表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全員異世界転生者  作者: ロマンガさん
1/2

前日譚1

ここは神世界(しんせかい)。辺り一帯が真っ白な空間。何もかもがまっさらな世界。そんな世界を少し歩くと、天を貫くほどの長い白い柱が右手側と左手側あり、前方に向かってずらりと並んでいるのが確認できる。その真ん中を歩く。そうするとやがて巨大な階段に到達する。その階段を登る。階段を登りきると再びまっさらな空間が現れる。それより十数メートル先にまた階段があるのだが、彼らはその階段には登ろうとせず、その場で跪く。彼らの視線の先にある階段を上った先、そこには巨大な椅子が一つあり、その椅子には既に白髪混じりの長髪と立派な髭を(たず)さえた老人が背もたれにだらりと身を委ね、頬杖をつき、足を組んで座っている。老人は見下ろす。自らの視線の先に跪いている若い男と女の姿を認める。深いため息をつくと、ようやく言葉を発する。

「何故ここに呼ばれたか、分かるか?」

男と女はその言葉と同時に、額に脂汗を浮かべる。彼らは何故ここに呼ばれたのか、その理由を重々理解している。理解しているが…その問いに両者とも答えることができない。

「ミィ・ゾバタよ、答えてみろ。黙っていては何もわからんだろうが」

老人はこうべを垂れる男を睨みつけながら言う。ミィ・ゾバタと呼ばれる男はキリキリと痛む胃を撫でながら恐る恐る口を開く。

「後継者争いのことで…ございましょうか」

敢えて確認するようにミィ・ゾバタは言う。

「その通りだ。儂は早く隠居がしたい。ようやく数万年に及ぶ神としての仕事を終えたのだから。(いとま)が欲しい。故に一刻も早く次の後継者を決める必要がある」

自身を神と呼ぶ老人は歯軋りをする。すると老人の歯軋りに呼応するかのように空間そのものがカタカタと揺れだす。

「ケピィーよ、次の後継者はいつ頃決まりそうなのだ?」

神は次に、女の垂れた後頭部を睨みつける。

「顔を上げよ」

女、ケピィーはゆっくりと顔を上げる。彼女の顔からは滝のように汗が流れていた。

「それが、今のところは全く目処がたっておりません」

女は歯をカタカタと鳴らしながら言葉を漏らす。その震えは神の力によるものではなく本能的なものだ。

「儂がお前らのどちらかで後継者を決めよと言ってから既に、どれほどの時を費やしたか、貴様らは分かっておるのか?」

神の視線の先はミィ・ゾバタ。自分に問われているのだと彼は理解し、口を開く。

「せ、1003年です」

そう言い切った刹那、ミィ・ゾバタの上半身が吹き飛ぶ。血と肉が飛び散り、ケピィーの左半身にその大半が付着する。真っ白な空間が朱色に染まる。ミィ・ゾバタは神の怒りを買い、一瞬にしてミンチにされてしまったのだ。辺り一面に彼の肉が飛び散っている。それを見て神はふと思う。

(この飛び散った血肉とミィ・ゾバタの上半身は本当に同じ質量なのだろうか。儂にはとてもそうは思えん)

それが妙に気になった神は飛び散ったミィ・ゾバタの肉塊を指差して、呪文を唱える。

不安死夢(ふぁんじゅ)

するとミィ・ゾバタの腰より少し上、心臓があったはずのところに黒い球が現れる。黒い球が現れたと同時に辺りに飛び散った血と肉が巻き戻しのように黒い球に向かって集合する。血がミィ・ゾバタのシルエットを作り出し、その上に肉の塊でコーティングする。そうすることであっという間にミィ・ゾバタが出来上がった。最後に神がふうと一つ息を吐いてやると、ミィ・ゾバタはそれを合図にハッと目を醒ます。

「良かったなあ、儂の気まぐれで生き返ることができて」

ミィ・ゾバタは溺水から這い上がってきたかのような勢いで息をする。

「はあ…はあ…、ありがた…き、しあ…わせ」

ミィ・ゾバタの姿が滑稽に見えたのか、神は幼子(おさなご)のように声を上げて笑う。

「気分が良くなった。よろしい、今回はここまでにしてやろう」

神はしばらくの間ケタケタと笑っていたが、自分の中にある何らかの合図を以って突如、般若のごとく険しい顔になる。

「だが、次はない。もし次、儂が貴様らを呼んだ時に後継者が決まっていなかった場合、貴様ら2人には呪言の呪いをかけてやる。貴様らには永遠の命が与えられ、永遠の苦痛が与えられる。例えその後神になったとしてもな。そうなりたくなかったら早く後継者を決めよ。手段は問わん」

