自虐のアルメス
一人静かな訓練室に小さくも鳴り響く風切り音、布の擦り切れる音。
そう。アルメスは一人鍛錬をしていた。
今の自分を変えようとするために。
昔から積み上げてきた剣技、鍛えてきた肉体。
鍛錬は苦痛ではない。
そしてアルメスは何かに縋り付く様に剣を振るう。
何回も。
だが、どれだけ振ったところで変わらない……変われない剣、そして……
ーーーー自分。
変われなくなったのはいつだろうか。
……昔は良かった。盲目で、ありもしない希望に期待して、縋り付く様に剣を振っていた前の僕は。
希望を見つける為なら、自己をも犠牲にする。
そんな自己破滅的な僕に耐えきれなくなって、かつての師匠は、僕の師匠では無くなってしまった。
いや、僕が辞めたのか。
いつだって師匠は、僕に寄り添ってくれた。
曲がりなりにも、信念を持って。
だけど、僕が裏切り、傷付けた。
でも、仕方ないんだ。
僕に付き合わせる訳にはいかなかったんだ。
こんな人間に。
「居るかもしれない」と。居ないと分かっているのに、眼前の薄れていく希望に醜く縋り付く、僕という屑みたいな人間に。
心では分かっているのに、体が、目が、頭が、あの時の幸せを忘れないように、と縋り付いてしまう。
……自己欺瞞だ。
僕は、そうだと分かっているのに、盲目的で、希望に疑いを持たなかった昔の自分を続けている。
もうこうなってしまったら遅いんだ。
こういう人間は、一生それを追い続ける。
周囲の人達を裏切り、自分を偽り続ける。
ーーー僕は、何のために生きているんだろう。
「練習、してるの?」
アルメスの自虐を遮る様に、横から謎の女性の声が呼び起こす。
アルメスは驚き、思考と振るっていた剣を緊急停止させる。
自分に語りかけるその声。黒色に染まりきって帰ってこれなくなりそうな程の精神状態の時に声をかけられたお陰で、すんでのところで戻って来れた。
「え……?」
その声の主は、背丈ではアルメスとほぼ同じくらいの、可憐な少女であった。
元々アルメス自体背が低めで、女性の様な背丈なので、この少女は平均的な女子のサイズ、とも言えるだろう。
そしてアルメスはこの女性をパッと見てみて、直感的に察した。
大体同じぐらいの年齢だと。
そのアルメスの直感は意外と合っているかもしれない。
幼い顔つきと、白髪のツインテール。
そして、最初語りかけて来た時の言葉遣い。
後、まだ確定では無いが耳などが無いところから見ると人間の様だ。
会ったばかりなのに親近感すら覚えるほど自然な立ち振る舞いをする女性。
アルメスは話しかけられたので、困惑しつつも名前などを訪ねることにした。
「えっと……貴方は?」
女性が、ハッと思い出した表情になる。
名前を名乗るのを完全に忘れていた様だ。
もうこの反応からして、相当な天然か、アルメスと同じぐらいの少女と推測が出来るが。
「あ。ああ、私はスーシャ・リッテユーロ、十六歳。貴方は?」
実名も伏せることなく、快く自己紹介したスーシャという少女。
ここで実名を隠す必要も無いので、この名前が本名なのだろう。
そしてスーシャは、アルメスの予想通り、少女だった様だ。
しかも同い年。
アルメスは運命ではないかと胸を躍らせたが、そんな出会いは無い、とあっさり感情を切り捨てる。
そして、その名前を聞いたアルメスに何かが引っかかる。
(スーシャ・リッテユーロ?聞いたことがあるような無いような……)
それよりも、スーシャと言う名前には聞き覚えがある名前だった様な気がしたが、思い込みの可能性がある程薄い引っかかりなので、思考を諦める事にした。
(駄目だ……分からない)
もどかしさが残る中での思考放棄だったので、小さく肩を落とすアルメス。
とりあえず、スーシャに名前を聞かれたので、答える事にした。
