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【打】Truth〜護持世界の英雄達と真理到達〜  作者: 望木りゅうか
第一章〔欺瞞信念〕
13/27

新事実『存在能力』とは?


 今現在昼食中。


「アルメス君って、存在能力持ってるの?」


「存在能力って、何ですか?」

 スーシャの質問に質問で返すアルメス。


 まあ仕方ない。

 アルメスは存在能力、という単語は初めて聞いたからだ。


 アルメスの疑問の言葉に対し、スーシャは驚愕の表情を浮かべた。


「……え、知らないの?」


 スーシャはお決まりのようにアサナトの顔を伺った。


 それで既視感を抱いたアサナトは、小さく笑いながら答える。


「はは、忘れてた。アル、存在能力ってのはな」

 基本の様に忘れてた、から入ってきたアサナトが説明する体制に入った。


 一言の内に説明しなかったのは、次の言葉に凄みを持たせるためだろう。


「その者しか取り得ない、固有能力だよ」


「……どういう事ですか?」

 一瞬の内に理解が出来なかったアルメス。


 流石にそれだけで察する事は出来なかったようだ。


「じゃ、取り敢えず比較になる物を挙げてみようか。とりあえず魔法だ」

 アサナトの言葉に話を被さずに、説明を聞く体制で安定させるアルメス。


 アサナトの話にミカ達は触れず、食事を続けている。

 興味がないのか、知っているのか。


 分からないが、アルメスは後者だと思った。

 理由は無い。


 ただ適当に、そうじゃ無いか、と思っただけだ。


「魔法って、特殊すぎる魔法でも無い限り、他の人物にも真似ができるだろ?ファイヤボールとかは、その代表例」


 アサナトの言葉に肯定の意思を持って相槌を打つアルメス。


「だが、存在能力は違う。それは、個人しか体得できない。例え魔法の様に、魔力を使う物だとしても、それが存在能力として形を成していれば、それはその者しか辿り着けない到達点で、決して誰も模倣する事が出来ない絶対の特殊能力。それが存在能力だ」


「それは人種、思考、形。全てに囚われない。一つの存在のみに宿り、感情や自意識を持ち、存在として知覚されている者全てに、分け隔てなく与えられる」


 アサナトの説明は簡略化されてはいたが、大体は理解できたアルメス。


 つまり、こういう事だろう。


 存在能力。


 それは一つの人間、一つの存在に宿り、全ての人間に与えられる、その者しか取り得ない特殊能力。


 自意識や感情を持つ者、つまり人間や亜人、獣人、魔族などの人種の差に囚われず、その中の者のどれかに当てはまり、その者が存在として知覚されていれば、どんな者でも手にすることが出来る……と。


 だが、アルメスはその説明に疑問を抱いた。


 それならば、日常に存在能力が溢れかえっているはずだ。


 だが、アルメスは存在能力、というのがある事すら知らなかった。


 もしかしたら存在能力とは、何かキッカケが無いと、能力に目覚められないという事なのかも知れない。


 だがそれは逆に、キッカケさえあれば誰でも習得出来る、という事でもある。


 まだそれは推測の域を出てはいないが、アルメスが存在能力の事を知らなかったところから見ても、その線は高い。


 そしてそれと同時に、ある疑問が浮かび上がった。


 存在能力は他人に奪われたり、消えたりしないか、という事。


「大体理解しました。存在能力ならばスーシャさんの非現実すぎるあの能力にも納得がいきます。そこで質問なんですが……」

 アルメスの言葉通り、スーシャの空間すらも振動させたあの能力は、存在能力であった。

 鉄杭もそうだ。


 最初にスーシャがアルメスに存在能力について聞いたのは、自分のも見せたんだし、アルメス君のは何?女王近衛隊隊員の弟子になるくらいだから存在能力も凄いものなんでしょ、という思いを込めた質問だった。


 だが、アルメスが全く知らないと無知の顔をし始めたので、説明もして貰う様に、視線を送り今に至る……という事だ。


 そして、アルメスの質問の確認に耳を傾けるアサナト。


「なんだ?」


「存在能力って、他人に奪われたり、何らかのショックなどで消えたりしないんですか?」

 ここで、アルメスが本題を聞き出す。


「残念ながら、ある」

 アサナトが溜息を吐きながら答える。


「が、後者はちょっと違う」

 それで気落ちしたアルメスを裏切るように、アサナトが続けて発言する。

 そのお陰で、少しアルメスの表情が柔らかくなる。


「存在能力は大体、何らかのキッカケで目覚めるのだが、その時に何らかの重大な心的ショックが起きると、時々存在能力に自身で鍵を掛けてしまう場合があるのみで、存在能力が突然消えてしまう事は無い」


