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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
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人類最強の探索隊

 

「……では、昼食も終わったので行くとしましょうか」


「そうだな」


 一同、腰掛けていた椅子から体を上げる。


 アサナトのキューブ内の家にて休憩中だった一同。


 そう。アサナト達は家の中で休憩していたのだ。


 箱庭の様な空間に佇むこぢんまりとした一軒家。


 何故、アサナトのキューブ内にそんな家があるのか。


 少し話が脱線するようだが、備考を少し。


 キューブの内部は無数の空間を創り出す事が出来、その空間内部を自由に移動できる。


 そして別次元にある空間の環境は、あらゆる設定が効く。


 例で言えば、ミカ達がいるこの空間は、小さな箱庭的な設定になっている。


 透き通る青い空に心地良い朝日と美しい花畑。気分が安らぐ良い空間だ。


 何故海底神殿から打って変わった、こんな空間にアサナト達がいるのか。どうやってここに来たのか。


 それは、キューブを使ったからだ。


 アサナトが攻撃に使用しているキューブは、この別次元に移動するためのゲートでもあるのだ。


 そこにアサナトの意思が存在している限り、移動は無制限に行える。


 裏を返せば。


 アサナトの意思で別次元に送られる以外で別次元に入る方法は皆無と言える。


 なので、この性質を利用して戦闘などの撤退や、逃げの確実的な手段として使用できる。


 そして別次元から帰る際の出現地点も自由に決められる。


 その他にも色々な性質があるが……今はこの別次元内の家の話なのでこれ以上の意味のない話は却下。


 では、ズレた路線を矯正するとしよう。


 どうやって、こんな空間内に家を作れたのか。


 キューブや別次元内部なら物質を無限複製出来るから、こういう家が作れる。


 一瞬で宮殿程の規模の建築物を作る事も出来る。


 初めからそこに建物があったかの様に完璧に。


 建築士泣かせの存在能力だ。


 因みに、この空間はちょっとした休暇の為だけに作られたらしい。


 一回しか使った事がない様だが。


 スーシャはその話を聞いて驚きの表情を見せた。


 当然、アサナト達は笑いを溢した。


 当たり前の事だったので。知っていた事なので。


 が、驚いた所で疲れるだけだと自身で気付いた様で、次からはこれくらいでは驚きませんと豪語していた。


 それもいつ崩れるか分からない程の赤面顔だったが。


「アサナトさん、宜しくお願いします」


「分かった」

 ミカの言葉に従い、アサナトが全員を空間から出す。


 虚空から現れたキューブの中から転送魔法の如く出現したアサナト達。


 休憩終了。



 ーーー気を引き締める時だ。



「ーーーでは、任務再開です」



 〈了解!!!〉

 呼吸を合わせ、一同は快諾した。

 次なる戦いへの気合を入れ、万夫不当の傑物の気概を持って。


 アサナト達は、海底神殿深部へと足を踏み入れた。




 ♢




 剣撃。


 横薙ぎ。刺突。


「はあっ!!」

 狙いは魔物。


 アサナトが倒した魔物くらいはあろうかという体躯。


 それが複数体。

 アサナト達は他の魔物を相手取っていて、今スーシャは一人で鮫の魔物達を相手している。


 だが、どれだけ倒した所で減らない。


 一応、手立ては無くも無い。


 鮫の魔物達の合間から時々垣間見える青白い球体の中から鮫達が出て来ているのが判るが、物量の所為で近付けない、というのが現状。


 どうにかあれを破壊できたら……。


 と思い、どれだけ能力を使ったのだが、毎回謎の結界によって遮られた。


 どうしようか考えている時に、スーシャの右方向から聞こえる微かな音。


 完全に鮫の魔物だ。


 ちょっとしたピンチ。


 だが、そんなスーシャの耳に聞こえて来る、淡々とした声。


「安心を」


 その瞬間に、極寒の冷気が鮫達を包み込んだ。


 ミカの存在能力凍刀・グラキエースだ。


 刀が発するその冷気は、触れただけで死を宣告する。


 それは、結界すら意に介さない。


 鮫達は氷となって粉砕され、結界は崩れ去り……球体さえも霧散した。


「……凄い」

 感銘。


 それに、優しい笑みで答えるミカ。


「困った時はお互い様ですよ」


 完全に凍殺された鮫の魔物達。


 周辺に降り注ぐ雪と冷気。


 散り行く細かい氷塊が、白銀の世界を作り出す。


 そして、女性のスーシャすら見惚れてしまうほどの雰囲気を放つミカ。


 神聖な雰囲気を醸し出す体全体が、光って見えた。


 これは比喩では無く。慈愛に満ちた、万人を隔てず救済する様なその魔力が、グラキエースの影響で、薄く光る魔力として目に映った為。


 それは、スーシャも見た事が無い程純白で包摂的な、豊麗さを感じさせる魔力であった。


 普段見えなかったミカの魔力を目の当たりにして、スーシャは驚嘆した。


 こんな魔力を持った人が居たのか、と。


 蒼白の女王、と名を付けて語り継ぎたいぐらいだった。



 ……知らなかった。



 こんな人が存在した事に。



 ーーーそして、会えてよかった。



「アイレスさん」


「……?何ですか?」


 スーシャは歓喜の笑みと共に、言った。


「手助け、有難うございます」


「大した事じゃ無いですよ。スーシャさんはキューラさんの助太刀をしてきて差し上げると喜ぶと思うので、行ってあげて下さい」


「はい!」

 快く引き受ける。


 スーシャは緩んだ気を引き締め、援護へと向かった。


 ミカはそんなスーシャの背中を見届けながらも、次来る増援に視線を送った。


(あと少しですね……)


