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竜の呼声  作者: 比呂
追憶
32/44

愛と言葉6


 肉料理の美味しそうな香りが、周囲に漂っていた。

 未だに湯気の立つ料理は、出来立てで見目好く盛りつけられている。 

 その料理を独り占めするため、竜族の娘が一心不乱に料理へ食らいつく。


 彼女と同じテーブルの正面に座り、眉根を狭めるルゴスが呟く。


「…………うぅむ」

「どうした」


 彼の隣に座るクラムが、腕組みをしながら聞いてきた。

 レグリアの健啖ぶりを見飽きて話しかけてきたのだろう。


 ルゴスも応じる。


「うん、まあ、色々とね」


 彼は椅子の背もたれに身体を預け、頭の後ろで手を組んだ。


 無事に下山することが出来たルゴスたちは、再び村長の屋敷に戻っている。

 竜の涙を村人に渡したのが効いたのか、待遇は以前と比べ物にならない。


 特にレグリアに対しては、これでもかと肉料理を振舞われていた。

 おかげで食糧事情に関しては問題が解消したのだが、ルゴスの表情は晴れない。


 彼は周囲に人が居ないことを確認してから、持っていた魔鉱石をテーブルへ置いた。


「これ、森の前で拾ったんだけどね」

「魔鉱石か。そんなに珍しいものでもあるまい」


 クラムの意識が、偏っているわけではない。

 天馬の燃料として使われるだけあって、流通量は少なくないものだ。


 寒村だからといって存在しない訳ではなく、何処にあってもおかしくは無い。


「確かにそうだよ。でも、落ちてる場所がね」


 人の使うものだからこそ、森の前に落ちている魔鉱石に疑問が残る。

 人が通らないような場所へ、誰かが落としたとしか考えられなかった。


 テーブルの上にある魔鉱石へ、視線を向けたクラムが問う。


「前回の偵察で、天馬が落としたものでもないのか」

「飛んでる天馬から落としてたら、もっと砕けてると思うよ」

「そうか。では、自然に出土したとは考えられないか」

「無くは無いだろうけど、魔鉱石はかなり深く掘らないと出ないからね」


 ルゴスが何もない中空を見つめた。


 がけ崩れなどで出土することも稀にはあるが、森の周囲にそんな様子は無かった。

 人も寄り付かない場所へ、いきなり現れた魔鉱石の存在。


「可能性としては――――鉱床が見つかった、とか」

「ふむ。それなら、この村はもっと栄えていると思うが」


 魔鉱石の鉱床が発見されたのであれば、それは途方もない資源である。

 掘れば掘るほど、金貨の山が生まれる事態なのだ。


 この寒村とて、良い意味でも悪い意味でも影響は避けられない。


 クラムが顎に手を添えた。


「つまり、この村が鉱床の発見を、領主に黙っていると?」

「黙ってる、とまでは言わないよ。見つけたばかりなのかもしれないし。調査結果の採集物をおとしてしまったとか? ……そんなときに村へお邪魔した人たちはどうなるのかな、とは思うけど」

「いらん問題ばかり増えるな。『風喰い』討伐さえ目途が立たないというのに」


 勇者が渋面を作って息を漏らす。


 魔鉱石の鉱床ともなれば、国策にも関わってくる。

 他国が下手に手を出せば、戦争にすら発展しかねない。


 森の前で受けた誰のものかわからない視線の問題も、無関係ではないのだろう。

 この場で唯一として幸せそうなのは、頬を肉で膨らませているレグリアぐらいなものだ。


「む。もぐり」

「あ」


 考え事をしていたルゴスが、口を開ける。

 テーブルに置いていた魔鉱石を、竜の娘が食べてしまったのだった。


「おい、大丈夫か!」

「いきなり何よ。お肉ならあげないわよ」


 肉を奪われないように大皿を抱え込むレグリアだった。

 しかし、問題はそこではない。


「魔鉱石食べたよね?」

「テーブルに置かれてたら、食べても良いと思うじゃない」


 若干だが、彼女が恥ずかしそうに言う。

 それも、問題ではない。


「いやいや、お腹は大丈夫なのか」

「何の話よ?」


 二人して首を傾げる様子を見て、クラムが言う。


「この男は、魔鉱石を食べた竜族を心配しているということだ」

「え、心配? 何でよ?」

「それは天馬の燃料だ。人族の食べる物ではない」

「なら、私が貰ってもいいじゃない」


 そう言って、レグリアが安堵の息を漏らした。

 視線を料理に戻し、手と口を動かす。


「いいのかな?」

「本人が気にしていないんだ。大丈夫だろう」


 彼女が何も問題ない様子で食事を続けている光景を、人間二人が珍しい顔をして見つめ続けているのだった。





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