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合理的なギルドと不条理な食堂

似非関西弁を不快に思う方がいるかもしれません。


 冒険者ギルドの前まで来た。


 俺のイメージでは酒場と併設されているようなのを想像していたが街の人に聞くと違うらしい。

 道行く人に冒険者登録をするつもりだと伝えると『じゃあ事務所だね』と言われ教えて貰ったのがここだ。


 ドアを開けて中へ入る。想像していたような品定めする視線はどこからもこない。それも当然か、受付が一人きりしか居ないんだから。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件ですか?」


 そう尋ねてきたのは、レントンと同じくらいの歳の女性だ。受付をしているだけあって器量はいい。

 しかし、ここには受付のお姉さんを困らせる新人もちょっかいを出すチンピラも、それを痛い目に合わせるはずのベテランもいない……なんだろう少し寂しい。


「冒険者の登録をしたいのですが」

「あ、ではそちらの箱でどうぞ」


 そう促されて見た方向にあったのは広さ二畳くらい高さ3メートル程の箱だった。


「あれはなんですか?」

「冒険者登録する装置が入ってる箱です」


 また、オートメーションかよ……。


「受付ではやってくれないんですか?」

「ステータスを見られたくない人が多いので自動化したみたいです」


 人の価値が低い割りに、そういうとこちゃんとしてんのね。


「わかりました、いってきますね」


 そういうと入り口っぽい暖簾を潜った。これ証明写真とる機械に似てるわ……。


『これもきっと神殿からの技術だろ?』

『そうだと思いますが、この形にしろとは指示してませんからね』


 まぁいいけどさ。


 ステータス用紙をマジックバックから出して装置に入れる、台に描かれている手形が点滅し始めたので手を載せる、5秒ほどするとカードが出てきた……おしまい。


『味も素っ気もねぇな』

『ステータス見られなくて良かったじゃないですか』


 若干気落ちしながら受付へ戻った。


「あ、カード出てきましたね。それで一応は登録完了です、仮ですけど」

「仮ですか?」

「はい、本登録への基準を満たして貰えれば正式なカードも渡しますので」


 確かに、今俺が持っているカードはペラペラのテレホンカードみたいなやつでちょっと頼りなさげだ。


「何をして基準を満たせばいいんですか?」

「魔石と素材ですかね、適当に持って来て貰えれば買い取りますので。あ、素材はここじゃなくて隣に買取専門の場所があるのでそっちへ持っていって下さいね」


 適当って言われてもな……なんかあんまり相手にされてない?


「細かい説明とか無いんですか?」

「まぁ仮ですからね。本登録する時に説明することになってます。ランクとか依頼とかですね」

「あ、そうそう依頼ですよ、何を狩ってこいとか護衛とかそういうの張り出されたりしないんですか?」


 俺がそう言うと受付嬢は若干呆れた顔をした。


「護衛って言ったって、大事なお客様の護衛を実力も定かではない人に任せられるわけないでしょう? 依頼は基本的に、内容に合致している冒険者にギルドから直接声を掛けて受けて貰うんですよ」


 なんか言葉に棘がある気がするが言ってる事は真っ当か。でも、そうなるとギルドに嫌われると仕事を回して貰えないって事もあり得るよな。


「魔石と素材は依頼云々関係なく常時買い取ってますから。それだけで生計を立てている人も大勢いますよ? とにかく、まずは本登録できるように頑張って下さい」

「わかりました。それで狩場の情報なんかの載っている本なんかは閲覧できたりするんですか?」

「この辺りで狩場と言ったらウォレンの森一択ですけどね」

「ウォレンの森?」

「お兄さん何処から来たんですか……まぁいいですけど。ウォレンの森は東門を出てすぐある森ですよ。浅い所から少しずつ慣らしていったほうがいいですよ」


 東門か、俺の入ってきた門は確か西門だって言ってたから反対側になるんだな。そう言えば魔石を取り出す為のナイフも買わないとならないな。


「ありがとう、それでは魔石が取れたらまた来ますね」

「あ、ちょっと気をつけて欲しいんですけど、ウォレンの森ってのは冒険者の間の通称なんで街ではあんまり大きな声で言わないでくださいね」

 

 ん? 