 数十体の魔物の集団。


 気配的にこれが最後の様。


 ーーーミカは、抜刀した。


 不敵の笑みを浮かべて。




 ♢




「キューラ!助けに来たよ!」


「ありがとう!早速だけど手伝ってね!」


「了解」


 キューラが相手取るのは、五十メートルはある魚人型の巨人。


 両手に二対のハンマーを持っている所を見ると、武器を扱うだけの知能はある様だが、言葉を交わすほどの知恵は無いという事が口から漏れる唸り声で分かった。


 そして、既にキューラとの戦闘の所為で傷を負っている。


 あとひと押しと言う所の様だ。


 なら話は早い。


 一撃で決めよう。


 スーシャとキューラは目で合図を交わした。


 二人とも同時に足を踏み込む。


「ぐがああっ!!」

 巨人が、雄叫びを上げた。


 威嚇の様だが、それが最後の言葉になるとは夢にも思わなかった筈だ。


 一瞬静寂が訪れ、死への歯車は、回った。


 双方、流星の如く地面を駆ける。


 それは、確死の一撃となって、巨人を足元から頭まで斬り刻んだ。


 目にも止まらぬ速さ。


 切られた感覚すら感じる事も無く、巨人の命は、散った。


 花びらの如く内包した魔力を撒き散らしながら。


「終わりっと」


「ナイス!」


 二人は、死して尚も輝く巨人の霧散していく魔力を浴びながら、笑った。


 連戦即決。そう言える程の手際だった。


 先輩、後輩などの枠を超えた深い絆で結ばれた二人だから出来た技だ。


 一蓮托生の友が交わし合う言葉や目線には、仲間以上の信頼と愛情が垣間見える。


「お、もうこれで終わりかの?」

 アリセムが二人の横から登場した。


 その言葉を聞いて、キューラが辺りを見渡す。


 ……居ない。


 さっきまで何百体といた魔物達が、一匹残らず。


 五分程度しか経って居ないのに、だ。


 流石の処理能力ですね、と心の中で感嘆するキューラ。


「……早いですね」


「そうか?」

 アサナトもキューラ達と合流。


 そして、全員が集合。


「一応聞いておきますが皆さん、取り逃がしはなかったですよね?」

 ミカの一応の問い掛けに、少し食い気味で……。


「無い」

 全員が即答した。


「なら大丈夫ですね」


「で、気配的に、次が最後の様じゃな」

 キリッとした空気に戻したアリセムが、先にある大きな扉に視線を送りながら言った。


「いよいよ、ですか」

 これで終わりだと考えると、案外短かったとも感じるが……。


 この先が海底神殿最深部だと考えると感慨深い物がある、と思い言うスーシャ。


「そうだな」


「……行きましょうか」


「了解、女王様」

 皮肉混じりに言うアサナト。


「何を今更言ってるんですか?」


「決戦前の軽い気直しだ」


「……ただ言いたかっただけじゃないの」

 微笑するアサナトの真意を的確に言い当てるナミア。


「……何故分かった」


「勘よ、勘」


「絶対に経験則だろ、前もこんな話してお前は当てられなかったじゃないか」


「ぐ……なんで覚えてるのよ、脳が書籍化でもしてるんじゃないの?」


「当たり前の事を言うな」

 ナミアの謎のテンションに、静かに返すアサナト。


 否定もせず、齟齬が生まれる様なその答え方に、スーシャが言う。


「当たり前って……」

 若干呆れるスーシャ。


 答え方もそうだが、このまま談笑していて良いのだろうか、と言うことに。


「ほら、こんな所で足踏みしている場合じゃ無いぞ。ほらさっさと行く!」


