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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
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アサナト達の隠された実力

 

 ーー“不滅の物質(イモータルキューブ)”ーー


 それが彼、アサナト・レイミンの存在能力。


 唯一無二、アサナトのみが保有する事を許された、只一つの能力だ。


 その能力は。


 消滅性質と、引き出す性質。相対する性質を兼ね揃えたモノ。


 それは、アサナトを絶対最強の存在へと成り上がらせた、彼の底なしの力の一端でもある。


 そしてアサナトはキューブを滞在させ、高らかに笑う。


「さて、正当防衛を始めるとするか」


 そう言ったアサナトは不敵の笑みを浮かべ、眼前の数十人の影達を脅威として睨むのでは無く、ただ街のチンピラを相手するかの様に、弱小な存在として見ている様だった。


 ……慢心か?


「……!!!」

 数十体の影達がアサナト達に向かって突進し始める。


「私達の後ろに隠れておいて下さい」


 それを確認したミカがアルメスに指示を告げる。


 アルメスは、速やかに指示に従った。

 それを確認すると、ミカは優しい笑みを浮かべた。


 だがアルメスは少し自分の行動に疑問を抱いた。


 ……これは、完全に自分が入り込む余地の無い戦闘だからなのか?と。


 だが、アルメスはこう納得させた。


 自分は元々戦闘用の武具などを持ち合わせていないので、非戦闘員だと判断され、戦線から外されたのだろうと。

 変に足を引っ張ってしまうのを避けるべきなのはアルメスも理解していた。


 なにも出来ない自分を叱責するよりも、今は自重しろと。アルメスはそう決め込んだ。



 ーーーそして、影達がミカ達から十メートル程の範囲に入った瞬間、それは起こった。


 ミカが一瞬で抜刀し、剣を空高く突き上げる。

 抜刀の速度は時が置いていかれたかの様に……素早かった。


 気付いたら抜刀されていた……音も立てずに。


 その抜刀で剣の全容が明らかになった瞬間、ミカ達の斜め後ろ辺りから、一つの鋭い一メートル程の氷塊が、影達に向かって凄まじい速度で推進し、影達の内、一人のみに直撃する。


 それが起こっても尚、残った影達は突進を続けた。


 ……だが、それを見てもミカ達は次なる攻撃の準備をしなかった。


 それは、する必要が無いからだ。


 氷塊が直撃した影が灰となって消えるのと同時に氷塊も霧散する。

 その氷塊が霧散した後の冷気は、所々で空色に発光する雪の結晶を含む蒼い霧へと変化し、ミカ達に向かう全ての影達を包み込み、爆散した。


 その爆風は、爆裂魔法や炎魔法などが放つ熱風では無く、少し寒い程度の冷風であった。


 そして、霧が晴れると其処には、さっきまでいた影達の姿は無く、あったのは虚空を舞う黒色の灰のみだった。


 この灰は恐らく分身魔法によるものだろう。

 アルメスはそう推察し、それと同時にミカ達に分身を送った術師が居るという事に気付いた。


「あの、まだ術師が……」


「分かってる」

 アルメスのその言葉に被せる様にしてアサナトはそう淡々と告げた。


 アサナトはアルメスの理解以上に、この分身魔法についての分析を重ねている。


(この分身魔法は、何故かかなり燃費が悪い様だ。余分な程分身体に魔力が込められている。本来魔法にこれ程までに魔力を吸われるというのは無い筈だ……これはアリエスによって与えられた異能力だな)


 ……つまり、この分身魔法の術者は直ぐに魔力切れを起こす事になる。


(そして、分身魔法を発動して分身体を送っている術者がいる所が、俺達の魔力感知により、既に分かっている……今現在の魔力の残量も含めて)



 既にアサナト達は分身魔法の術者の位置と今現在の魔力残量を魔力感知で把握している。

 そして、術者はアサナト達に感知されているという事を全く知らない。


 つまり、アサナト達は術者の魔力が完全に切れた時を見計らって襲撃する事が出来るのだ。


(こいつらはシュプリーム王国の暗殺部隊……無力化したのが一人。そして確実に仕留められる奴が一人。……後は四人だ)



 ーーーそして次々と分身体が路地から飛び出してくる。


 その全てを、ミカは先程の方法で倒して行く。


 まるで赤子の手を捻る様に単純に、そして淡々と。


 路地から出てきた分身体が、目を瞬く時には既に灰に、無害性の魔力の塊になって霧散していく。


 ……圧倒的実力の差。


 アルメスは息を呑み込んだ。


(何故剣を振るだけで氷塊が……?)

