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竜の呼声  作者: 比呂
追憶
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愛と言葉11


 レグリアの表情が、僅かに陰る。


 挨拶代わりに致命傷を狙って放った竜撃光は、半透明の塊に直撃した。

 そして、即座に散らされた。


 高密度に圧縮された空気であれば貫けただろうが、それだけではないことがわかる。


「……確かに、長老たちの報告通りね」


 竜王国の賢老議会が独自の調査を行って得られた報告書には、竜撃光が無効化されることは伝えられていた。

 調査隊の竜が『風喰い』に喰われ、粉々に撒き散らされたことも記されてあった。


 このことは、人族達には伝えられていない。

 何せ、竜族の威信が揺らぎかねないからだ。


 威信が揺らげば――――竜王国の緩やかな滅びに拍車をかけてしまうことだろう。

 人族側には漏れ出していないが、竜族の個体数は減り続けている。


 その逆に人族は増え続け、竜を狩る者まで現れ始めた。

 竜族の恐怖心が膨らみ、力を求め、禁忌に手を出すまで時間はかからなかった。


 最強の肉体を持ち、最高の英知を持つ竜族とて――――滅びに抗いたいとは思うものだ。


 そのうちの一つが『風喰い』。

 古代精霊種を集めて固めただけの存在。


 ただ暴れて人族を減らせばいいと考えられたのか、高出力の兵器として使いたかったのかは定かではない。


 しかし、人族に見つかるくらいならば起動してしまおうと考えるのが妥当だろう。

 竜族が把握している魔鉱石の隠し鉱山に保管してあったが、知らぬ間に人族が鉱山を見つけられてしまった経緯もある。


 そして起動した『風喰い』は――――技術者を皆殺しにすると、竜通空帯を荒らし始めた。


「思いっきり自業自得よ」


 レグリアの鼻息が抜ける。

 隠しきれなくなった『風喰い』を有効利用するために、人族国家で一番の障害になりそうな聖王国を選んだ。


 貸しを与える代わりに、人族最強の『勇者』の戦力を分析し、人族国家との来るべき戦争に備えるのが目的だ。


 加えて――――目的がもう一つ。

 技術者によって『改造』された竜族の評価試験だった。


「さあ、どうなるかしらね」


 彼女の口元が歪む。

 レグリアの一族は、没落した貴族だ。


 落ちた竜族を迎え入れる貴族は無く、平民にとっては扱いにくい厄介者でしかない。

 もはや手に入らない栄華を求め、両親に検体として売り払われたことへ恨みもある。


 負けてもいいが、唯一の心残りは、同じく改造された双子の妹だった。


「あの子も、外に出られればいいのだけど」


 微笑みが漏れる。


 改造された身体を、美しいという人間がいた。

 最初は頭がおかしいか、目が腐っているのだと思ったほどだ。


 しかし、我が侭を言っても聞いてくれた。

 任務のこともあったのだろうが、レグリアにはそれが嬉しかった。


 馬鹿のふりをするのも、楽しかった。

 恐らくは、それも自分自身であることを知ってしまった。


 苦痛だらけの世界だけれど。

 世界のどこかには、物好きが居たりする。


「こんな私でも――――許してくれるかしらね」


 そう呟く彼女であったが、結果はどうでも良かった。

 ただ、遠くから聞こえてくる天馬の音に驚きつつ、口元が緩むことを堪え切れないのだった。











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