(じゃあ、僕の場合は……後者)

 少し目を曇らせるアルメス。


「僕にも、存在能力が目覚めたりするんですかね」

 アルメスがそう言うと、アサナトが笑みを浮かべ、答える。


「キッカケがあれば取れるから、いつか目覚めるんじゃないか?」


「そのキッカケって、大体どんな感じなんですか?」


「大体は戦闘中や鍛錬で目覚めるが、ただの心境の変化などで目覚める可能性もある。存在能力に鍵を掛けてしまった場合、大体後者だな」

 その言葉に、少し考え込んだ後、アルメスが聞き返す。


「アサナトさんも、もしかして存在能力を持っているんですか?」

 アサナトの説明の説得力的に、もしかしたら、と聞いてみたアルメス。


「持っているさ。だが今は秘密だ」


 帰ってきたのは笑みだった。


「次、戦いがあった時に見せてやるから」

 秘密と言われ、肩を落としたアルメスを見て、なだめるように言うアサナト。


 その言葉で、顔がパアッと明るくなったが、一瞬で暗くなる。


「ああ……でも、戦いの予定なんて全く無かったですよね……いつになったら見れるんですか?」


(……!?)

 今まで口を挟まずに話を聞いていたアリセムが反応する。


「さあ?任務なんてレアケースだしな」

 何食わぬ顔でアルメスの言葉に答えるアサナトに、通信魔法で語りかけるアリセム。


(おい、どういう事だ……?戦いの予定など無いって?まさか、言ってないのか?暗殺部隊のことを)


(今回は社会見学としてここに来ているんだ。しかも、国の重要事に巻き込まないって約束してしまったしな)

 アリセムの言葉に、通信魔法で会話中だという事を悟られないように、真顔で答えるアサナト。


(だとしても、言うべきだろう!?)


(今回は休暇のようなものだ。只でさえキツイ任務の後だし。気苦労する暗殺部隊の事なんて言ったら、どうなるか分からん)


(……それがお前の決断なら良い……だがアイレス達には言ったのか?)


(言ったさ。……答えは肯定だ)