ミィ・ゾバタは胃から逆流しそうになるものをグッと飲み込む。

ケピィーは全身の穴という穴から流れようとする水分と頭部の毛髪が根元から白くなっていくのを悟られまいと、歯をくいしばる。

「もういい、行け」

神が最後まで言い切る前に、2人はその場を後にする。その速さは光を超えたと、のちに神は語る。


ル・ジャグジューリュ城。「この世界」の王であり、神候補であるミィ・ゾバタとケピィー及び、その関係者のみが立ち入ることを許されている城。豪奢な外見だけが取り柄のこの城で行うこと、それは会談である。今の話題はもっぱら、次の神を決める方法について、である。豪奢な内装とは裏腹にみすぼらしい小さなテーブルを挟んで、2人の男女が互いを睨んでいる。ミィ・ゾバタとケピィーである。

「どうするよケピィー。このままじゃあ俺たちの人生、お先真っ暗だぜ!!」

先ほどの神の説教がよっぽど効いたのか、狼狽を隠そうともしないミィ・ゾバタ。

「やっぱり、戦争を続けるしかないさ、私たち2人は政治や商いには全く才能がない。ならば、剣を取り戦ってどちらが神にふさわしいか、決めるしかなかろう」

ケピィーは先ほどとは全く違い、勇ましい態度。

「そもそも、そもそもそがよお、なんで俺たちが神候補なんだ?勘弁してくれよ、俺ぁ、神の地位なんて本当のところどうだっていいんだよ。今のままで良かったんだ。今のままの、のーんびりした暮らしで充分だったんだよ」

ケピィーが深く息を吐く。

「だからこそ、私たちが選ばれたんだろう。この世界に腑抜けはいらん。今の神はそういうお考えを持っておられるのだろう。私もお前も、王ではあるが、所詮地方の弱小者。たが、私たちは王という地位に甘んじ、真の王としての覇道の鍛錬を怠った。神はそれが気に食わんのだろう」

「だからって、そんなこと神には関係のないことだろう?」

「ミィ・ゾバタ。いい加減腹をくくれ。こんなところで文句を言ったところで現実は何も変わらん。現在我々の前に立ちはだかる現実は、私たち2人が神によって直々に神候補として選ばれ、私たちは一刻も早く次の神にならなければならない。そして、そのためにはどちらかが滅びなければならない。そういう現実だ」

「俺は神の地位なんていらない。欲しけりゃお前にくれてやる。戦争をする余裕はもう我が国にはない。俺はもう降参だ」

ミィ・ゾバタの言葉にケピィーはギリと歯を鳴らし平手打ちを喰らわす。

「貴様はそれでいいかもしれん。だが、一族は?兵士は?国民はそれで納得がいくと思うのか?私は聖者ではない。私と貴様の国は元は長い間怨嗟を交わし続けた敵対国だぞ?降伏したとして、私が貴様の国の人間をご丁寧にもてなすとでも思うのか?投げやりなことを言うな。それに、神は手段は問わんと言ったが、気まぐれなお方だ。あまり興の醒めるような決め方をしたら何をされるかわかったもんじゃないぞ」

ミィ・ゾバタは肩を落とす。

「だが、さっきも言ったように俺の国にはもう戦争をする余裕はない。それはお前だってそうだろ?かといって戦争以外で全員が納得する白黒のつけ方を俺は知らない。知ってたらもっと上の王になってる」

その言葉を聞いて、ケピィーはゴクリと喉を鳴らす。

「私に一つ、考えがある。もしかしたらこの世界のルールを破ることになるかもしれないが」

ミィ・ゾバタは目をカッと見開く。

「どういうことだ?」

「戦争をするのに必要なのは金とか武器とか色々あるが、もっと単純な話、人手が必要だろう?」

ミィ・ゾバタはコクリと頷く。

「そうだな、戦争をすれば当然人は死ぬし、新たな戦力を補強しなければならん。だが、戦争だけでは国は回らんから他の面にもマンパワーを割かなければならない」

「そう、例えば政治や経済にも人手はいるし、経済を回す民衆も必要だ」

「で、それが何なんだ?全く話が見えてこない」

「じゃ、私たちが今生きている「この世界」ではどうやって人を増やしている?()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はあ?何分かり切ったこと言ってんだ。、そりゃあ勿論」

ミィ・ゾバタは一泊間を置いて言う。

「異世界転生…だろ?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