「アルメス・レジュリゲート。十六歳です」
「同い年なんだ……」
アルメスがあっさり切り捨てた謎の運命を感じてしまったのか、もしくはアルメスの年齢を自分より下に見ていたのか分からないが、どちらとも取れる意外そうな声をあげる。
だが、年不相応に静かに驚くスーシャ。
年頃の女子では珍しい冷静さだ。
だが暗い性格という訳ではなく、精神年齢が少し高いだけなのだろう。
ふと、腰の辺りを見ると、剣を携えていた。
しかも、かなりの業物だという事が、鞘に収まっている状態でも分かる。
装飾が細かい上に、スーシャの体格に合わせたのか、かなり細い形状をしている。
もしかしたら、オーダーメイドなのかもしれない。
(なんでこんな剣を持っている子が……あ、ここ宮殿だった)
すっかり鍛錬の所為で忘れていたが、ここは宮殿。
王の住む、宮殿だからこそ、中にいる警備員達が、どんな侵入者だろうが切り捨てるためにこういった剣を持っている、といった可能性もありえなくは無い。
だが、警備の一環としても流石にこんな少女にこんな剣を渡す事は無い筈。
なら、スーシャは一体……。
「アルメス君、私と一緒に、剣の練習しない?」
アルメスの思考をかき乱す様に、スーシャが練習に誘ってくる。
普通なら、断っても良いのだが……
「まあ、僕も暇だし……」
正直単調な鍛錬にも飽きて来た上に、スーシャについて少しだけ知ってみたい、という事もある。
とりあえず受けてみた。
♢
「で、そのスーシャ・リッテユーロを、何故俺たちの援護に回すんだ?ミキシティリアの最高戦力だろう?」
アサナトの問いに、第三席が若干被らせつつも答える。
「いえ、あの子は……『特殊転生者』なんです」
「……成る程。だから俺達か。……いいぞ、厄介事だとしても、我々が対処せねばな」
アサナトが納得したように第三席を見つめ、引き受ける。
我々、という言い方をしたのは、何か意味があっての事なのかもしれないが、現時点ではそれがどんなニュアンスで言った事なのかは見当がつかない。
ミカやナミアも賛成の様で、アサナトの合意の言葉に一切口出しせずに会話を見守っている。
アサナトもそれを確認した。
「すまんな……任せる事しかできなくて」
事の詳細を聞かずに快く合意したアサナトらに対し、問題を頼む事しか出来なかったアリセムが、ミカの良心を利用する様な頼み方になってしまった事に罪悪感を感じて、謝罪する。
「良いんですよ。手に負えない特殊転生者の制御及び教育は、我々の専門ですから」
頼み事の本質を元々見抜いていたミカは、そんな厄介事だと知っていたのにも関わらず、真っ向から聞いた様だ。
それだけ、制御の効かない特殊転生者とは、厄介なものだと知っているから。
そしてそれは、ミカ達しか出来ない程に特殊な物だというのも知っているから。
そして、ミカやアリセム達の口振りからして、もう既に手に負えない状況になっている、という事だろう。
「で、一応聞いておくけど、そのスーシャって子は、どんな風に暴走しかけてるの?」
その人物を直接見れば直ぐに済むのだが、肝心の本人がここに居ないようだし、確認の意味も込めてアリセムに聞いておくナミア。
ナミアの言っている暴走、というのは、特殊転生者に大体起こる、能力の暴走の事。
暴走の仕方次第で、大体の治し方が分かる。
「地震だ」
「地震ねえ……意外と面倒なのね」
アリセムの答えに対し、どういう対処を取るかを考え始める。
思考中のナミアに対し、悔しそうに嘆くアリセム。
「やれる手は尽くしたんだが、もうお前達にあれを使わせる事になってしまった」
「良いのよ。減るものじゃ無いし」
ナミアがまたしても謝ってくるアリセムをなだめる。
「……で、その子は今どこにいるの?」
