プロローグ
その日、日本は光に包まれた。
電気は止まり、全ての電子機器は動きを止める。
突飛な出来事に、人々は慌てふためきテレビ局がこぞって中継しようとする中。
——そいつは現れた。
絹のような黒髪に黒曜石のような瞳。
頬をうっすら桜色に染め、濡れたように艶やかな唇。
そいつは宙に浮かび、慌てふためく人々を見つめながら傲慢に。不遜に告げる。
「妾の名は天照大御神。そなたらに神託を与えにきた。妾はめんどくさいのは嫌いじゃ。単刀直入に告げるぞ。」
そして、無邪気に笑いながら爆弾を落とす。
「滅亡か。滅亡を逃れるために抗うか。好きな方を選ぶのじゃ。」
天照は目をつぶり聴こえてくるであろう、悲鳴。罵詈雑言に耳をすます。
だが、天照は間違えていた。甘く考えていた。
“日本人の性質”を。
——そう、たとえ人が宙に浮いていようが。
「アマテラスちゃん。かわいいよぉ。はぁはぁ。」
——有名な神様だろうが。
「おい!誰か早く写真!」
「スマホが使えねぇ!」
「デジカメならいけるぞ!」
「「「それだっ!」」」
——滅亡を宣告されようが。
「おい…もしかしてアマテラスちゃんの下に行けば人類の秘宝が見れるんじゃないか?」
「「「「…」」」」
「おいっ、お前押すな!」
「こっちのセリフだぁー!」
そう、全て可愛いの前では些細な問題として塵になるのだ。
これこそが、我ら日本人の誇るべき性質。
「な、なんなのじゃ?!こやつら!」
日本人の勢いに圧倒され、涙目になりながら後ずさる天照。
そして、それを見て余計に興奮する日本人。
「アマテラスちゃーん!下に降りてきておじさんと一緒に遊ぼうよ。」
「アマテラスたーん!」
可愛いという物の前では人は枷鎖を外し壊れる。
美人が男を手玉に取り誑かすように。
女に狂った男が国を滅ぼすように。
「も、もう嫌じゃ!天界に帰る!」
アマテラスは涙目になりながら叫ぶ。
——こうして、のちの歴史書に記される“幼女の鉄槌”はグダクダに。
「ちょ!アマテラスちゃーん。帰らないで一緒にあそぼーよー!」
「いやじゃ、もう帰るのじゃ!」
——締まりなく。
「おいっ、最後に写真撮るぞ!」
「誰か、早くアマテラスちゃんの下に寝転がってこいっ!そして、俺にその写真を見せろ!」
「きゃーー!来るでないっ、この変態共!」
——冗談のように始まった。
だが、確かにその日。時代は動き、確かに変わる。
ある歴史書の初めの一文にはこう書かれている。
「この日、我らは選択を迫られた。未来を取るか、若者を取るか。神の言葉を借りるならこれは正に自業自得。空想のような、妄想なようなこの神話を語り継ぐためにこれを記そう。
後の日本人が道を踏み外し同じ過ちを繰り返さないことをねがっている。
これは、1つの物語。主人公は日本中の中高生。私たちはこの日のことを忘れないであろう——。」
さぁ、人間らしく傲慢に欲望のまま始めよう。
運命に抗うために。過去の人間の罪を消すために。生き抜くために。
この命がけのサバイバルゲームを!