 アサナトの言葉に小さく溜息を吐くアリセム。

 だがそれ以上の言葉は出てこなかった。




 ♢




「昼食も取り終えましたし、ミキシティリアの観光でもします?」


「僕は良いですよ」

 ミカの提案に、アルメスが同意する。


 アルメスは提案に賛成したが、アリセムやキューラ、スーシャ等はミキシティリアに住んでいるので、あまり楽しくないかも知れない、と思い、選択をアリセム達に委ねる。


「確かに。良いかもな。意外と自分の国って、そんなに見ないから。意外と新鮮な雰囲気を味わえると思うし、儂も賛成じゃ」


 アリセムも賛成し、


「私も良いですよ」


「楽しそうですし、私も賛成」

 キューラもスーシャも続けて賛成した。


 後はアサナトとナミアだけだが……。


「わたくしも良いわよ」


「俺も。観光は久しぶりだしな」


 そういう事で、この提案は満場一致で可決された。



 そして、例によってナミアが全員に隠蔽魔法をかけた。


 今回はアルメスも、朝の時の観衆に顔を覚えられている筈なので、一応かけておいた。





 ♢




「アイレス様!あそこ行ってみましょう!」


「えっと、何処ですか?」


「こっちですよ!」

 スーシャがミカを引き連れ、楽しそうにアサナト達から離れて行く。


 その様子を微笑ましそうに笑顔を浮かべて見届けているキューラ。


「早くも馴染んでますね、微笑ましい限りです」


「アル並みだな」

 アサナトのその言葉に、食べていたスイーツを頬張りながら、アルメスが反応する。


「ふぇ?」


「なんでも無い。行くぞ」

 スイーツを食べるのに夢中のアルメスを置いて、アサナトとキューラ、ナミアがミカ達が向かった方向に向かい始めた。


「え、ちょ、ちょっと待って下さいよ……」

 必死にスイーツを頬張るアルメスの肩を、叩き、意地悪な笑みを浮かべ、アリセムが告げる。


「ほら、頑張れよ小僧」


 更に焦らせる為か、アリセムもアルメスを置いて、ミカ達の方へ歩み始めた。


「!!」


 怒涛の勢いでスイーツを食すアルメス。


 出来るだけ早く食べ終わらせ、急いでアサナト達の背中を追う。


 そして追いついた時には、アサナト達はスーシャ達と合流していた。


「はあ、はあ、皆さん早く行き過ぎですよ……」

 全力でスイーツを食べたせいで、少し頰にクリームをつけている上に。

 多少気管が詰まって息切れしていた。


「別にあそこでスイーツを食べ切る必要なんて無いだろ」


「あっ」

 冷静に指摘するアサナトに、ぐうの音も出ないアルメス。


「ほら、クリーム付いてるわよ」

 アルメスの頰に付いているクリームをハンカチで拭き取るナミア。


 急にナミアの顔が接近してきたので、赤面するアルメス。

 大人の女性の上品な香りがアルメスを包み込む。


 これはアルメスの精神衛生上良くないが、ナミアが拭き取って直ぐ離れてくれたので、正気を保てたアルメス。


 そしてアリセムが、ミカ達に向けて発する。


「ここはなんだ?」

 アリセムが見ているのは商店らしき建物だ。


 ガラスの奥に見えるのは、本棚に陳列された魔道書や、魔法道具など。


 だが、日常家庭でも出るような食材が並んでいる棚もある。

 どんな調理をしても、身体強化など、魔法的効果が得られない物も多く陳列されている。


 俗世に出ている魔法書店などでは、普通の家庭食材などは並べられない。だが、これは違う。


 そしてしっかりと、リストアリス魔法書店と看板に書いてある所を見ても、これはれっきとした魔法書店ということが分かる。


 元々魔法書店と言うのは大体、冒険者や騎士団御用達で、特別な物流網を敷き、普段では見られない魔道書や魔術道具を高値で売っている、言わば庶民では到底訪れる事のない店なのだが……。


