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竜の呼声  作者: 比呂
風の止む場所
14/44

竜と風4


 ガーレンティア竜峰の領地は、人族の街と比べて大きく変わっているところは無かった。

 建物に厳めしい竜の装飾が多いと言えば多いが、それくらいなものだ。


 そして、角無しのルグドが歩いていても目立つことは無かった。

 理由としては――――。


「おい、ルグド! 私様、あれ食いたい」

「……エンテル公の屋敷で、思いっきり食い倒してそれか」


 彼の服の裾を、引っ張る竜族がいたからだ。

 恐らくは、リイナの召使か何かだと思われているのだろう。


 人族と竜族にも、昔から交流自体は存在していた。

 細やかな作業や単純労働などの人族が得意な分野と、竜族の持つ能力とで交易がおこなわれていたのだった。


 それこそ太古の時代では、信奉の対象であったと思われる壁画なども残されている。

 人間を召使として雇う竜族が居ても不思議ではない。


 そして、元から偉そうなリイナの態度は、それに合致していた。


「デザートは必要だろーよぉ」

「お金は?」


 目を細める彼の態度に、手持ちの少なさが表れている。

 そもそも、知り合いの竜族にデザートを食べさせるために竜峰街へ降りてきた訳ではなかった。


「金はあるけどなぁ……手持ちは無い! 貸しにしろ」

「貸せるほど余裕ないんだけど」

「はあ? あの屋敷を買おうってんだから、金ぐらい持ってんだろ?」

「屋敷を買える金額だよ? すぐに現金化できるようなもの、持って歩けるわけ無いさ。魔鉱石の隠し鉱山の場所で、どうやって揚げ菓子を買うんだよ」

「ああ、討伐の褒賞だな? まだ後生大事に持ってたんだなぁ」

「おいそれと換金できるものでもないだろ。第一、お金に換えても運べないし、菓子どころじゃない」


 ルグドが目線を屋台に送る。


 魔鉱石のコンロで油が煮られ、その中へ狐色をした菓子が浮かんでいた。

 程よく膨らんだ菓子は隣の皿に盛られ、きめ細やかな粉砂糖が塗せられている。


「でもよー」


 指を咥えて揚げ菓子の山を見つめるリイナだった。

 我慢できなくなった彼女が屋台へ行けば、菓子の一つくらい奪うのは容易いことだ。


 しかしそれでは、エンテル公の客人として迷惑をかけることになる。

 彼女はそれで喜ぶだろうが、部屋を借りている身としてはどうにも心苦しい。


「……一個だけな?」

「わかった!」


 差し出された彼女の手に、硬貨を置いた。


 小走りで駆けていくリイナの背を見送り、ルグドは首を回した。

 竜族の街ではあるが、何処の世界にも『必要なもの』は存在する。


「この辺りだと教わったはずなんだけど……」


 街の端まで歩いてきて、此処ではないと分かった時の疲労は辛いものだ。

 目を皿にして周囲を眺めていると、彼女が帰ってきた。


「何してんだ?」


 片手に一つずつ、揚げ菓子を持っていた。

 行儀悪く交互に齧りつきながら、変なものを見る目つきをする。


「工房ならあれだろーがよ」

「そうなのか。助かったよ。……で、何で二個も持ってるんだ?」

「ああ、ルグドが金無さそうに見えたんだろうぜ。二人分くれたから、食ってんだよ」

「…………」


 彼が無言で屋台を見ると、店主が苦笑いを浮かべていた。

 何となくだが、ルグドと店主の間で意思疎通が円滑に行われたような気がした。


 一礼をしたルグドが、彼女に示された工房へ足を向ける。


 竜族が工房を――――つまりは天馬を利用することは稀であるが、人族はそうはいかない。

 交流があれば物資の輸送も行われるということで、竜峰にも工房は存在した。


 領主から認可された人族しか経営することを許されないために、割と貴重なものだった。


「あーん? 私様がいるのに、天馬を買うのかぁ?」


 揚げ菓子を食いながら、リイナが嫌そうな顔をする。


 基本的に、竜族は誇り高い。

 人族の間では、竜族というだけで、人間の貴族と同じ対応をするのが慣例だ。


 ルグドも、知り合いでなければ彼女に対する態度も変わっていたことだろう。

 無駄な争いを、わざわざ買うことはない。


「買うよ」

「金あるんじゃねーか! もっと菓子を買ってくる!」

「いや待ちなさい。これは弁償なんだから必要経費だよ」

「はあ? 誰に弁償するんだよ」

「居ただろ、アリルっていう人間が」

「……居た、のか?」


 本気で忘れている様子のリイナだった。


 彼は溜息を残し、先を歩く。

 工房にしては、あまり活気のない様子が気になったが、入り口の戸を叩くのだった。





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