 無理やりナミアとアサナトの背中を押して、扉に向かって行く。


 キューラ達もその後を追い、扉を開けた。




 ♢




 海底神殿最深部。


 螺旋状に続く階段の先に、それは居た。


「御機嫌よう」


 人型魔物。それも平均的な、アサナト程の身長。性別不明。


 百八十センチくらいか。


 人間、と思いたかった……が、怪しくも強大な妖気が、この者が魔物という確立的な証拠になっている。


 既に存在能力も獲得している。


 普通の人間ならば、この者の手の内を知らないが為に慎重に動かなければならない所を、アサナト達は無視できる。


 何故か。


 ミカ含む女王近衛隊は、その者がどんな存在能力を有しているかというのが一目で分かる。


 分かれば、後はスーシャ達に伝えるだけで楽に戦える。


 そして、相手は自分たちの存在能力を知らない。


 つまり、圧倒的有利状態で戦闘を始められる。


 既に、ほぼ詰みだ。


「そんな余裕は捨てた方が良いぞ」


「……釈然としませんね、そういう貴方こそ随分な余裕を有しているじゃありませんか」


「これは元々だ」

 その問い掛けに、訂正するアサナト。


「そうですか、失礼しました」


「社交辞令の様な猫被りは止めろ、気に障る」

 アサナトがそういうと、人型魔物は目を伏せた。


「隠そうとしても無駄ですよ、貴方が海底神殿の主ということは、紛れも無い事実なのですから」

 ミカの言葉を。


「何を根拠に……」

 はぐらかす人型魔物。


「関係ないと言うのなら、何故海底神殿最深部に居るんですか?」


「……」

 沈黙。


 続けて。


「存在能力も持っていますよね?しかもかなり強力な、エネルギー操作系の」

 長い沈黙の後、その者は告げる。


「……はあ、何故分かったのでしょうか。本当に忌まわしいですね……」

 少しづつ人型魔物の身から漏れ出す黒いどろっとした魔力。


 戦う気の様だ。


「私の名はオぺローン、この世を破壊し尽くす者、絶望をもたらす者」

 ドロドロの魔力を具現化させて徐々に肥大して行く。


 人型を保ってはいるが、外見は実に汚らしく、醜悪といって差し支えないほどであった。


「……そうか、心の片隅にでも入れておく」


 アサナトは、キューブを携え、飛ばした。



 目を瞬く時には。

 キューブは直ぐに肥大化したオペローンを包み込んでいた。


「!!!?何ですかこれは!」


 その焦りの言葉を、意にも介さず。


「……消去」


 オペローンは、消え去った。


 跡形もなく、言葉すら残さずに。



 ……は?


 と言いかけたスーシャ。

 そして、放心。


 突然の終幕。


 消え去ったオペローン。


 たった数十秒で終わった決戦に、文句があるのは仕方のない事だ。


 だが、これが実力。


 アサナトの、非現実を通り越した存在能力。


 抵抗することも許さない。


「さて、終了だ。適当に財宝でも漁って帰るか」


「はあ……アサナトよ、あれは無いのではないか?」

 苦言を呈するアリセム。


 流石に、アサナトの存在能力は凄いんだぞ、では済ませられなくなったのだろう。


「あれで簡単に死ぬくらいの敵だったと言うことだろう?ちゃんと出られる様にもしたしな」

 溜息が止まらないミキシティリア陣営。


 若干文句を言いつつも、帰還した。


 未だ釈然としないが。

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