もう色々両国について語り終えたので、充分だと見計らい、ナミアが椅子から立ち上がりながらアリセムと第三席に問う。
出来れば早めに済ませておきたい様だ。
アリセムもそれに賛成だった様で、
「案内しよう。とりあえずこれで会合は終了だ。各々各自解散して良いぞ」
アリセムがそう告げると、座っていた十二聖騎将や、ミキシティリアの要人達が転送魔法で去っていく。
第三席以外の十二聖騎将や、要人達は、最後のカラリエーヴァ襲撃の辺りから背景と同化しそうなほどの空気っぷりだったが、その前の話ではちゃんと喋っていたから、ちゃんと仕事はこなしている。
そして、第三席を含むアリセム達以外、部屋に残る者はいなくなった。
ナミア達は、第三席が部屋に残ったのに疑問を抱く。
その瞬間、疑問はもしかして、という確信に近い予想に変わる。
「まさか第三席、……いやキューラ。貴方がスーシャの説明をしたのって、教育係だからなの?」
一瞬会合中の癖で第三席、と呼びそうになったが、本名で呼び直すナミア。
面識はある様だ。
元々、十二聖騎将の一員で、しかもアリセムに一番近かったからキューラが説明役にされたのだろうと思っていたナミア達。
「そうですよ」
やはりその過去の予想は間違っていた様だ。
教育係だったのか……と、小さな笑いを溢すアサナト達。
キューラはその笑みを理解できずに戸惑う。
「ど、どうしたんですか?」
「いえ、こっちの話よ」
適当に誤魔化すナミア。
キューラはまだ疑問の表情を浮かべてはいるが、直ぐに消えるだろう。
そのまま会議室を出て、アリセムの後を付いて行く一同。
一分ほど歩いてもまだ着かないので、何処に向かっているかと思い、ナミアが質問する。
「まだ着かないけど、何処に向かってるの?」
「訓練室だ。もう着くぞ」
その答えを聞いたナミアが、疑念を抱く。
「あれ、確か訓練室って……?」
ナミアの記憶が確かであれば、アルメスも訓練室に行っていた筈だ。
訓練室はこのフロアに一つしかないので、恐らく……
「さあ着いたぞ、訓練室。確かここにいる筈だが……?」
アリセムが記憶に基づき、訓練室の扉を開ける。
疑問形なのは、アリセムもここに確実にいると確定できないんだろう。
アリセムが開く扉の中から見えたのは、火花。
その火花の主は、アルメスと、スーシャらしき人物。
アリセムの表情を見るに、恐らくあの少女がスーシャなのだろう。
だとしても、何故剣撃を交わしあうに至ったのか。
一応加減しているところを見ると、練習の様なものだろうが、にしても何故こんな風に発展した?
どちらが誘ったのかは分からないが、それでも 何故受けたのか。
その様子を見たアサナトが呆れる様に告げる。
「……なにやってるんだ、あいつら」
そう文句を言いつつも、練習の邪魔は出来ないと思ったのか、ミカ達の中であの練習を止めようとする者は居なかった。
アリセムとキューラはスーシャと戦っているアルメスの実力を、ミカ達は、スーシャの実力を確認しつつも、どんな暴走を止めるための治療を受けさせるかを考えていた。
だが、治療は一瞬で終わる事なので、とりあえず並行して進めていたスーシャの状態確認を放棄し、目の前で行われている練習を観戦することにした。
アルメス達はミカ達が見ている事に気付いていなかった。
というよりも、ミカ達が極度に気配を殺して見ていたので気付けなかったのだが。
ガキン、という音が部屋中に鳴り響き、アルメス達の剣から再度火花が散る。
やはり真剣を使っている様だ。
一応双方扱う剣は訓練用の剣の様だ。
それでも真剣なのは変わらない。
人体に掠っただけでも切れ込みが入る。模造刀とは違う。
だが、両方とも体に当たる前に斬撃を躱している。
練習の様なので相手を傷つける事は無い筈だが、不意に当ててしまったとしたらどうするのだろうか?
