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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
18/27

興醒めする程呆気ない

 

 激しい金切り音。


 それが開戦の合図だった……筈なのだが。


「な……なんだよこの壁は!?」


 残念ながら。


 次々と男が放つ音魔法は、アサナトのキューブによって霧散していく。


 何処を狙っても、全て無駄。


 戦いにすらなっていない。


 理由。


 アサナトのキューブは、既に見上げるほどの大きさの壁にまでなっていたから。


 だが男は、音魔法を放ち続ける。


 取り逃がした獲物にトドメを刺す為に。


 少し醜いが。



 アサナトの唇が動く。


「もう諦めたらどうだ?楽になれるぞ?……逃げたっていい」


 男はただ、睨み、返した。


 お前達には捕まらない、と反逆の意思を持って。


 だが、男はアサナトの言葉の本当の意味に気付けていない。


 そう。この壁は。いや、キューブは。


(既にお前を囲む様にキューブを設置させて貰った。そう。お前は、もう既に詰んでいる。お前の目には俺との間に大きい壁があるだけの様に見えるだろうが、実際は違う。お前の上下左右、全てに実体を持つが視界には映らないキューブを発現させている……もう籠の中の鳥だ)


 アサナトは、気付けるかな、と笑みを浮かべ、男の様子を観察する。


 ある程度足掻くかと、思った。


 だが、直ぐに男は行動を起こした。


「ちぃっ……いつか殺してやるからな!!」


 意外と決断が早い様だ。



 ……まあ、その決断が正しいとは、言えないがな。



 男は背中に羽根を生やし、アサナトとは逆側へと飛んで行く。


「おいそっちは壁だってーーーー」


 ゴン。


 目を背けたくなる程の鈍い音が、鳴った。


 あれは確実に気絶コースまっしぐらだ。


「……はあ、あっけないな」


 アサナトは、受け身も取らず地に落ちる男を見ながら、溜息を吐く。



 ーーーーこんなにも早く決着が着くとは、思わなかった。ある意味期待を裏切ってくれたな。



 とりあえずキューブを消し、アルメスの状態を確認する。


「……うん。全回復だな」


 千切れかけた四肢は治り、鼓膜も再生している。


 血なども全て除去。


 服も元通りの様だ。


 傷跡も残っていない。これなら直ぐにでも歩ける筈だ。


 だが意識が無い……まあ直ぐに目覚めるだろう。


 この存在能力。


 アサナトの部分のみを知覚させる事もできるキューブ。



 ……この時戻しに近い治療術。



 これも、アサナトの不滅の物質(イモータルキューブ)のほんの一端の能力だ。


 アルメスの安全は確保できたので、アルメスに展開していたキューブを解除し、男の状態を確認しに行くアサナト。


「さて……後はあいつだな」


 呆気なく終わってしまった戦闘。

 楽しませてくれると思っていたアサナトは、気落ちしたのだ。


 それに、弟子を傷付けてくれたお礼も含めて。



 ……治療する。



 そう。治療だ。


 今現在、アサナトはこの男を殺すメリットが無い。


 暗殺部隊メンバー全員の捕獲。


 それがアサナト達の目的であった。


 だが、アサナト達を殺そうとした人物達なのだから、別に殺しても良いが……。


 だが、気になることがあったので、こういう手段を取っている。


 ……その気になる事とは。


「……やはり、こいつらは追放されたのか」


「やっぱりね」

 いつの間にか来ていたナミア達が、アサナトの背中から登場する。


 驚かすつもりなのかもしれない。


 アサナトはそれに動揺せず、記憶探査魔法で男の頭の中を覗き込んで行く。


 こういう暗殺者達は、自分の記憶にプロテクトを掛けている。


 情報漏洩を防ぐ為だ。


 だが、アサナトはそれを意に介さず、ズカズカと人の家に土足で入るかの様に記憶を覗けている。


 プロテクトを余裕で突破できるのも、アサナトの魔法解除能力が高過ぎるが故の芸当だ。


 記憶を探査していたアサナトが、淡々と告げる。


「第七暗殺部隊……こいつらは女王との意見の対立の所為でシュプリーム王国から追放された様だ。前々から悪い噂の絶えない暗殺部隊だったみたいで、別に対立がキッカケという訳では無い様だがな。だが追放されても尚、熱い女王への忠義の余り、二つの国に喧嘩を売る様な真似をした……止まれなくなって自滅した哀れな暗殺部隊か」