 その常識を覆す様に、食材や雑貨などを売っている。


 しかも客足も出ている事から、繁盛していない、とは言い難い。


 見た目の異質さとは裏腹に……である。


 この魔法書店を一言で言い表すなら、多機能型魔法書店、と言う所だろう。


「リストアリス魔法書店です。前から来てみたかったんですよね」


「……確かに。そこらの魔法書店とは雰囲気が違うわね」

 スーシャの言葉に相槌を打つ様に、ガラス越しから店内を伺い、この書店の不思議さに気付いたのだろう。

 ワクワクの表情を隠しきれていないナミア。


「食材や雑貨もそうですが、並べられている魔法書等も、他の魔法書店とは一線を画す程の一級品が並んでいますね……」


「カラリエーヴァにもこれ程の魔法書店は、無いかもですね」

 キューラの分析に、ミカがどれだけ凄いのか、と分析を引き立たせる様な説明を付け加え、アルメスにも分かりやすくする。


 そのお陰で、魔法知識に疎いアルメスも、この魔法書店の凄さをわかったのか、驚愕している。


 実際、個人経営の魔法書店にしては、申し分ないほどの物量と質だ。


 国や都が運営している魔法図書館にすら立ち向かっていける程である。


「……入ってみるか」


「行ってみましょう」

 スーシャとアサナトの言葉を筆頭に、魔法書店に入っていく一同。



 ♢



「アイレス様、これは何ですか?」

 棚に複数並べられている魔術道具の中に、見慣れない、細長い四角形の道具があったので、近くに居たミカにこれは何か、と質問するスーシャ。


「これは……魔力伝道変換放射装置ですね」

 全く聞き慣れない言葉が出てきたので、もう一度ミカに問うスーシャ。


「……何ですか、それ」


「簡単に言うと、ビームを放てます」

 ミカの言葉通りの簡単な説明のお陰で、簡単に、この道具からビームが出る様を想像できたスーシャ。


「ビーム……」


「あと、呼び名はミカ、で良いですし、何ならキューラさんと話している時の口調で大丈夫ですよ」

 アルメスの時の様に、ミカが告げる。


「はい、分かりました……流石に名前は呼び捨てにはしませんが、口調は出来るだけ柔らかくしますね」

 そんなスーシャの言葉に被せる様に、ミカがアサナトとナミアに向かって言う。


「アサナトさんとナミアさんもそれで良いですよね?」


「ああ」


「良いわよ〜」


「……だそうです」


「了解です」

 勝手に許可を取られた様だが、そこは無視しておき、笑みを浮かべ了承するスーシャ。


「本当に仲が良くなるのが早いの、ミカ達は」

 その様子を遠目から見ていたアリセムが、笑い混じりに告げる。


 傍目から見たら独り言の様に見えるが、一応近くにアルメスも居たので、恐らく独り言では無いだろう。


「何なんでしょうかね。あの友好を深める速さは」


「話術が巧みなのもあいつらとしての才能だからじゃ無いか?」

 アルメスの言葉に直ぐ便乗してきた所を見ると、やはり独り言ではなかった様だ。


 数秒間ミカ達の様子を傍観していると、背後から急に声を掛けられた。


「お客さん、何かお求めかい?」

 振り向くと眼鏡を掛けた、赤髪の女性が立っていた。


 言葉から察するに、この女性が魔法書店の店主だろう。


「いや、珍しい魔法書があるもんだから、ちょっと立ち寄ってみたんだ。何やら他の魔法書店とは品が違うのでね」

 アリセムがそう答えると、店主は目を見開いた。


「お、お客さんお目が高いね」


「これだけの一級品の魔法道具……どうやって揃えたんだ?」


「ふふふ……それはーーー」


 店主からリストアリス魔法書店の事をたっぷり聞かせてもらい、しかも特異な魔法異次元空間の中で遊んだり、その中で魔法道具の試し打ちなどで、かなり時間を潰せた。




 気付けば夜だ。


「またいらっしゃい!」


「ありがとうございました!」

 店主の声に、礼をして感謝を述べるミカ達。


「リストアリス魔法書店……魔法図書館並みに遊べましたね」


「まさに多機能魔法書店、だな」

 アルメスの言葉に相槌を打つ様に、アサナトが言う。






 ミキシティリア王国社会見学一日目。


 月光に照らされる一同。


 一日の終わりを身に占めつつ、宮殿へと帰っていく。


 街は夜の盛り上がりを見せ、ランプの灯りが夜の街を照らす。


 宮殿へと向かう一同とすれ違う、亜人、獣人。


 カラリエーヴァでは見られない街の体型だ。

 それは新鮮さと共に、宮殿へと向かうアルメス達を彩る。


 人種問わず、全ての人々が笑い、楽しんでいる国。


 これはミキシティリアしか辿り着けない国の在り様。


(これが、異種族達の国、ミキシティリア……)


 そしてアルメスは、社会見学の楽しさを知った。




 ♢♦︎♢♦︎




 二日目。


 予定では自由行動の日だ。


「おはようございます」


「お早う」


「おはよ、アル」


「おはようございます、アルメスさん」

 今は午前七時。


 まあまあ早い朝にも関わらず、何時もの三人組がアルメスを揃って出迎えた。


 今日も、昨日の昼の様にミキシティリアの観光をしに行く予定だ。


 今回は、昨日行けなかった王都の山側の辺りなどを散策するらしい。


 アルメス達が朝食を取り終わり、宮殿ホールから隠蔽魔法を掛けて出て行くタイミングで、アルメスがある事に気付く。


「あれ?アリセムさん達は?」


 そう。

 アリセム達が居ないのだ。


「アリセム達は、用事があるとかで今日は居ないのよね」


「そうなんですか……」

 ナミアの答えに、少し意気消沈するアルメス。


「……なんだ?俺達と一緒だと楽しく無いのか?」

 アサナトがアルメスの揚げ足を取る様に意地悪な歪んだ笑みで言うアサナト。


「そんな事無いですよ!」

 必死に弁解するアルメス。


 言葉通りの意味で必死過ぎる程の弁解をするアルメスの気など知らずに、言い訳の様に捉えたアサナト達。


「……」

 アサナト達が、無言の圧を浴びせる。

 ミカだけは、微笑ましそうな笑みを浮かべ、アルメスの弁解を見守っている。


「違いますから!!」

 そのアサナト達の表情を見て、両手を上下に振り、更に必死に弁解し始めたアルメス。


 少女の様な可愛げすら滲み出ている。


「ほら、そんなのどうでも良いから行くぞ〜」


「え、ちょっと待って下さいよ〜!!」

 そう言って、アルメスを置いて、歩き始めるアサナト達。

 変にムキになってしまった自分がバカらしくなり、アルメスは赤面しながらアサナト達を追って行く。




 ♢




「あれ……もう着いたんですかぁ……」

 アサナトに置いてかれない様に走っていたら、どうやらもう着いてしまっていた様だ。


「そうみたいだな。朝の運動にはちょうど良かったな」

 と、言っている割には、全く息を荒げていないアサナト達。

 アルメスは死ぬほど息切れしているのに、である。


 しかも、道中では、全力で追いつこうとするアルメスにある程度の距離を保ちつつ走っていた上に、アサナトは後ろ走りで言葉を投げかけたりしていたので、完全に遊ばれていた。


