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竜の呼声  作者: 比呂
追憶
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風の行方


 大気が響き、悲鳴を上げていた。


 それは、『風喰い』の産声だったのだろう。

 竜すら殺す異形の塊が、ふわりと浮かび上がってくる。


 天馬に乗ったままの二人は、地上を見下ろして冷や汗を流した。

 ルゴスは言う。


「この数を相手にするなんて、聞いてないんだけど……」

「確かに一体だけだとは言っていなかったが、さて」


 クラムが目を細め、鉱山の入り口を見つめた。

 暗闇の奥は見通せず、暗く深い闇があるだけだった。


 それ故に、何が潜んでいるかは見当もつかない。


「俺はあの鉱山が怪しいと思うが、どうか?」

「そりゃそうだろうけど、どうって言われてもねぇ」

「鉱山はお前に任せる。『風喰い』は俺に任せろ」

「……一番面倒なところを押し付けてない?」


 嫌な顔をするルゴスだった。

 道筋も分からない真っ暗な鉱山を任されるなど、危険を通り越している。


 外で『風喰い』を相手にする方が、まだ生存率が高いというものだ。


 しかし、クラムが首を横に振る。


「適材適所という言葉を知っているか? 暗がりで『風喰い』と戦いながら鉱山を攻略できるのは、風を読めるお前しかいないだろう」

「だからってねぇ」


 彼は両手を広げて抗議しようとしたとき、その手をクラムに押さえつけられた。


「手を離すな。俺が危ないだろうが」

「……まあ、それはその、そうだろうね」

「わかっているなら、さっさと行け。入り口から湧いてくる『風喰い』くらいは相手にしてやる」

「何言って――――おい」

「あ――――ぬうぅぁぁぁぁっ」


 クラムの言葉が遠くなっていく。


 空中で藻掻きながら、地面へ向かって小さくなっていく勇者の姿があった。

 ルゴスの手を抑えるために前かがみになったところで、天馬の後部座席からすべって墜落してしまったのだ。


 落下先は木が生い茂る場所で、何とかクラムの生存を信じられそうだった。

 あの男も、伊達に勇者と呼ばれているわけではない。


 見えなくなってしまったクラムをよそにして、天馬の隣を飛んでいるレグリアが口を開いた。

 彼女にとっては人族の落下などどうでもいいことのようで、声色は平然としていた。


「どうするの?」

「え? ああ、うん。やるしか、ないのかなぁ」

「そう? なら、私が先に行くわ」


 竜族が口を開いて豪快に笑顔を見せる。

 『風喰い』の自爆で四散されそうになった過去など、すっかり忘れていそうだった。


 結構な角度で飛び降り急降下を始め、吸い込まれるように鉱山の入口へ入って言った。


「……どうして僕の周りは、こう、他人の意見を聞こうとしないのかな」


 彼女の様子も見た後で、ルゴスはゆっくりと天馬を降下させる。

 やはり竜族の尻は可愛いな、などと言葉が漏れた。


 すると地表で、森林ごと抉り取る爆発が起きた。


 その跡地に人影が現れると、その男が眩しそうに空を見上げる。

 どうやら生きて『風喰い』を退治したらしい。


 相変わらずの化け物であると、ルグドは思い知らされるのだった。








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