「やはり、この襲撃は独断でしたね」


「……そうだな。だが、カラリエーヴァの襲撃準備の件が無くなった訳じゃ無い」

 ミカの言葉に、アサナトは溜息を吐きながら話す。


 出来れば無くなって欲しい、という願望が打ち砕かれた瞬間だ。


 そして……この暗殺部隊。


 アサナト達が、何故この者達を捕獲する事にしたのか。


 それは、ミカやアサナトからの言葉からも分かる。


 二つの国を一緒に相手取る事をしたからだ。


 今回追放されたシュプリーム第七暗殺部隊が、アサナト達を暗殺する舞台に指定してしまったのは、ミキシティリアという大国の王都のど真ん中。


 しかも標的は、会合の為来国したカラリエーヴァの要人達。


 つまりアサナト達だ。


 そして、カラリエーヴァ、ミキシティリアの両国は、同盟こそしていないが、国主同士の仲が良い。


 では、ミカ達に暗殺部隊が襲撃して、もしそのミカ達が、襲撃によりミキシティリアの領土内にて死んでしまった場合は?


 当然。


 アリセムの性格や責任上、仇討ちだ。


 当然、カラリエーヴァも国主やアサナト達を殺されて、ああそうですか、と目を瞑っていれる筈はない。


 それは、暗殺が失敗した場合も同じだ。


 最近までカラリエーヴァやミキシティリアに攻撃を仕掛けて来なかったシュプリーム王国が、両国に再び宣戦布告したのと同様の事。


 正直言って、二大国を相手取るのはシュプリーム王国にとって不利でしかない。


 敗戦は免れない。


 それを分からないシュプリーム王国女王では無い筈だ。


 だからこの説は真っ向から否定できる。


 そう。この説は。


 暗殺部隊がシュプリーム王国の指示の元動いていた場合だ。


 なので違う。


 今回の場合は厄介だ。


 アサナト達を襲撃したのは、追放されて一切国の監視下に置かれていない、言わば無法者の暗殺部隊だ。


 その暗殺部隊がアサナト達を襲撃して、それをシュプリーム王国に直訴したところで、もうその者達はこの国の監視下では無い。ただの暴走だ。として否定されるだろう。


 そして残念ながら、その否定を打ち砕けるだけの証拠が無いのも事実。


 それは、男の記憶を覗いて分かった。



 ……分かってしまった。



 まあ、そんな証拠を提示したところで、カラリエーヴァ襲撃の計画は、取り消されないだろう。


 という訳で、事が進むまでは待機だな。



「で、他のメンバーは片付いたのか?」


 そうアサナトが言うと、ミカが刀の鍔を左手で軽く弾き、刀身を一瞬露出させる。


 その瞬間ミカ達の前に、五つの塊の霧が現れ、その中から氷の縄で拘束された、残りの暗殺部隊のメンバーが出現してきた。


 全員気絶している。


 全員が出たのを確認して、ミカは刀を消す。


 一人一人、目で確認していたアサナトが、笑い混じりに告げる。


「術師も片付いたのか」


「ええ、路地の隅っこでガタついてたからあっさりとね」


「良い仕事してるな」

 ナミアの言葉に、淡々と告げるアサナト。


「……目が笑ってないわよ」


「ははは」

 笑いで誤魔化すアサナト。




「ん……」


 アサナト達の背後からアルメスの呻き声。


「お、起きたようだな」


 ミカに音魔法の男を氷の縄で拘束してもらってから、キューブの中に六人全員を入れ、キューブごと消す。



 大丈夫。殺した訳じゃ無い。


 メンバー達に少し引っ込んで貰っただけだ。


 そして、当たり前の様に、アルメスの前に瞬間移動して行くアサナト。


 体を起こそうとするアルメスに、優しく手を差し伸べる。


「立てるか?」


 アルメスは、アサナトが手を差し伸べて来たこの光景に、既視感を覚える。



 ……ああ、弟子になったあの夜か。



「あ……はい」

 何故だか暗い顔をしながらアルメスはアサナトの手を取り、体を起こす。


 もしかしたら、自分の所為で手間を取らせた、とか思っているのだろうか。


「どうした?」


 アサナトが、そんなアルメスを心配する。


「あ、いや……皆さん強いなって」

 ぎこちなく笑い、返すアルメス。



 ……やはり当たっていた様だ。



「そう?これくらい簡単よ」

 気づいていないのか、ナミアが当たり前の様に言った。


 それは少し逆効果かもしれない。


「……そうですよね……女王近衛隊ですしね」

 更に陰りを増すアルメスの表情。


 だがそれから無理やり引き戻される様に、大きな声が、森林の方から近付いてくる。


 この声は……。


「おーーい!アサナト!アルメス!」


 どうやらアサナト達を探している様だ。


 真っ直ぐにこちらへ向かって来ている。


「アリセム!こっちよ」

 呼び掛けに答えるナミア。


