突然の仲間との面会の設定
「ん……」
日の光で目が覚めるアルメス。
起き始めでだるい体を起こしながら、昨日の夜のあの会話を思い出す。
『アルメス・レジュリゲート。君を俺の弟子として認めよう』
勢いでなってしまったが、今思い返すと、本当に不思議な事だと思う。
何故、アサナト・レイミンさんは僕の名前を知っていたのか。
何故、昨日なのか。
何故、僕を選んだのか。
だが、これ以上考えたとしても、本人に聞かない限り全く意味がない。
一旦思考を止め、朝食を取りに一階のリビングに向かう。
自室のドアを開けると、両親たちの声が聞こえる。
何だか騒がしい。
いつもより急ぎながら、階段を降り、リビングの扉を開ける。
開けた先には、客人専用の椅子に座った、母が入れたであろうコーヒを悠々と飲んでいる、見慣れない姿と、それを何やら落ち着かない様子で見つめる父と母。
アサナトだ。
「!?」
アルメスは、幻覚ではないかと目を擦る。
だが、何度目を擦っても何も変わらない。
正真正銘の本物だ。
「なんd……」
やっとアルメスに気付いたのか母親が、アルメスの言葉なんて発する間も無くものすごいスピードでアルメスを攫い、廊下に連れ去る。
「何で女王近衛隊がうちに来てるのよ!アル、なんか重罪でも犯したの!?」
かなり慌ててアルメスに問いかける母親。
「犯罪なんてしてないよ!!」
ふと、昨日の出来事が頭に浮かぶ。
店主を気絶に追いやった事もあるが、それ以上に理由らしい理由があった。
「昨日の夜、アサナトさんに弟子にならないかって……誘われた」
「それで?」
アルメスの弁明を聞いてもなお、まだ少し疑っているのだろう。まだ殺気に満ちた目でアルメスを睨めつける母親。
嘘はつけない。嘘をついたら……どうなるか分からない。
「それで……誘いを受けちゃった」
「受けたぁ!?」
アルメスの歯切れの悪い返事を聞いて、呆れ気味に返す母親。
「はぁ……わかったわ。それが理由で女王近衛隊がうちに来てるのね?」
再度確認の為にアルメスに問いかける。
「多分そのせいだと思う」
アルメスの曖昧な返事に少し反応するが、無視する母親。
「私はアルの事信じるよ。アルの決めた事について、何も口出しはしないわ。」
そう言い、母親は満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう」
素直に感謝を述べ、二人一緒でにリビングに戻る。
「意外と早かったな」
悠々とコーヒーを飲みながら、アサナトが話しかける。
「はい。色々話がつきました」
実際数分程度の会話で済んだのは、母親の物分かりが良いおかげだ。
母親が先頭を切ってアサナトに近付く。
「アルを、お願いしますね」
すれ違いざまに母親がアサナトに述べる。
アルメスは聞き取れなかった。
「ああ」
アサナトが小さい声で返事する。
アルメスが、本を読んでいる父親を見る。
平静を保っている様に見えるが、落ち着いていないのがわかる。
本を読む振りをしてちらちらとアサナトの様子を窺っている。
恐らく、母親と一緒に理由を聞こうとしたが、タイミングを逃したのだろう。
そんな父を見かねてか、母が説明しに行った。
そして僕はすっかり忘れていた朝食の事を思い出し、朝食を取ることにした。
朝食中にアサナトさんや両親とたわいもない話をしたりしながら、問題なく朝食を取り終えた。
♢
今はアサナトに連れられ、アルメスは宮殿へと向かっている。
アサナトは、女王近衛隊ということがばれないようにフードの付いた外套を身に纏っている。
「あの……」
ようやく二人きりになれたので、昨日から抱いていた疑問を聞いてみることにした。
その疑問とは、朝抱いたあの疑問だ。
「なんだ?」