「はい、わかりました」


 よく分からなかったが一応了承しておいた。あ、そうだ! 棒術の依頼をしないと。


「あの、こちらから依頼をしたい場合もここで受け付けてますか?」

「はい、というか本来ここはそれ用の窓口ですからね」


 なるほど、だから冒険者がいないのか。


「で、依頼の内容なんですけど、〈棒術〉のスキルを持っている人に稽古をつけて貰いたいんですよ」

「棒術ですか……〈剣術〉や〈槍術〉でしたら道場行った方が早いんですけど、確かに棒術の道場は無いですからね」

 

 そうか、魔術を教える所があるんだから、武術を教える所もあるよな。


「武術系の指導だと成果主義だったり、かなり長期契約だったりするんですが、その辺りはどうしますか?」

「う~ん報酬ですよね……紹介して貰った人と交渉して決めたいんですけど、そういう事はできます?」

「できますよ、間に入るのでこちらも貰うもの貰いますけど」

「じゃあ紹介して貰って交渉することにします。あ、神殿騎士が棒術をよく使うと聞いたんですが」

「う~ん神殿騎士の方達だと、お金に執着が無いというか、行動原理が冒険者とは違うので単純に金銭報酬にするとかなり嵩みますよ? 受けて貰えるかもわからないですしね」


 それは考えてなかったな。ソフィアさんの紹介という形にしてもらうか。でも別にどうしても神殿騎士でないと困るわけでもないし適当に見繕って貰うのも手だな。


「それじゃあ別に神殿騎士さんに拘らないので、教えるのが上手な方でお願いします」

「わかりました、では明日もう一度来てもらっていいですか? その時にもう少し詰めた話ができるようにしておきます」


  

 用事を終えてギルドを出ると、いい匂いが漂ってきた。丁度、昼時か……。匂いに釣られて小さな食堂に入ってみる。


「いらっしゃ~い、空いてる席へどうぞ~」


 そう言って迎えてくれたのは、可愛らしい獣人の女の子だった。入り口近くの席に座る。

 

『獣人いるじゃん』

『いないとは言ってないですよ。でも珍しいですね』 


 獣人と言っても獣度は様々だが、このは俺のドンピシャだ。

 耳は頭の上にあるのではなく、人間と同じ部分にちょっと尖がった感じのやつが生えていて、裏側がフワフワの毛で覆われてる。

 そして、ボリューム感たっぷりのキツネ系の尻尾がスカートの下で両足の間を行ったり来たりしている。


 思ったよりも獣人は人間に近いパーツで構成されているようだが、では尻尾と耳を隠したら人間に見えるかと聞かれたら否だろう。

 雰囲気が違う……細かい事を言えば、眼が獣っぽいとかいろいろあるが一番の違いは纏っているオーラだ。想像以上に野生じみている。

 見た目はどう見ても、十代前半の少女なんだが……。


 よく見ると足の運びも無駄がない……重心もブレないな……。


 これって獣人だからなのか……どう考えても特殊な訓練を受けているとしか思えない。

 

 動きも、軽装で……足場の悪いところを想定して動いている? 肩に何かを背負っている重心の取り方か?

 料理を運ぶ動きを利用して訓練しているのか?

 

 これは……



 ――突然、胃が締め付けられるような痛みを感じた。


 冷や汗が流れる……。

 さっきまでのアットホームな店内が急に戦場になったような気がした。

 動悸が速くなり、瞼が痙攣し始めた。


 俺は、テーブルに目を伏せる。

 間違いない……ウエイトレスの少女が原因だ。

 なんとかして、店を出る算段をつけようとして血の気が惹いた。 



 ――すぐ隣に少女が居る……近づいてくる気配なんて全く無かったが恐らく居る。

 彼女が気紛れにちょっと俺の首筋を撫ぜたら死ぬかもしれない……。脇汗が止め処なく脇腹を伝った。


「そ~んなに怖がらんでもええやないの~」


 少女はそう言って、俺の右肩に手を置いた。


「とって喰おうってんじゃあるまいし、むしろ食うのはそっちの方やろ~、昼飯食いに来たんやろ?」


 俺は辛うじて頷いた。


「怖いのはな~、アンタの心の裏返しや。アンタなんや後ろめたい事があるんか?」


 彼女は肩に置いた手にグッと力を入れた。


「どや?図星か?」


 後ろめたい事……なんだ、俺何かしたか?


「わ、わかりません……」


「そうか~?そんならええけどな」


 彼女は俺の返答などあまり気にしていないようだった。どっちでもいいと言った方が正解か。

 

 そして、俺ににっこりと笑いかけると勢い良く厨房に振り返り叫んだのだ。


「スペシャル定食いっちょう~」


 俺はさり気無くマジックバッグに手を入れて硬貨を数え始めた。


最後までお読みいただきありがとうございました。


やっとそれらしいキャラが出てきました。

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