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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
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既視感しかない売り言葉

 

「さっさと死んでくれると嬉しいんだがなぁ……」


「……っ!!」


 アルメスへと向けられる殺意と音魔法。


 そして音魔法。


 もう一度音魔法。


 休む暇もない。


 木を盾にギリギリ防いではいるが、音魔法が何回かアルメスの顔周りを掠め取っている。


 隠れることも出来ない。


 どれだけ視線を切ろうとしても、確実に先回りされ、振り切ることができないでいた。


 防戦一方の退避戦。


 ただ逃げることしか出来ない。



 どれだけ思考を巡らせ振り切ろうとも、男は歪んだ笑みを浮かべ、何気なくアルメスを出迎えてきた。



 ……僕は獲物。


 アルメスは、弄ばれている。


 熟練の狩人ハンターに、必死に逃げ回る様を観察されている様な感覚。


 どれだけ策を講じた所で、何食わぬ顔で対処される。


 音魔法使いにとって不利な地形をしている筈なのに、その不利すら逆手に取られている様な絶望感。


 ……まずい。


 アルメスは焦りを露わにした。


 これ以上森の深部へと至ろうものなら、それが持つ闇の所為で、男がより闇に溶け込みやすくなる。


 と、心では分かっている筈なのに、男が放つ殺気に怯え、自身で深部へ潜ろうとしてしまっている。


 これ以上は、街の明かりが届かない。


 夜の暗さに目が慣れてきてはいるが、それでも暗黒に身を投じる事になる。



 ーーーーこの男の領域テリトリーに。



 少し躊躇して止まった足。


 今なら……引き返せるかも……!?


 振り向き、アルメスは男の所在を確認した。



 ーーーー居な……!!?



 影から、音魔法。


 全力で横に飛び伏せる。


「何止まってるんだ?……逃げないと直ぐにお陀仏だぜ?」


 間髪入れず男が無様に地に伏せているアルメスに左手を向ける。


(まずい!!)


 必死に体を起こし、走り逃げる。


 音魔法の発射音。


 ……複数。


 アルメスは横目でさっきまで居た所を確認する。


 其処には抉れ、土煙を上げている地面があった。


 そこにあった土が消失したか、とすら思わされる様だった。


 その瞬間、アルメスの顔辺りを掠め取って行く音。


 激しい金切り音がアルメスの耳を劈く。


 だが、怯めれない。


 アルメスは走った。




 ーーーー暗闇へ。




 ♢




 もう五分は走った。


 そして見えなくなってゆく周辺。


 暗すぎる。


 アルメスは、もう前にしか進めない。


 感覚で木々を避け、研ぎ澄ました聴覚で音魔法を避けて行く。


(あの人の音魔法が、聞いたことある音で助かった……)


 男が音魔法を発動させる時には必ず、空気を纏める様な風切り音が聞こえるのだ。


 それも一瞬だが。


 その風切り音が音魔法によるものだと知らない者は、ただの風だと勘違いするだろう。


 だが、アルメスはこの際の音を知っていた。


 それは友人に音魔法使いが居て、その友人が音魔法を展開する時の音もまた、男が発する風切り音と同一の物だったからだ。


 音魔法展開時の発動音は、人によって千差万別だ。


 その展開時の発動音が一緒という事例は、かなり希少。


 だが、そんな事例がアルメスの目の前で起こってくれたおかげで、命を維持できている。


 非常にありがたい限りだ。


 だが、音魔法さえかわせれば勝機があると言うわけではない。


 男はナイフを持っている。


 しかも、アルメス以上に夜目が効くという事が、アルメスに飛んでくる音魔法の正確さで分かる。



 ……被弾は避けられないかも知れない。



 だが、アルメスの目に、一筋の光が差し込む。


 それは比喩でも何でも無かった。


 木々の隙間から、見える蒼色の光。


 月明かりだ。



 アルメスはその光へと。先に安寧を求め、身を投げ出した。


「ーーー平原」


 木々一つ無い。


 森の木々をここだけくり抜いたかの様な、小さな原っぱに、アルメスは来たようだ。


 ここを照らすのは、月明かりだ。


 顔を見上げ、空を見上げると月が佇んでいた。


 だがそれよりも、確認すべき事柄があった。


 あの男だ。


「……!!?居ない……」


 男が森林から飛び出して来ない。


 もう出てきてもいい筈。


 ……しかも、音魔法すら飛んでこない。


 振り切ったのか……?




「慢心は良くないなぁ?」


(!!!?)


