ、その横のアリセムに視線を送り、露骨な笑みで忠告するスーシャ。


「なっ!!儂の何処が不健康と言うのだ!?」


「森へ狩りに行って肉を生で食べるのがいけないんですよ?この前だって腹下してたじゃないですか」


「何!お前には大自然に感謝して生肉を食すると言う神聖なる所業が分からないと!?」


「理解出来ません!」

 即答。


「まあ、大丈夫。国王様は私が監視しておくから」


「キューラ、この儂にそんな鬼畜の所業をしておってからに……」


「国王様に食中毒で死なれては困りますので」

 そこはキリッとした表情に変えて答えるキューラ。


 筋しか通っていないので否定できるはずもなく、アリセムは苦虫を噛み潰している。


「……まあアリセムの食生活は置いておいて、わたくし達はもう帰るわよ」


「おお、また会おう……てちょっとアルメス、待て」

 転送魔法を準備しかかった時に、アリセムが引き留める。


「……?何ですか?」


 瞬間、頭を撫でられる。


「今度会う時には、もう少し強くなって来いよ」


「……はい」

 撫でられた頭を少し伏せ、悟られないように目を曇らせる。



 ……多分、『今度』なんてもう来ないから。



 頭を上げ、精一杯の笑みで、答える。


 精一杯の感謝を。精一杯の嘘で。


「また来ます!有難うございました!」


 そして、アリセム達の笑顔と共に、アルメス一行は消えた。


 これが、ミキシティリアでの長くも短い、社会見学の終わりだった。





 ♢♦︎♢♦︎




 その翌日。


 アルメスは行動に移した。


 弟子、自然消滅作戦を。


 とは言っても、自室の私物などをバックに詰め込み、遠方にて静かに暮らす為に家を出る、と言うだけ。


 既に親に許可は取ってある。


「よし……」


 準備完了。


 靴紐を固く結び、アルメスは意を決して玄関を飛び出した。


「……!!!?」


 今の時刻は朝。


 一応早朝四時程度。


 それが仇となったのか、邪魔するように目の目に立っていたのは……。


「行かせないわよ」


 ナミアであった。


 アルメスの時が止まる。


 やばい。


 見つかった。


 どうしよう。


 そうこう必至に思考を回して辿り着いた答えが……。


(いけっ!!)


 逃げる。という愚直な策だった。


 ナミアの左横を、全力で駆け抜けた。


 案外、簡単に抜け出せた。


 そして、アルメスは現在朝の街を疾走中。


 そして気付いた。


 バックが重過ぎる。


 あれも必要、これも必要、と色々詰め込みすぎたお陰で、アルメスが抱えて走れる限界重量を軽くオーバーしている。


 当然、そんな爆弾を抱えているのだから、波のように汗が出る。


 疲れて足が重い。


 そんな事を思った瞬間に。


 踏みしめていた地面の感覚が無くなった。


 視線も何故だか高い。


 幽体離脱を彷彿させる様な感覚。


 下を見ると、浮いていた。


 自分の身体が。


「へっ!!?」


 困惑。


 そんなアルメスの背後から、聞き覚えのある女性の声。


「なんで突然逃げるのよ」


 後ろを向きたいが、自由が効かない。


 だが、この声は知っていた。


 ナミアさんだ。


「えっと……これは」


「言い訳無用よ」

 弁解しようとするアルメスには耳を貸さずに、魔法を発動させるナミア。


「へ?」


 睡眠魔法。


 激しい眠気がアルメスを襲い、抵抗できずに意識は間もなく……途切れた。


「さて、更生と行くわよ」





 ♢




 次にアルメスが目覚めたのは、ベットの上だった。


 見慣れない天井。慣れない布団の柔らかさ。


「ここは……」


「起きたわね」


 驚いて飛び起きるアルメス。


 声が聞こえた横を見ると、そこにはナミアが綺麗な姿で座っていた。


 朝の日差しを浴びて、更に美しさが増している。



 綺麗、と言いそうになったが、今はそれどころじゃ無い。



 だが、脱出しようとした所で、さっきの様に囚われる。


 状況説明を求めるしか無さそうなのは、察せずとも分かった。


「ナミアさんなんでここにーーーー」

 そんな言葉を遮るナミア。


「まだ、仲間を、私達を信じられないのね」


「!?」

 自分が逃げようと思ったきっかけを的確に言い当てられ、戦慄するアルメス。


 何故分かったのか。


「アサナトはそれでも良い、とか言ってるけど、わたくしは引き下がれなかったわ」


「……!?なんで……僕を諦めないんですか」


「『仲間』が苦しんでいるのに、助けない方がおかしいってもんでしょ?」


「……」

 アルメスは、沈黙を選んだ。


「アサナトは、そういう所不器用なのよ。変に気を使って、勝手に損したりね……。でも、わたくしは違うのよ。そう言うの、気にしないタイプだから」


 お節介、でもある。


 アルメスには、ナミアのその行動を、理解出来なかった。


「……」

 だから、肯定も否定もしない、沈黙という楽な手段を選んだ。


「わたくしは、お節介を焼きたい。人を大事にしたい。そういう人間なのよ」


「アルメスだって、譲れないものがあるのは分かるわ、でも。それじゃあキアはどうなるの?」


「……それは」

 アルメスは口を開いた。


 キア。それはアルメスの唯一の気掛かりであって、未練だ。


 それを言い当てられて、アルメスは初めて考えた。



 これは、本当に……ナミアさん達を傷つけない為の、一番の手段なのか?と。


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