権力者との対話(前)
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しばらく、詰め所で待っていると入り口の前に二頭立ての馬車が止まった。ついに偉い人が登場するのかと構えていたが、どうやら俺を迎えにきたようだ。
何処の誰ともしれない奴の為に馬車を用意する……ますます霧の民とやらがわからなくなってきた。
「リンドウ、迎えが来たから乗ってくれ。俺とレントンが案内に付く事になったから宜しく頼む」
バリーがそう言って乗車を促した。俺としても、多少でも知ってる顔が一緒に来てくれると安心する。バリーとはもう握手もした仲だしな。
「何処へ行くんです? 代官様っていう偉い人の所ですか?」
「いや、まず神殿へ行ってステータスを写して貰う事になっている」
「司教様にも紹介しますね」
「う、うん……」
レントンは相変わらずテンションが高い。さっきから司教様とやらに俺を会わせたくてしょうがないみたいだ。
「レントン、司教様は既に代官様と神殿の三階にいる。だから紹介するのは二人同時になると思うぞ」
どうやら、偉い人トップ2は集まって俺をどうするか話し合っているようだ。
そうこうしているうちに馬車が止まって外からドアが開いた。
馬車から降りると目の前に四階建てくらいの真四角のビルがあった。装飾は窓以外何もなく、ただ四角い。一階の入り口が高さ3メートル幅10メートル程と、かなり広く取られていてドアも見当たらない。一階は常時開放しているのだろう。
これが神殿か? 随分とこざっぱりしているな、これじゃあ神殿というより役所だ。
「神殿らしくなくてビックリしたでしょう?」
そう言ったレントンは誇らしげだ。
「この世界には過去にも様々な教えを説く宗教があったと聞いています。そして、そのどれもが腐敗し、民の手によって消滅しました。しかし、光神教だけは違う! 権威を誇ることはせず慎ましく人々に寄り添っているんです! 光神様こそが本当の神だと僕は信じているんです!」
「う、うん……」
「それにお布施だって受け取らないんですよ!人々の役に立つ道具を売る事とステータス転写の為の羊皮紙の販売――」
これはあれだ、いわゆる狂信者だね。もう目が違うからね。爛々としてるからね。
もしウェヌスの事を教えたらどうなるんだろうか……考えただけでも恐ろしい。
「おいレントン、早く中へ入るぞ」
バリーさんが空気を読んでくれたお陰で延々と光神様の素晴らしさを教えて頂ける名誉から開放された。
神殿は内部も、外観に違わず機能を突き詰めたようなシンプルな作りだった。
お決まりの神様を象った石像はどこにもない。カウンターがあって三人の職員さんが応対をしているだけだ。銀行の窓口にしか見えない。
「レントン、これはどこで神に祈ればいいんだ?」
「一階は主にステータス転写と戸籍の申請をする場所ですからね、斎場は二階です。三階は会議室がいくつか、四階には宿泊施設があります」
戸籍の管理をしているのか。思ったよりも進んでいるな。
「じゃあリンドウさん、さっそくステータスの転写をしましょう」
そういって案内される先には箱がいくつか並んでいる。
『おいウェヌス、なぜ神殿にATMがあるんだよ!』
『ステータス転写の為の技術自体は私達からの供与によるものですが、製品化時のデザインまでは指定してませんよ?』
『え?あれでステータス転写するのかよ?』
情緒が無さ過ぎ。もっとこうさ……長老みたいな人が頭に触れながら詠唱するとかさ。せめて水晶は用意しろよ。
「リンドウさん、ここでステータスを転写します。今回は羊皮紙の代金は神殿でもつそうですから、ご心配なく」
それから、レントンに装置の使い方を教えて貰ってステータスの焼印された羊皮紙を手に入れた。
使い方はATMを全く一緒だな。通帳を入れるように羊皮紙を入れて、台に手の平のマークが書いてあるからそこに手を置くだけ。もうちょっとファンタジーして欲しかった。
「わかってると思うが、ステータスは他人に見せるなよ、それじゃあ奥へ案内するからついてきてくれ」
バリーはそういうと三階へと先導した。
両開きのドアの前まで来ると、バリーが俺の武器を預かりたいというので素直に渡す。まぁ棒一つあっても、おそらくバリーには傷一つ付けられない。現段階ではそのくらい戦闘能力に差がある。
『ウェヌス、バリーって隙が全然無いんだけど結構強いよな? この世界の奴らって皆あんな感じなの?』
『バリーは衛兵としたら、かなり腕は立つと思いますよ。まぁ高Lv冒険者には歯が立たないでしょうけどね』
マジか? バリーでも全然勝てる気しないけどな。
「中で代官様と司教様がお待ちだ。礼儀とかは気にしなくていい、記憶が曖昧な事も伝わってるからな。それに……まぁ後は直接話せばわかるだろ」
え? なんか気になる言い方したな……。
「リンドウさん、僕が中まで一緒に行きますから心配ないですよ」
レントンが一緒にきてくれるのか。
「ああ、フォロー宜しくな」
俺がレントンにそう言うと、彼は頷いてからドアをノックした。
「失礼します、レントンです。霧の民のリンドウ氏をお連れしました」
「おお、待っておったぞ。入ってくれ」
ドアを開けると中には元気の良さそうなお爺ちゃんと妙齢の女性がいた。
次回は会話がメインになるので、少し長くなると思います。