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不幸姫の道端の天使  作者: 雪花
5/10

美貌の主人は悪魔を侍る


 シャナはあれよあれよと言う間に、エルーシャの侍女たちに着替えてさせられ、乗馬服へと早変わりさせられた。

 白のフリルのついた可愛らしいブラウスに、ぴったりとした紺色のジャケット羽織り、したもぴったりとしたベージュのパンツをはいて足元は黒のブーツを履く。


 そしてシャナの物珍しいらしい銀髪を、器用に後ろでくるくると纏めてからバレッタを付ける。


「本当は生花でも付けたいところだわ」ぼそっと呟いていた先輩侍女の言葉は聞かなかったことにしたい。


「本当、シャナの銀髪は綺麗ね」


 同じように乗馬服を着ているエルーシャが羨ましそうに褒めるものだから、ブンブンと大きく首を振った。


「そんなわたしの髪なんて、エルーシャ様の御髪に比べたら天と地の差です!」


 それは心の底からのシャナの気持ちだ。シャナの髪なんて、ただ珍しいだけの髪色なだけである。エルーシャの艶やかな美しさ黄金の髪のに比べたら、そこら辺にある雑草であろう。


「お前もなかなかに頑固ね」


 呆れたように彼女は笑って、準備ができたのを確認して行きましょうかと促した。


 最近気がついたのだが、最初の頃は貴女と言っていたのに、いつからかお前に変わっていた。別にそれが嫌なわけではない。

 たぶんそれが彼女の元々の姿なのだ。

 だから少し嬉しいとも思ってしまう。


 


 ――――――


 


 馬小屋に行くと、ディオンが入り口付近で待っていた。

 濡鴉色(ぬれがらすいろ)(青みかかった黒)の少し長めの髪を後ろで赤いリボンで結び、白色の詰襟のブラウスに茶色のフロックコートを羽織り、白のぴったりとしたパンツに黒のブーツを履いて、足が長くなくては似合わないとされるフロックコートを完璧に着こなしている。


「遅かったですね」


 気がついた彼は琥珀色を細めて笑い、無駄に整った顔をこちらに向けた。それだけで他に女性がいたのなら惚れさせていたに違いない。


「悪かったわ。シャナにも着替えて貰ってたのよ」


 エルーシャ急に話を振られて、シャナはぺこり頭を下げた。


「すみませんディオン様、遅くなりました」


「いや大丈夫だよ。少しティータイムを逃しただけだからね」


 微笑みとは裏腹に、盛大な嫌味を投下するディオンが少しだけ苦手だ。


「ディオン!」


「はいはい」


 ギロリとエルーシャに睨まれて、彼は降参するように両手をあげる。


 この2人は仲がいい。そういうのも、彼は小さな時にアルフォンス家に引き取られ、エルーシャと共に成長し、ある意味兄弟のようなものらしい。実際は護衛とご令嬢という間柄だが。


(羨ましい・・)


 仲が良い2人を眺めていると、ディオンがそう言えばと聞いてきた。


「君、乗馬はできるの?」


「えーと・・」


 どうだろうと首を傾げる。そもそも記憶がないので、何が出来て出来ないのかまでその時にしかわからないのだ。


「大丈夫よ。出来なければディオンと一緒に乗れば良いのよ」


 シャナの反応に何を思ったのか、エルーシャは、ねっとディオンを見上げる。


「ええ、そうですね」


 にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべて、次の瞬間シャナは見た。


(ひっ!)


 底冷えするほどに目の据わった彼を。テレパシーすら飛んできている気がする。


『お前、わかってんだろうな。乗れなくても死ぬ気で乗れよ』


 的なことを伝えてきている気がする。

 それに必死にカクカク縦に首を動かした。

 エルーシャは気づいていないのだ、その横で満足そうな顔をした悪魔に。


 とりあえず馬も警戒心が強いからと、比較的ここの馬小屋で一番おとなしく少し小さめの馬をディオンは選んでくれた。


「必ず馬に近づくときには、前から近づがなくてはダメよ。後ろから近づけば、後ろ足で蹴られて大怪我をするかもしかしたら命を落とすかもしれないわ」


「はい」


 エルーシャは愛馬である白い馬のリーンで見本を見せてくれる。


 それを見ながら茶色毛並みの馬にゆっくりと近寄っていった。名前をライラックというらしい。男の子だそうだ。

 ブルルルっと鳴き声をあげるライラックに、ゆっくりと指先を近づけて頭を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて頭を垂れた。


「うん。それなら大丈夫そうね」


 馬との相性を見て、エルーシャはホッとしたように息を吐き出した。

 馬と仲良くなれば、次はようやく乗馬だ。


 エルーシャは無理しなくていいと言うが、そうはいかない。美貌の主人の後ろで悪魔が、シャナを穴が空くほど睨みつけてくるのだ。


(絶対、乗って見せる!)


 あの悪魔と共に乗るぐらいなら、馬に蹴られた方がマシだ。


「ライラック、ごめんね。乗せてね」


 シャナに答えるように、ライラックがブルルルと鳴く。

 彼の横に立って手綱を握って、シャナ確信した。


(あ、大丈夫だ)


 それはなんとも心もとない確信だが、何故か自信を持って言うことができた。


「エルーシャ様!大丈夫です。たぶん、乗れます」


 言うが早いが、身体が覚えている動きで馬にひらりと飛び乗った。

 ずいぶん頭上が高くなったが、怖いと思わないのも、どこか懐かしいとも思うのは記憶の奥底に眠むる、シャナの記憶だろう。


「ライラックありがとう」


 よしよしとその首を撫でてあげれば、もう一度鳴き声をあげた。



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