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竜の呼声  作者: 比呂
追憶
34/44

愛と言葉8


「待ちなさいよ!」


 レグリアが叫び、地面を駆ける。

 その形相に慄いて、喉の奥から悲鳴を上げる村長だった。


「ひいいいいいっ」


 ――――捕まれば命は無い。


 全身全霊で疾走する村長の姿は、まさに命がけであった。

 ただし、寄る年波と体力の衰えが足をもつれさせる。


 派手に転んで地面に倒れ込んだ。

 動きを止めた獲物に、活路は無い。


「あのねぇ」

「た、助け……」


 慌てた村長の声を遮って、彼女が手を差し出した。


「デザート」

「は、はあ」

「……無いの?」


 レグリアが不満そうに口を尖らせた。


 村長にとって、デザートの有る無しが命の天秤を左右する。

 否、それだけでなく村の運命さえも決めてしまうだろう。


 村長が慌てて頷いた後、遅れて言う。


「あ、ある、あります」

「持ってきて」

「はい!」


 立ち上がった村長が回れ右をして駆けだしそうになったとき、ルゴスが追い付いた。


「さあ、案内してくれるかな」

「いえ、それよりも」


 竜族の方が気にかかる村長である。

 最初からデザートなど用意していないことがレグリアに知られれば、領主軍の兵長と同じ目に会ってしまう。


 とにかく甘いものを探さなければ、と急いでいる最中に、他の者の相手をしている時間はない。

 ルゴスは、悪い顔をした。


「いいのかなぁ。このままじゃ、この村は聖王国と竜王国を同時に敵にまわすことになるよ?」

「いっ! そんな……」

「僕らは竜王国の依頼で動いてるんだ。村長さんたちは、それを邪魔したんだからね」

「邪魔をしたのは領主軍で、儂らではありません!」

「でも、領主軍と一緒になって、鉱山を採掘してたよね。偶然だけど、鉱床の入り口を見つけちゃってね。まさか、この国の王様も知らないってわけじゃないんだろう?」


 その問いかけに、村長が膝から崩れ落ちた。

 村長の肩に、ルゴスは優しく手を添える。


「そっか、この村は領主軍に脅されていたんだね。それなら仕方ないさ。何の武力も無い村が、領主軍に逆らえるわけでもないよ。何なら、僕らがこの国の王様に口添えしてあげても構わない」

「お、おぉぉ、それはありがたい! そうなのです、脅されていたのです!」


 顔を上げた村長が、必死で言葉を並べ立てる。

 ルゴスは頷きながら話を聞いていたが、背中に殺気を感じた。


 そっと背後を振り返ると、腕組みをしたレグリアが目を細めている。


「ねえ、デザートは?」

「す、すぐに持ってくるよ」


 引きつった笑いを浮かべたルゴスは、包帯姿となったクラムを思い出していた。


 同じ目的を持つ者どうしてあるが、この娘は計り知れない。

 恐らく、これ以上待たせることは出来ないだろう。


 彼はすばやく村長を立たせ、言う。


「とにかく、今の僕たちの命を守ろうか。料理しなくていいハチミツとかあるかな? 壺単位で」

「え、ええ……」


 二人は小走りとなって、村の道具屋へ急ぐのだった。

 






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