 アサナト達は走っていた、というより、ほぼスキップに近かった。


 だが一歩一歩のストロークが数メートル程になり、しかも重力すら逆らっている程だった。


 その事を思い出し、アルメスは心の中でアサナト達を化け物の様に思いつつも、もう慣れ始めていたので、そんな思考は放棄して取り敢えず街の風景について触れる事にした。


「……この町並み、カラリエーヴァの宮殿付近の町並みと似てる気がしますね」


 そう、偶然か思い込みか。


 ミキシティリア宮殿付近のビルが立ち並ぶ街並みとは打って変わって、ここはビルの様な高層建築物が全く無い。


 だが、資金が回せない程の過疎地の様には全く見えない。


 宮殿からちょっと走るだけで着くところなので、都市として発達出来ない訳では無いはずなのだが……。


「こういう街並みをしているのは環境保存の為みたいですよ」


 街案内の看板と思わしき看板を見ながら告げるミカ。


「ああ、近くに森があるからビル等が建っていないのか」


「ヴェルドマナス、ミキシティリア王国環境保護下森林……へえ、ここヴェドリス、って言う絶滅危惧種のリスが居るみたいね。……凄い、他にも珍しい動物達が一杯」


「ふ、ちゃんと動物のことを考えてる様だな、アリセムは」

 ナミアが森について感心している横で微笑しながら呟くアサナト。


「亜人だからですかね」

 ミカがフフッ、と笑いながら言う。


「ふっ……言えてるな」


 ひとしきり笑い終えた後、看板を見ていたナミアの誘いで動物園に行く事になった。




 ♢




「次どの動物を見に行きますか?」

 動物園の案内地図を見ながらアルメスが告げる。


「レッドペガサスとかどうだ?」


「どうやってペガサスなんて捕まえたんでしょうね……」

 アサナトの提案に、肩を落としながら言うミカ。


 ペガサス自体希少な存在な上に、しかもそれをどうやって捕まえたのかと呆れているようだ。


「動物園というより神話生物博物館みたいになってるわね」

 ナミアの的を射った発言に笑いを溢すアルメス。


「本当懐が深いですよね……アリセムさんは」

 アルメスの言葉に語弊は無い。

 この動物園は国営なので実質的にアリセムが運営している事になるからである。


「国民を楽しませる事に長けている感じだよな」


「賢王と呼ばれるだけあるのよね……結構な戦闘狂なのに」


 普通にアリセムを褒めると思ったら、即座に皮肉を飛ばすナミア。


 少し笑った後、普通にレッドペガサスを見に行った一同。




 レッドペガサス。


 それを目の前にした瞬間、アルメスは息をする事すら忘れてしまった。


「これがレッドペガサスですか……」

 平均的な馬を赤に着色して一本の螺旋角と羽を付けただけの動物……と見る人は居るだろう。


 かなり少数派だろうが。


 だがアルメスは、その少数派にはならなかった。


 アルメスの目にはレッドペガサスが、神々しい存在に見えた。

 ミカやアリセム達が放つ雰囲気とは見劣りはするが、それでも十分なほどであった。


 紅く光る筋骨隆々で太く浮き上がった血管と、しなやかな筋肉美。

 さぞ立派で風の様に早い疾走を見せてくれそうだ。


 そんな体から生えている、アルメスの体二個分ほどの赤色と白色の剛翼。


 羽一つ一つが太く尖り、だが柔らかさも兼ね揃えている。


 あの翼で空高く飛んでいく様を容易に想像できる。


 次に目に入ったのは顔。

 馬の筈なのに凛々しさすら感じ取れる振る舞いは、王者の風格すら漂わせている。


 そして額に生えた一本の螺旋角。

 それは赤き稲妻を携え、怪しい雰囲気を醸し出している。


 この様なペガサスの身姿を見て、一言目に出たアルメスの感想は……。


「ーーー凄い」

 あまりに具体的な感想ではあるが、それ位の言葉でしか表せない程だから、こういう表現を取ったのだろう。


 もしくは単純に圧倒されたか。


「ん、こいつ話せるみたいだぞ」

 そんなアルメスを置いて、どこを見て言っているのかは分からないが、アサナトが言う。


「……確かに。この子話せるみたい……話してみる?」


「どこにもそんな事書いてない様ですけど……」

 ただアサナトの譫言かと思っていたのに、ナミアさえも乗り始めたので困惑するアルメス。