アルメスの声に答えるアサナト。
「何故、僕の名前を知っていたんですか?後、何であの日に?」
疑念の表情を浮かべながら問いかけるアルメスに、やっぱり聞いてきたか、と言いたげな表情をするアサナト。
「弟子候補の事を調べるのは当然だろう?そして何故昨日なのか、という事だが……単に気が向いて、先回りして勧誘しようとしたら、買い物客に騒がれたから、隠れて人の目がほぼ無いあの時間に接触したという訳だ!」
喜色満面の表情で自慢気に豪語するアサナト。
只の気紛れか。何か特別な理由があると少し期待していたアルメスは裏切られた様に少し肩を落とす。
「だがアル、君は物凄い『潜在能力』を有しているよ。女王近衛隊に匹敵するほどの……ね」
アルメスの肩を軽く叩きながら、怪しげな笑みを浮かべ、アルメスを見つめるアサナト。
(物凄い『潜在能力』……)
その瞬間。刻み込まれた過去の記憶がフラッシュバックする。それは、昨日の比ではなく、痛みを覚える程の。
「どうした?」
痛みが顔に出ていたのだろう、アサナトに心配されるアルメス。
「大丈夫です」
苦し紛れに嘘を吐く。
「……そうか」
納得したのかも分からないが、詮索せずに引き下がるアサナト。
アサナトとアルメスの間に流れる微妙な空気。少しずつ痛みが引いてきた時に、突然肩を叩かれる。
「お、ほら、宮殿だぞ!アル」
顔を上げるアルメス。
其処には、アルメスの視界全てを覆い尽くす程の壮大な正門と宮殿が佇んでいた。
ここには何回も来ているはずなのに、その度に圧倒される豪華さとスケール。
「なんじゃこりゃぁ〜」
横の御老人も、口を開け、その壮大さに圧倒されている。
「さあ、行くぞ」
……え?入るんですか?この宮殿に?
まだ準備が出来ていないアルメスを引きずりながら、手慣れた様子で、門を守る近衛兵に敬礼されながら門を開けるアサナト。
そのまま引きずられながら宮殿敷地内に、……僕は、入ってしまった。
どうせ入るなら、もう少しちゃんとした形で入りたかった。
僕はアサナトさんに引きずられながらそんな事を後悔していた。
「いつまで引きずられているつもりだ?」
アルメスを引きずり続けている事に不快感を覚えたのか、アルメスを引きずっていた手を予告も無く離すアサナト。
「ぁいだっ」
突然手を離され、受け身を取る暇も無く背中を強打するアルメス。
かなり情け無い声を出してしまった。
「何も予告なしに離す必要無いじゃないですか!!」
お手本の様に逆ギレするアルメス。
自分が百%悪いのに、何故か切れてしまった。
だが、予告無しに手を離すのは如何なものか。
「悪かった悪かった。と言うよりもう宮殿内部に入ったのに、まだお前は子供の様に引きずられていたいのか?」
素直に謝ったと思いきや、間髪入れずに皮肉を飛ばすアサナト。しかも、いつのまにか『お前』呼ばわりされるとは。まぁもう師弟の関係なのだから、取り敢えず容認して、宮殿内部の風景を堪能する事にした。
「すみません。と言うか、豪華過ぎませんか?ここ」
流石宮殿。金や、高そうな美術品で彩られたエントランス。その装飾には、豪華さは勿論のこと、清潔さや、荘厳さも感じ取れる物の配置や洗練具合。
まさに王族が住まうべくして建てられた建物という感じだ。
「そうだな。ほら、見惚れていないで、さっさと会いに行くぞ」
内装に見惚れて動かないアルメスを急かす様に、アサナトが呼びかける。
「誰にですか……?」
アサナトの呼びかけで正気に戻ったアルメスが、アサナトに問いかける。
「お前の、『仲間』になる人達だ」
怪しい笑みを浮かべるアサナト。
アルメスは、アサナトに連れられ、その『仲間』になるであろう人達が待っている所に、疑念を浮かべながら、付いていくしか無かった。