 背後から聞こえてくる肉声。


 この声は……。


 アルメスは絶望の表情で振り返る。


「……!?いつの間に……っ!」


 悪い予感が的中した。


 そこに佇んで居たのは、さっきの男であった。


 だが武器類を持たず、音魔法の発動準備もしていない。


 でもアルメスは少し後退りをしてしまった。


 男の放つ殺気が無くなっている。


 まるで日常会話のような佇まい。


 だがそれが逆に、形容し難い不気味さを醸し出していた。


 道化師の様な思考の読み辛さ。


 常に首元にナイフを当てられているかの様な緊張感が、アルメスの首を締め付ける様だった。


 直ぐに逃げるべきと、分かっている筈なのに。


 本能が、逃げるという行動を却下している。


 逃げようものなら、即座に処理される。



 家畜の気分だ。



 例えそれが思い込みだとしても、それをアルメスに察知させない。


 計算され尽くした思考の誘導。


 アルメスは、男に恐怖した。


「やっとここに来てくれたな」


 男が恐怖して動けないアルメスの顔を目で撫でる様に言いながら、嗤った。


 アルメスは、息を呑み込んだ。

 だが、発言こそ出来ない。


 言わせない、と男がそう言っている様な気がしたから。


「ここは、俺の能力を生かすのに最適な場所だ……しかも人目に付かない。それだけで百点満点だ」


 男が、平原を目で軽く見渡しながら言った。


 ヒントを与える様に。


 男の良心か、弄びか。


 だが、それは受け取らなければならない。


 アルメスは、ここの環境と男の使う音魔法についての事を思い出す事にした。




 先ず、ここの環境。


 周りを木々に囲まれた平原。


 それほど広くはない、ちょっとした公園ほどの大きさだ。


 ここは森の中なので、男が言っている通りに人目に付かない。


 アルメスを見つからずに殺すには最良の土地。


 アルメスは、この男を含め、あの魔眼の男達は、暗殺部隊なのでは無いかと仮定していた。


 それが、男の言葉によって確定した。


 暗殺の為ならば、標的を殺すのに人目に付かない所を選ぶのは当然だ。


 そしてその人目に付かない所に、アルメスは知らぬ間に誘導されたのだ。


  アサナト達を襲った人物達。


 それは、アルメスを安全に孤立させる為仕向けた陽動だったと思えば、辻褄が合う。


 人混みの最中で仕掛けたのは、その人混みを利用する為。


 あわよくば、アサナト達も殺せればいい、という感じだろう。



 ……そして、男の使う音魔法の特徴だ。


 音魔法の殆どは、文字通り音を使い攻撃する為、水中や、音の分散しやすい森林の中の戦闘では、効果を発揮し辛い。


 逆に言えば、こういう開けた場所などでは、真価を発揮する。


 アルメスが森林へと逃げ込んだのも、男の使う魔法が音魔法だったから。


 だが、それをまんまと逆手に取られた。


 誘導されていたのだ……狩場へと。


 その所為で、絶体絶命の状況に追い込まれている。


 だが、活路はある。


 音魔法の展開時の発動音は、変えられない。

 発動するタイミングさえ分かれば、避けられる……筈だ。


 だが、男の言う『能力』という言葉が引っ掛かり、それが気掛かりで動けない。


 それが今の現状だ。


「最初から、僕を標的としていたんですね」


「あいつらの期待の新星を潰せる……それだけでいい事じゃ無いか」


 そう言いながら、男は狂気の表情を露わにした。


「鬼ごっこは終わりだ。小僧。俺たちの八つ当たりに付き合ってくれ」


 そう言い、男は能力を使う準備を始めた。


 直立不動の体制で。


 一秒程間が置き、その次に風が発生する。


 その風は、激しい乱風となって。


 凄まじい気流が、男を中心に、竜巻の様に集まって行く。


 アルメスも、その気流に飲み込まれそうになる。


(解放型!!?)


 だが、驚いてる暇は無い。


 その気流に、アルメスは全力で逆らった。


 目指すは森林へと。


 だが、木々から剥がれ落ちる枝や葉っぱが、アルメスに何回か直撃し、歩む足を止めに来る。


 その様子を見ていた男が、不敵に笑う。


(俺の能力は、今まで溜め込んできた音を一気に解放するのと同時に、標的に逃げられない様に、竜巻の様な乱気流を発生させるってもんだ。風に飲み込まれたら終わり、音に触れたら体がバラバラになって終わり。さあ、逃げてみろよ。アルメス・レジュリゲート!!)


