表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の呼声  作者: 比呂
追憶
29/44

愛と言葉3


 村の広場に出てから、レグリアを探すのに苦労することは無かった。

 ルゴスの視線の先に、黙々と作業を行う彼女がいたからだ。


 村長の家から出て真っ先に竜の娘が行ったことは、目についた家畜小屋へまっすぐに向かい、豚を小脇に抱えることだった。


「ど、泥棒っ」

「え、何処にいるのよ。私が懲らしめてやるわ!」


 抱えられている豚がプギィ、と鳴いて足を動かし、空中を泳ぐ。

 彼は豚を取り上げようとするが、レグリアが一歩下がった。


「何するのよ」

「他人の物を勝手に取ったら泥棒だぞ」

「ええ、そうね。だから何?」


 豚を抱えたままで、彼女が訝し気に睨みつけてくる。

 本気で分かって無さそうなので、大きな溜息と共に、彼は口調を変えて言う。


「ブタ、トル。オマエ。ドロボウ」

「ちょっと待って。その言葉遣いは馬鹿にされているようで腹が立つわ」

「オマエ。ワカラナイ。オレ。カナシイ」

「……今度は手加減しないわよ」


 レグリアが握り拳を見せたところで、ルグドが首を振った。


「とりあえず、その豚は返そうか」

「嫌よ。これからあの山に登る準備をするんでしょう? ご飯が必要じゃないの」


 奪われないように背後へ豚を隠すレグリアだった。

 うんうん、とルゴスは頷く。


「だから、その豚を連れて行くのかい?」

「当たり前よ」

「どうやって食べる気?」

「飲み込めるでしょ、これくらい。携帯するなら丁度いい大きさだわ」

「ああ、なるほど」


 彼は優しい目になった。

 確かに種族の壁というものは存在していたらしい。


 豚を見て飲み込むという発想は、人間では中々出てこないものだ。

 竜にとって、豚はお弁当という感覚なのだろう。


「でもまあ、その豚は返してくれるか。村人に怒られるから」

「え? 何で勇者が村人に怒られるのよ。逆でしょう。私たちは山の『風喰い』を退治しに来たのだから、ご飯くらいくれるのが礼儀ってものじゃない?」

「あー、まあねぇ」


 彼の相槌に、いまいち納得がいっていない様子の彼女だった。


 竜族としては、王が民のために戦うのは当たり前で、貢物も当たり前なのだ。

 人族も大枠ではそれで間違っていない。


 ただし、今回は事情が存在する。


「ここ、聖王国じゃないから」

「?」


 眉をひそめて、首を傾げるレグリアだった。

 豚が鳴く。


「お隣さんの国だからね。勇者の肩書も、あんまり意味ないんだ。きちんとお金を払わないと、牢屋に入れられるね」

「人族同士で、国が違うの?」


 単一種族で成り立っている竜族の娘としても、物知らずなことだった。

 箱入り娘とも違う、認識のずれがある。


 微かな違和感を抱きつつ、ルゴスは頷いた。


「違うんだよ。だから、その豚は返して、もっと良いものを買おう」

「もっと良いもの?」


 明らかに餌に喰いついてきた顔をしていた。

 その純粋な興味に、ルゴスの頬が緩む。


「豚の丸飲みよりは美味しいさ」


 なあ豚くん、と彼はレグリアの背後に声を掛けた。

 すると返事をするように、豚の鳴き声が響き渡るのだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