まあ、剣が当たりそうになったら、アサナト達が止めに入るのだが。
アサナトが、一応部屋の広さを確認する。
そうすると、部屋の端のソードラックに、かなりの業物に見える剣が立てかけられているのが見えた。
恐らく、公平な立場での練習の為に、あの剣は不要なのだろう。
あの剣と打ち合える様な剣は、訓練室には無いからだ。
訓練用の剣であの剣と打ち合うと、折れるのは目に見えている。
そんな剣では練習にすらならない。
それをしっかりと理解しているのだろう。
スーシャはちゃんと練習試合の基本を弁えている様だ。
アルメスは自前の剣など持ってもいないし、あったとしても持ってきていないので、どちらにせよあの剣は練習では使われなかっただろう。
そしてアサナトがアルメス達の所に視線を戻すと、スーシャが、アルメスを攻めている所だった。
……やはりスーシャの方が一枚上手だ。
最初からそうだったが、剣と体の体重移動と、身体のしなやかさでアルメスの攻撃を危なげなく回避している。
正直言って、今のアルメスでは勝てそうにも無い相手だ。
アルメスは必死に抵抗してはいるが、スーシャに向ける斬撃を、躱されるか、弾かれている。アルメスは剣撃を受けつつ、少しずつ後退りしていき、一瞬攻撃が緩んだタイミングでスーシャの背中に廻る。
だが、完全に後ろに廻ったと確信したアルメスが、スーシャの背中が『あるはずの』所に視線を送る……が、肝心のスーシャが居なかった。
(消えた……?)
廻る際に余裕が無かったのでスーシャを見ずに移動してしまった隙を突かれた。
アルメスは焦り、何処に行ったと、必死に探し回る。
「後ろだよ」
「!?」
その声の方向は、真後ろだった。
咄嗟に振り向く……そして視界の端に、人影が見えてきた。
それは、片手でアルメスに向け剣を振り下ろしている最中のスーシャだった。
ーーー死。
アルメスはそれを確信した。
確実で、確信的な死のビジョン。
アルメスは報われたかの様な、安らぎに似た笑みを浮かべる。
目を閉じ、委ね、懇願する様に。
ーーーーーこれで……いいんだ。
死ぬまでアルメスは自分の脳漿が地面に飛び散る事でも考える。
多少無力感に苛まれつつも、目前にある死の確信に囚われる。
……だが。
いつまで経っても死ねない。
目を開けると。
振り下ろされた剣は、アルメスに触れる直前で止まっている。
「……!?」
その瞬間にアルメスは、この試合が練習試合だという事を思い出す。
「あ、キューラさん!」
スーシャは、アルメスに一瞥をくれた後に、練習を観戦していたキューラ達に気付き、走っていった。
何故いるんですかなどのスーシャ達の会話を横に、アルメスは生きている事を実感してしまっていた。
「……」
両手を握り込み、生きている事を確認する。
(あれで死ねたのなら……てさ。こんな僕が楽に死ねる訳がないじゃないか)
そう自虐し、アルメスは怪しまれない様に、剥がれ切ってしまった仮面をつけ直し、危ういほどの笑みでスーシャ達の会話に参加しに行く。
「もう会合は済んだんですか?」
「ああ、もう済んだぞ……」
アリセムがアルメスの言葉に答えている時に、アサナトはアルメスへ同情のような目を向けていた。
「……」
どう思っているかなんて分からない。
だが、明らかにアルメスに向けての同情、もしくは憐憫の表情を浮かべていた。
アサナトのその視線にアルメスは気付けなかった。
それが、自分の過去を見透かす視線であったのも知らずに……。
♢
「それでは治療に入りますので、皆さんは部屋を出てください」
ミカが、アサナトとナミア除く全員に対して呼びかける。
アルメスはスーシャについて事情を説明してもらっていたので、何の疑いを持たずにアリセム達と一緒に部屋を出る。
アルメス達がいる所は、医務室。
たった一層のフロアの中に、こんなにも部屋があるとは、アルメスは思わなかった。
アルメスは魔法異次元空間の便利さを再確認した。
「さて、やりますか」
全員が部屋から出たのを確認し、ミカがナミア達に向けて準備はいいか、などの視線を向ける。
「ええ」
ナミアが快く了承したのに対し、アサナトは返事を返さない。
不審に思ったナミアが返事を返さないアサナトを呼びかける。
「アサナト?」
「……!?あ、ああ良いぞ!」
思考から呼び戻された様に咄嗟に返事するアサナト。
違和感なく返事したつもりなのだろうが、表情と体の動きで、分かる。
