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竜の呼声  作者: 比呂
風の止む場所
24/44

聖火8


 上下左右に振り回され、竜族でさえ意識を保つのが難しい状況だった。


 大気の狭間から押し出される気流に乗り、恐ろしい速度で彼らが飛ばされている。

 経験則か本能的なものか、竜達が首を縮めて身体を丸め、風に身を任せていた。


 その中で、ただ一人の人間が、口元に薄笑いを浮かべている。


「もうそろそろ、かな」


 呟きの直後、更に気流が変わった。


 僅かな浮遊感の後に、いきなり強く投げ出された。

 ルグドを背に乗せたリイナが、迷惑そうに言う。


「今度は何だよ!」

「クラムの斬撃だね。気流に阻まれて散ったんだ。遠くから放たれて減衰してすら、この威力かぁ」

「相変わらず化け物じみてやがる。私様があいつの相手をするのは無理だぜ」

「知ってる。だから頼みがあるんだ」


 彼の言葉に、リイナが目を細めた。

 天性の勘の良さとでも言うべきものが、全力で働いた結果だった。


「こんな時の頼みなんざ、聞いても聞かなくても一生後悔しそうなもんしか無さそうなんだが」

「嫌とは言わせないよ。契約したろ?」

「悪魔みたいな男だな」

「それはいいね。ここ最近で最も似合いの評価だ。だからこそ、言わせてもらうよ」


 ルグドは彼女の背中から、手を離した。

 虎視眈々と別離を狙っていたかのような突風に押される。


 彼の口が、言葉を紡ぐ。


「光に向かって――――飛んでくれ」


 聞き取れたかどうかは定かではない。

 ただし、リイナの瞳が彼を見つめ続けていたことを知っている。


 離れてゆく最中、鱗に包まれた手が伸ばされたことも、気付いていた。


 彼が望めば、届いただろう。

 しかし、笑って見送った。


 このまま彼女らが気流に流されていけば、エンテル公の屋敷まで辿り着けるはずだった。

 それを引き留める理由は無い。


 一人で落下し始めたルグドは、両腕を横に突き出す。

 真下には広場が見えていた。


 彼の高度が周囲にある建物と並んだ瞬間、両腕を引く。


「うぐうぅああああああああっ」


 力の限りに叫び、ちぎれそうになる両腕に力を込めた。

 すると落下速度が緩まり、僅かだが方向も変わっていく。


 曲線を描いて噴水に飛び込み、水柱を上げた。

 舞い上がった水が周囲へ散り、街灯に照らされて『線』が光り、雫が落ちる。


 噴水の前に、剣を担いだクラムが立っていた。


「戻ってきたのか。ならば、覚悟はしているな?」

「――――君の言葉は、いつも正しい。けれど、正しいことが良い事だと、君は信じていないんだったね」


 水の中から、ルグドが立ち上がる。

 彼の周囲には輝く線が張り巡らされ、蜘蛛の巣のようになっていた。


 水で輝く線は、極細の『糸』だった。


 クラムが口元だけで笑う。


「相変わらず、知った口を利く男だな。間違っていると指摘してやるつもりも無いが」

「似ては無いけどお互い様だろ」


 彼はそう言って、顔にかかる水を拭った。

 互いの手の内は読めている。


 長年、一緒に戦ってきた友人の癖など、予測するまでも無い。


 だからこそ、これから始まる戦いは。

 予定調和の結果に過ぎなかった。




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