「くうっ……!?」


 アルメスが、呻き声を上げる。

 徐々に強くなって行く乱風。


 どれだけ力を賭したとしても、それでも徐々に森林への距離は遠くなって行く。


 ……これでは攻撃を食らってしまう。


 だが、出来ることはただ風に抗い続ける事だけだ。


 出来るだけ遠くに。


 出来るだけ威力を緩和できる所までーーーーー


「!!?土が……っ!!」


 踏み出した右足の土が、風によって巻き上がる。


 右足も一緒に中に浮いた。


 上半身も。


 アルメスは、左足に、必死の思いで力を込めた。


 だが、もう遅かった。


 左足が軸となり、体は男の方へ向いてしまっていた。


 もうこれ以上力を入れたとしても、大した力にはならない。


 直ぐに体は宙を舞い、男の方へ引き込まれて行った。


(まずい!!)

 アルメスは、顔を腕で覆った。


 それが、アルメスの今出来る事。


「じゃあ、死のうか!!」


 男の能力が解放される。


 アルメスの元に、激しい音の壁が押し寄せる。


 ……体は宙に浮いている。避けられない。


「ぐあっ……っ!!」


 激しい爆音がアルメスの体を襲った。


 アサナトが付けた魔法結界を意に介さない様に、音は結界を易々と破った。


 崩れ落ちて行く結界の破片。


 それで威力を削がれたと……信じたい。


 残る音の破壊対象はアルメス。


 容赦なくアルメスの体を攻撃する音。


 鼓膜が破れ、音が聞こえなくなったのと同時に、アルメスは軽く目を閉じる。


 何も聞こえない。


 感じるのは、若干の痛みのみだ。


 だが、命の希望は捨てられない。


 走馬灯を見る気なんて更々無い。


 アルメスは責任感だけを感じた。




 ♢





「ふふふ……大事な御弟子さんはどうなったのかな……?」

 アサナトと対峙する暗殺部隊のメンバー。


 その者は、煽り立てる様に告げた。


 ……随分な余裕だな。


 アサナトは、多少心の中で笑った。


「俺たちの弟子を心配するよりも、ご自分の心配をしたらどうかな?」


「……は?」

 メンバーが、アサナトに向かって剣を振り下ろす。


 アサナトは防御を取る姿勢すら見せない。


 殺せた、とメンバーは安堵する。


 ……だが、それは慢心だった。



 ーーー突然、消えたのだ。メンバーの視界から、アサナトが。


「……!!?がはっ……!!」


 消えた、と反応する前に、メンバーの意識は、途絶えた。


 崩れ行くメンバーの背中で、少し笑うアサナト。


 一瞬でメンバーの背後を取り、手刀で気絶させたのだ。


 ミカ達は、アサナトへと注意が向かない様に、メンバーを足止めしている。

 瞬きする頃には、アサナトの様に無力化している筈だ。


「後は……アルだけか」


 アサナトは、森林を見つめ、キューブを森林目掛けて放つ。


 瞬間、アサナトが消え、アサナトは、森林の上空に居た。


(間に合ってくれよ……)




 ♢




「はあ……なんで生きてるんだか」

 男は能力を解放して、やりきったと安堵の表情を浮かべていたが、痛みに悶え苦しむアルメスを見つけ、呆れの表情へと変わった。


「……はあ、はあ」

 現在のアルメスの状況。


 四肢は千切れかけ、鼓膜は破れ、片目は血によって見えない。

 大量の血の絨毯にアルメスは転がり、痛みに悶えている。



 アルメスが見て、感じる物は、激しい痛みと、微かな視界に見える男の輪郭のみ。


 男が何を言っているのかは分からない。


 だが、近付いて来て、一歩一歩の歩みに明確な殺意がある事は分かる。


 ……だが、それを分かっていても、動けない。


 万事休す。


「楽に殺してやーーーー」


「生きてるな、アル!」


 激しい土煙がアルメス達を覆う。


「ぐはっ!!」

 その煙の中で、アルメスにトドメを刺そうとしていた男が蹴り飛ばされる。


 土煙が晴れる。


 アルメスの視界に映るのは、安心出来る、凛々しい背中。


 ……まさか。


「あ……アサ……ナトさん……」


 掠れた声でアルメスが言うと、アサナトは、振り返らずに、グッドサインをした。


 それを確認したアルメスが、安堵した様な表情を浮かべ、気絶する。


「よく粘った、これで……全回復だ」


 アサナトが、アルメスの体が丸々入る様にキューブを展開する。

 キューブの中に格納されたアルメスを覆う緑色の光。


 それを確認して、アサナトは転がっている男に向かって笑い、告げる。


「弟子もこんなになっちまったし……どうだ?俺と戦わないか?」


 それは、既視感を覚える言葉だった。

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