 原理がわからない。


 アサナトは不思議そうなアルメスを見兼ねて、ミカの剣の事について、通信魔法でアルメスに語りかける。


(アイレスの存在能力 “凍刀グラキエース” は全ての物を凍り付かせる事が出来る……文字通り、全てだ。氷系の存在能力の中で最強の力を有していて、その効果は物質も勿論の事、事象をも凍りつかせる事が出来る。その剣は日本刀の様に片刃で……というよりほぼ日本刀の形状をしているな)


(存在能力って、そんな異常な強さの物もあるんですね……って、日本刀って、何ですか?)


 そう言うと、少しアサナトは返答に困る素振りを見せた。


(いや。忘れてくれ)


 アサナトのその言葉にアルメスは疑問を抱いたが、直ぐにミカが通信魔法で語りかけて来た為に、その疑問は有耶無耶にされた。


(ほら、私の存在能力の事はいいですから、お二人はご自分の出来る事を全うして下さい)


(ああ……あ?でもアイレスが全部片付けてるんだから出来る事も何も無いだろ)


 アサナトがミカの言う、出来る事、に対しての意見を述べる。


 ミカの言う出来る事とは何なのか、とアサナトはハッキリさせたい様だ。


 今現在、アサナト達の目標は暗殺部隊の排除……ではなく無力化だ。

 他にも周辺住民避難も有るには有るが、市民の中に偽装能力を使って紛れている者がいる可能性があるので、何かあった時に直ぐに対処できる様、市民をこの戦闘の観客として維持している為、ミカの言う出来る事には該当しない。


 何故その様な手法を取っているかというと、アサナト達は六人の暗殺部隊の内、五人しか魔力感知で把握出来ていないからだ。


 魔力が無い者は魔力感知には引っかからないが、暗殺部隊の全員が魔力を持っていると一日目で確認している。


 この事も視野に入れると残った一人はアリエスによって貰った異能力によって自身の魔力を隠蔽し、市民の中に隠れて機を伺っている、と考えるのが自然。


 例えその者が市民達を人質に取ったとしても、アサナト達は即座にそれに対応できる体裁を保っている。

 これが行動の抑止になる上に、元々そんな事を許す程のアサナト達では無い。


 ならば、アサナトのするべき事は一つ。


 ただ目の前の分身体を排除すれば良いのだ。


 術者の魔力が切れるまで。


 だが、それはミカが問題無くやり遂げている。

 では、何をすれば良いのか。


 アサナトはその旨でミカに聞いたのだ。


(……直ぐに、忙しくなりますよ)

 ミカは作業の様に分身体を倒しながら、笑みを浮かべた。


(……ああ、確かにな)

 アサナトは手の平を返す様に、ミカの言葉に納得した。

 ある一定の方向を見つめて。


(来るぞ。アルは少し下がってろ)


(……え?何がーーー)



 ーーーー爆発。



 それはアルメス達の背後で起こった。

 しかも、爆心地は観客である周囲の人々の真後ろだった。


 それは、周辺の人々を混乱の渦に陥れるには十分過ぎる程のトリガーだった。

 激しい悲鳴が、アサナト達の耳を劈く様だ。


 だがそれだけ。


 この混乱に自体に害は無い。


 ……だとするならば。


「陽動ですね」

 そう言って、ミカは空を見上げた。


 その視線の中にあったのは……無音で空から降ってくる、太陽の様な物体だった。


 それは灼熱に燃ゆる隕石の様に、アルメス達の眼前にまで迫っていた。


 ーーーーだが、それは突如として……消失した。


 そう、そうだ。……消えたのだ。


 瞬きする時には……既に。


(え?何がーーーーーー)