「なあ、君は話せる様だが、何故話そうとしない?」

 そんなアルメスの言葉など聞かずにレッドペガサスに聴き始めたアサナト。


「……」

 そんなアサナトの問い掛けに、そっぽを向き無視するレッドペガサス。


「本当に話せないんじゃないですか?」

 アルメスの言葉に、首を振り真っ向から反対するアサナト。


「いや……あ、もしかしたら」

 何かアサナトが思いついた様だ。


「俺はアサナト・レイミンだ。俺たちは昨日、アリセム・リキントスと会合をしたんだが」

 アサナトが何か思いついたので何かあるのかと思っていたが、普通に自己紹介と、昨日の出来事を伝え始めた。

 何か理由があるのだろうか?


「……それは本当か?」

 レッドペガサスが口を開く。

 それを見たアサナトがやっぱりか、と笑みを浮かべる。


「本当だ。信じられないなら信じなくていい。だが、これだけは聞いてほしい。……前アリセムから連絡があってな?アリセムが珍しい生物を仲間にした、と言ってきたんだ……まあそれが一ヶ月前。君がこの動物園に来たのも看板の説明を見る限り一ヶ月前。偶然じゃ無いよな?」


「偶然では無い。……では、本当に其方がアリセム殿が言っていた、アサナト殿か?」

 アサナトの言葉に頷き、質問を投げかけるレッドペガサス。


「そうだと言っているだろう」

 アサナトがそう言った瞬間、顔を下げ、プルプルと震えだすレッドペガサス。


「……どうしたの?」

 ナミアがレッドペガサスの不自然な挙動に心配の声をかける。


 だが顔を上げる様子が無い。



 そして数秒間かかった後に、やっと顔を上げるレッドペガサス。


 そしてその表情は……。


 喜色満面。


「貴方には会ってみたかったんですよ!アサナト殿!!」


「……あ?」

 異常とも言える口調の変化とテンションに困惑するアサナト。


「では其処に居るのは、ミカ殿とナミア殿であるのか!?でそこの少年は……知らん!!」

 レッドペガサスに完全に知らないとスルーされたアルメス。


 少し傷付いた。


 だがアルメスはそこまで有名な訳じゃ無いので当たり前の対応なのだが。


「テンションが高いですね……」

 余りにも差異の激しい口調の変化に、少し焦りを覚えているミカ。


「あ、済まぬ。少し舞い上がってしまってな……」

 ミカの言葉に素直に謝罪するレッドペガサス。

 一応、騒ぐとうるさい等の常識は持ち合わせている様だ。


「あ、隠蔽魔法、邪魔かしら?」


「いや、魔眼を持っているから大丈夫だ」


 身なりが素直に判別できないだろうと気を回して言ったナミアに、魔眼がある、と言って止めるレッドペガサス。


 レッドペガサスの言う魔眼、とは。


 物を見る、目としての機能だけでなく、それに魔法的効果をもたらす能力を付け足した、遺伝や突然変異等で開花する、一種の才能。


 自力で目覚める事が一番負荷が掛からなくて便利だが、人為的に作った魔眼を移植する、などの事もできる。


 だが、それだと移植終了後の魔眼適応時に、保有者に莫大な負担が掛かるというデメリットもある。


 その負荷の所為で死んでしまう、と言う例も。


 だがレッドペガサスの場合は、恐らく前者の、自分で開花した魔眼だろう。


 そして魔眼には、魔力の流れが普通の目よりも見えやすい。

 つまり、隠蔽魔法を見破れる、と言う事だ。


「ああ、なら大丈夫ね」


「で、聞きたかった事なんだが、何故君がこんな所に居る?」


「ああ、ここに居るのは私自身の願望だよ」

 アサナトの問いに対し、少し自慢げに話すレッドペガサス。


「ほう、その理由は?」


「聴きたいか、それはだなーーーー」


 レッドペガサスと談話する一同。

 楽しげに話すアサナト達の背中を、決意と殺意が入り混じった様な目で見つめる、怪しい男が、……一人。


 これから起きる事を予見したかの様なその目は、酷く死んでいた。


(必ず……お前だけは殺す)

 その目の狙う先は……ただ一人。


 その男は信念を抱き、その場を後にする。


 ーーーその様はまるで漆黒の様に。


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