少年は冒険者を目指して水を沸かす
とある辺境の領地に住まう瞬雷の騎士と水癒の魔女の次男として俺は産まれた。
兄貴は氷刃の二つ名で見習い騎士のトップ、もうすぐ見習いが取れる予定だ。
はるか昔に精霊との盟約を結んだことにより、人は属性を得た。兄貴は水属性、母親に似ている。
で、俺はと言うと
「うおおおおーーーー!!!」
鍋の水を沸かしている最中だ。
腰を下ろした空気椅子状態で手を前に出して鍋の底を支えている。触れている部分は赤くなっており、なみなみと入っている水は沸騰し始めている。
外見が属性に似るとは良く言うけれど、俺の髪は赤く逆立って炎のようだ。祖先に火属性がいたのだろう。こういう先祖返りの能力はとても強く出ることで有名だ。基本はどちらかの親の属性が出るので、親父は寂しそうではある。
もうすぐ10歳の俺はまだ成長途中で筋肉もひょろい、まだまだ鍛え足りないな!
「いてっ!」後頭部に衝撃を受ける。
「もうお湯沸いてるだろ、母さんの所に持っていけ」
兄貴が氷の棒を持って手でパシパシと叩いているけど、半分へし折れている。頭痛が痛い。
台所に鍋を持っていき自分の部屋で腕立て伏せと腹筋だ。
因みに部屋は家の離れにある。母親が水属性なので家は無事だったが何度かやらかしてる。いわゆる魔法のオネショと言うやつだ。属性が強い昔の英雄が5歳でもやっちゃったらしい、俺は6歳だから英雄より凄いのだ!
もう屋敷に戻ってもいいのだが、妹が出来て彼女の部屋になっている。どうやら俺はうるさいらしい! 石の部屋での暮らしも慣れたし、問題無し!
因みに妹の髪は水色だ、親父残念。
兄貴が騎士になるだろうし、俺は冒険者として魔物退治をして『業火』の二つ名を豪華に呼ばれるのだ、ハーッハッハ!
―さて、狩りに出るか。
狩りは肉を得られて、鍛えている俺は一番必要な食べ物! 更には毛皮は質が良ければ売れる……大体燃えるけどな!
森に向かう俺を呼ぶ声がする。
「アニキー、待ってー!」
「おぅ、ファンか、今日も付いてくるのか?」
「当然っすよ! ふんす」
鼻息荒く来たのは弟分のファン、風属性のチビだ。すばしっこいしチビなのだが俺のいっこ上。おれの炎に惚れて兄貴と慕ってくる。
ファンは小さな弓とナイフを持っている。
俺は素手だ! 解体用ナイフはあるが、武器は己の拳のみ!
何故か燃えて直ぐに壊れるからな! お小遣いが無くなる。
「獲物が見つからないなー」
ズンズンいつもの場所を移動してみたが、動物の気配が無い。
もう少し森の奥へ行ってみるか……。
「何っすか、この遺跡? ベーラ様式とも違う……今まで見つかってない文明の物かもしれないっすね!」
「燃えない武器があるかもな! 入ってみるか」
ジメっとした中を進むと崩れた天井の隙間から光が差し込む。
「松明があるぞ! 火をつけよう!」
「大丈夫っすか? 燃やし尽くさないっすか?」
「このぐらいは制御できるさ。バカにするなよ!」
「去年まで睡眠魔力暴走やらかしてたっすよね?」
「なっ、何を言っているのかなっ! 暴走なんて6歳で終えたぞ!」
「いや、夜中に火柱上がってましたよ」
語尾無しの真面目な返答に動揺して、ボッと大きな炎が松明の半分を燃やす。何とか残った半分が辺りを照らしている。
……
「ふぃ~」鳴らない口笛。
ファンは俺を無視して松明の火を移して壁の模様を確認している。ねぇ、俺兄貴だろ?
俺も半分なった松明を持って奥に進むと、石像が両脇に並んで祭壇みたいな部屋になっている。
期待して損した。ファンは興奮しているが、何が凄いのか分からん!
「なぁ、帰るぞ……帰んないのか?」
流石に弟分を置いてはいけない、しかしあの喜びように強く言えないジレンマ。
石像を見回すと精霊っぽさがある。俺の知っている人っぽさが無いけど。トカゲ頭の筋肉マンが火の精霊だろう、筋肉だし。
魚の頭は水、花の頭は土、鳥の頭は風。
うーん、腕を組んで盛り上がる腕の筋肉と大胸筋、三角筋や腹筋も凄い。
「……兄貴! 兄貴ってば! 帰らないんすか?」
「いや、お前が夢中になってたから待ってたのに……」
部屋の入り口で叫んでるファンに聞こえないが文句を言ってしまう。
遺跡を出るとイノシシと鉢合わせる。やっと、食料だ!
うん? 何か様子が変だ。目や牙の数が多いぞ。
「食えるかな?」
「いや、兄貴……あれは流石に」
マジに嫌そうな顔をするなよ、冗談に……体は食えそうじゃね?
上着を後ろに投げ捨てて両腕を広げて待ち構える。
「バッチコイ!」
突進してくるイノシシ……あれ? サイズおかしくない?
まだ距離あるよね、高さが俺の倍あるだろ。大人よりデカイ。
「ちょっ、待避ーー!!!」
「うわー! 化け物っすー!!」
華麗に逃げる俺たちと、追う化け物イノシシ。
「ぜぇ、ファン、イノシシの、弱点、は?」
「ふぅ、無いっす」
木をへし折って近づいているイノシシ、これは終わった。
いや! ここで終わってもいいのか!
冒険者ならこのくらい! なんぼのもんじゃい!
きびすを返してイノシシと対面する。膝は震えているが心は燃えている!
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!」
「兄貴ーー!」
『ボッ』と音がして、組んで振り下ろした両手が凄いスピードで鼻先の突き上げとぶつかる。必殺ブーストパンチだ!
しかし、重量の差はどうしようもない。腕が上に上がって鼻の穴に手が掛かる。
「くらえええーーー! ファイアーーー……アーーー!!!」
「兄貴ーー!! 技名考えておいてくれっすーー!」
複数の目や耳、口からも煙が出て炎が吹き出す。
俺のファイアー……必殺技だ!
焼けた匂いと共にイノシシは横にズシンと倒れた。
その後、二人してヨロヨロで帰って両親に怒られた。
瞬雷の尻叩きと1週間外出禁止。上着も無くした。
最後に、ちょろっと魔力ではない暴走がズボンを濡らしていて、不名誉な記録を塗り替えてしまった。
冒険者の道は遠い。
本日下ネタ書きたかっただけ2作目。