おかしい、と。
そしてミカ達は、アサナトのこの行動の理由となりそうなものを知っていた。
「アルメスさんの事を考えていたんですか……?」
そう言うと、アサナトはわかりやすく目を伏せた。
どうやら図星らしい。
「あの練習の決着の時、スーシャが剣を振り下ろした瞬間に、一瞬だけアルの顔が、安堵の表情に変わったんだーーーーまるで死を望んでいるかの様に」
アサナトは、あの時のアルメスの表情を遠目から視認していた様だ。
そのアサナトの言葉を聞いて、ミカが顔を曇らせる。
「十中八九、あの事件の所為でしょうね」
ミカの推測に同意し、頷くナミアとアサナト。
「……どうするの?それでもアサナトは……師匠を続けるつもりなの?」
ナミアの不安そうな問いかけに対し、溜息を吐きながら答えるアサナト。
「やらなきゃいけないだろう。しかも、アルを育てるのは、俺達の償いでもあるんだから」
「……そうですね。ーーーそろそろ治療を始めましょう。遅くなるといけないですし」
かなり重い空気が漂い始め、これ以上の話は治療に関わると判断したミカが、一度話を中断させる。
ナミアとアサナトもそれを感じていたらしく、直ぐに話を切り上げた。
♢
治療室の扉が開かれる。
「……!?」
椅子に座って待機していた、アリセム達が一斉に立ち上がる。
開かれた扉から最初に出てきたのは、スーシャだった。
治療が完全に終わったのだろう。
その次に、ミカやアサナト達が出てくる。
「……終わったのか?」
確認の為に、アリセムがミカ達に問いかける。
不安の表情を隠しきれないアリセムに、ミカが満面の笑みで答える。
「終わりましたよ。これでもう暴走は起きません」
「素晴らしい手際だな」
アリセムの言葉通り、この治療にはたった五分程度しかかかっていない。
アリセム達がどれだけかかっても治せなかったものを、たった五分で治してしまったミカ達を称賛しつつ、心から感謝する。
「スーシャ、具合はどう?」
ナミアが、一度スーシャの具合を全員に確かめてもらう為に問いかける。
「大丈夫。問題ないです」
自分の身体の確認も全くせずに即答したスーシャ。
即答出来るほど、確認する必要がないという事だろう。
「本当に大丈夫なの?」
キューラがやせ我慢をしているんじゃないか、と。別にナミア達とスーシャ達を信用していない訳ではないが、あまりにも早すぎた治療だったので、もしかしたら出来ていないんじゃないかと思い、もう一度聞き直す。
一歩間違えばナミア達の反感を買う所だったが、元々仲が良いので、そういう反感の声は出てこなかった。
「本当に大丈夫だよ」
キューラのしつこい程の心配の声に、スーシャが若干引きつつもなだめる様に答える。
「でも一応、という事もあるので、少し確認しましょうか」
「……確かに。能力がどんな風に使えるか試してみたいですし」
ミカの提案に賛成するスーシャ。
スーシャは能力が今現在どの様に使えるかは分からない。
前の感覚がズレていたら矯正、前の感覚と同じだったらそれはそれで良いので、今の感覚を知る事は重要だと判断した様だ。
「なら、早速訓練室で確認としましょうか」
訓練室へと歩み始めたスーシャとミカ達を、アリセムが止める。
「なあ、それって儂等も見て良いのか?」
儂等、とはキューラを含めての事だ。
遠慮の様にも見えるその確認の言葉。
「……?良いんですよ?元々スーシャはミキシティリアの、十二聖騎将なんですから、見ませんと……いや、見ないといけませんよ?」
ミカ的に当たり前の事を聞いてしまった様で、何故そんな事を聞くのか一瞬困惑しながら答える。
アリセム達はその事を少し忘れていた様で、自分でも何故そんな事を聞いたのか、と笑う。
あまりにも親しげに話しているミカ達とスーシャの所為で、スーシャがミキシティリアの、十二聖騎将だという事をすっかり忘れてしまっていた様だ。
「……そうだった。スーシャは十二聖騎将だったな」
アリセムのスーシャに向けてのほぼ忘れていた、という旨の発言。
これに目を瞑って居られるスーシャではない様で、
「なんで忘れてるんですか!」
ちょっとキレた。
それを皮切りに、アリセム達の会話でスーシャ弄りが始まったのであった。
それは、訓練室までの場繋ぎにはちょうど良かった。
♢
「着きましたよ。皆さん」
和気藹々と話が盛り上がっているアリセム達に、ミカが告げる。
「お、じゃあ始めるとするか」