 瞬間、ランプを片手に、アリセムが木々の隙間から飛び出して来た。


 兵も一緒に連れて来た様だ。


 アリセムがアサナト達を見つけた瞬間に、焦りの表情が安堵に変わった。


「無事の様だな」


 恐らく、市民からの通報か何かで、暗殺部隊を倒しに来たのだろう。


 だがその暗殺部隊が見つからず、取り敢えず森へと探しに来たみたいだ。



「ああ。アルもなんとかな」


「……そうか、大事には至らなかったか」

 アリセムが、アルメスを見詰めながら、軽く頭を撫でる。


「至ったぞ?」


「……は?」

 アサナトの突然のカミングアウト。


 アリセムは、安堵の表情を凍らせた。



 ……確かに、アルメスもさっきまで瀕死の状況だったのは確かだ。



 アサナトにそう言われて、アリセムはアルメスの体の隅々を見渡す……が、直ぐに思い出した様に顔を上げる。


 そして溜息を吐きながら、言い放つ。


「……不滅の物質(イモータルキューブ)だな?……まあそれなら後遺症も残らないし良いとは思うが……ちゃんと弟子は守れよなあ、アサナトよ」


「……分かってる。……済まなかったな、アル」

 アリセムの遠回しの弟子に謝れ、と言う言葉と目線に当てられ、謝るアサナト。


「いや、謝るのは僕の方ーーー」


「そうか。ーーー後、こいつらを頼む」


 アルメスの言葉を軽くスルーして、アサナトはキューブに入れておいた暗殺部隊全員をアリセムの前に落とす。


 かなり乱雑にだが、起きてはいない様だ。


 かなり深い眠りに就いているようだ。


 そして、アルメスの謝罪について全く言及しない。


 アルメスの謝罪は聞き飽きた、と言った所だろうか。


「……こいつらは、例の?」


「そうよ」

 アリセムの質問に、軽く返事するナミア。


 その返答を聞いた瞬間、アリセムから立ち昇る膨大な魔力。


 何かの線が切れたかの様だ。


「そうか……儂の友に襲撃を仕掛けた罪を、その身で贖って貰おうかの!!」


 怒り心頭の様子で、腕を鳴らすアリセム。


 かなり殺意高めだ。



 ……殺したりは、流石にしないよな?



 そこで、音魔法の男が起きる。


 男は、鬼神の如きオーラを振りまくアリセムを、かなり近くで見てしまった。


「はっ……!!!?」



 ……あ、死んだな。



 その間もなく、男は失神した。


 死を確信し、自身の意識を遮断したのか。


「連れて行け」

 気が済んだのか、背後で控えている兵達に、メンバー達を託すアリセム。


 アサナト達に軽く会釈しながら、アリセム達は森林へと消えていった。


「……さて、私達も帰るとしましょうか」


「そうわね」

 ミカの提案に賛成し、ナミアが転送魔法を展開する。


 今回は、集団で移動するタイプではなく、一人一人飛んでいくタイプの様だ。


 何故だろうか。


 そんな事を気に止めず、アサナトとミカが既に転送していった。


 残るは、ナミアとアルメスのみ。


 取り敢えず転送魔法の魔法陣に入ろうとするアルメスを、ナミアが止めた。


「アル、ちょっと」


「……?どうしました?」


「貴方は自分の所為で、暗殺部隊の捕獲が遅れた、とか思ってるんじゃないの?」


「っ!……それは」

 図星の様だ。


 怒られる、と目を伏せるアルメスの体が、揺れた。


 自分とは違う人の感触。


 ……もしかして。


 アルメスは半目で状況を確認した。


「……え!?」


 アルメスは、目を疑った。


 そこには、自分を胸に抱いているナミアがいた。


 形容し難い焦りの感情が、アルメスの頭の中を埋め尽くした。


「自分の所為、なんて言わないで人を頼りなさいよ。ーーー貴方には、それが出来る仲間がいるのよ」


 それを聞いて、やっと安定して来たアルメスの頭の中。


「ナミアさん……」

 感傷に浸る様に。


 アルメスがそう言うと、ナミアが突然アルメスを離す。


 そして満面の笑みで言った。


「ナミアで良いって言ったでしょ?」


 そして、少し悩んだ挙句……。


「いや、そこはナミアさんで」


「え〜良いじゃないのよ!!」


 譲らないアルメス。


 引き下がらないナミア。


 いつの間にか、二人は笑いあっていた。


「ーーーもう行きましょう。アサナト達が待ってるわよ」


 これ以上時間を取るとアサナト達に怪しまれると思い、ナミアが言った。


「はい」


 そして、アルメス達は転送され、流れる様に一日を終えた。



 これで、波乱のミキシティリア社会見学?の二日目が終了した。


 で、続く最後の三日目は……。




 ーーーー崩壊の日だった。


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