 アルメスも、消えた。

 先程の出来事を隠れ蓑にして、隠れていた一人の暗殺部隊メンバーがアルメスを攫った様だ。


「ふっ。ってあいつ、攫われたな」

 小さく笑いながら言ったアサナトが、アルメスの消失に気付く。


 だが焦る事はなく、呆れた様に言った。

 これは情がないのか、策があるのか。


「なんか反応薄いわね……」

 アサナトによるアルメスが攫われた時の反応が薄過ぎたので、ナミアが聞くと、次なる攻撃を警戒しながらアサナトが告げる。


「一応隠蔽魔法を掛ける時に、魔法結界をアルメスに展開しておいたからな。だとしても直ぐに探すべきなのは流石に変わらないが」


(オークロードの時の魔法結界と同じ強度なのが気掛かりだが……)


「じゃ、ちょっと探す」


 アサナトが、気配によってアルメスを感知しようと試みる……が、それは爆発によって中断される。


「行かせる訳ないだろ?」

 その声が聞こえた方向は、先程の路地だった。


 その者の声はかなり図太めで、しかも激昂している様だった。

 声の図太さから察するに、男だろう。


 影に塗れた路地の中から、二つの炎が灯される。


 その炎のお陰で、路地の影に隠れた男の顔面が確認出来た……が、マスクをしていて顔の全体を見る事は出来ない。


「……死ね」


 路地から歩み出るのと同時に、数十個の爆裂性の炎をアサナト達へと放つ男。


 だがアサナトはそれを、自身の周りに浮遊していた一つのキューブを壁として展開する事で全て防ぐ。


「……糞が。ーーーやれ」

 自分の攻撃が無に帰されたことに舌打ちをしつつ、路地の中から数十体の分身体を、アサナト達を囲む様に攻撃に向かわせる男。


「はあ、行かせてくれよ!」


 アサナトのウザそうな声から再び始まる戦闘。


 幾つかの分身体による剣撃と、男の援護爆撃による絶え間の無い波状攻撃。


 ミカ達は、その完璧な連携により繰り出される攻撃の対処に少し困っていた。


 これを安全に終わらせるには分身魔法の術者の魔力切れを待つしか無いと見られたが……。


 ミカがその現状を覆した。


「これではアルメスさんが手遅れになる可能性があります。一気に無力化させて頂きます」


 そう断言した瞬間、ミカの剣が強く空色に発光する。


 ーーー次の瞬間。


 突如空から降り注ぐ、空色の花弁。

 それはアサナト達の視界を遮る程、異常な量だった。


「な……」

 男は突然な周囲の環境の変化に絶句する。


 だがひるむ事はなく、男は炎でその花弁を焼き払おうと試みる……が、花弁の量が多過ぎる為に、炎魔法を打てども打てども、花弁は全く減らない。


 それが分からないのか、正体不明の花弁を焼却しようと、男は躍起になっている。


 分身体は、何故かこの花弁が降り注ぐ風景を見て、固まっている。


 そして妙な冷気と風が花弁を巻き上げ、そして視界一杯に花弁が覆う程になってから、それらは徐々に消えて行った。


 だがそれだけで何も無い……と見えたのだが、さっきまで聞こえていた炎の爆裂音は消えていた。


 ミカが、男や分身体がさっきまでいた所に視線を戻す。


 そうすると分身体は消えており、男は……身体全体が凍っていた。

 完全な無力化を確認して、ミカが告げる。


「これで今のところは大丈夫でーーーー」



 ーーー突然、金切り音の様な爆音が森林から鳴り響く。


 それは、ナミアやミカの髪がその音のみでなびく程大音量。


「あいつ、爆心地に……」


 あの爆音。その爆心地に居るのは……アルメスの気配だ。

 アサナトは少し悲愴な表情を浮かべた。


 魔法結界が突破された可能性がある、という事がアルメスの弱々しい気配から推察できてしまったからである。


 ……これはアサナトに、どんな事があったとしても即座に対応すべき事柄だと、確固たる意志で決め込ませた。


「……ここ、頼む」

 ナミア達は頷き、アサナトを邪魔無く送り出す為に、戦闘準備を始める。

 だが、アルメスの所へ向かおうとした足を、突然止めるアサナト。

 それは、目の前に立ちはだかる三人の影を発見したからだ。


「行かせない……」

 そしてアルメスの所に向かおうとするアサナトの前に、三人で立ちはだかる暗殺部隊のメンバー達。


「いや、行くさ」

 アサナトは、そう笑いながら言い放った。

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