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第4話 先輩と後輩

 パーティが全員そろったので、とりあえずダンジョンから脱出することにした。

 B8の〈人狼の洞窟〉は、地上に繋がるB1の〈土人形の迷宮〉と連結している。薄暗い洞窟から出ると、ちょっとした小部屋になっていた。


 奥の石壁に穴があって、その先が洞窟になっていたのだ。かつてはただの壁だったのだが、あるとき突然、穴が開いてそこに〈人狼の洞窟〉が出現したらしい。


〈土人形の迷宮〉は最初に発見されたダンジョンであり、それほど難易度は高くない。迷路状になってはいるが、すでに正確なマッピングがなされているので、ほとんど迷わず進むことができる。

 直方体の石材を積み上げて作られていて、これまでいた洞窟と違って随分と人工的なダンジョンだった。


 やがて、〈土人形の迷宮〉のエントランス部分に当たるモンスターの出現しない部屋へと辿り着いた。〈迷宮の大樹〉におけるすべてのダンジョンは、〈土人形の迷宮〉から枝分かれしているため、ここは〈迷宮の大樹〉の入り口部分とも言える場所だ。

 すでに外は夕方だろう。ダンジョンから帰還した冒険者たちが、今日の戦利品を分け合ったり、明日以降の冒険の打ち合わせを行ったりしている。


 リオンたちも足を止め、その部屋の一画に集まった。


「この子はティリア。さっき離れ離れになっていたときに偶然出会ったんだけど、駆け出し冒険者なのにたった一人でダンジョンに潜っていたから、僕らのパーティに誘ってみたんだ」


 パーティメンバーたちに、改めて彼女のことを紹介するリオン。


「《魔女》の〝加護〟を持っていて、エズワール魔法学院を首席で卒業したんだって」

「エズワール魔法学院って、あのエズワール魔法学院? 《魔女》の冒険者っちゅうだけでも珍しいのに、またえらいもんが冒険者になりおったな~」

「強力な魔法が使える仲間がいれば、ダンジョン攻略もぐっと楽になるだろう」

「ああ。オレとしてはぜひとも歓迎したいところだぜ」


 当然と言うべきか、あっさりと彼女は仲間に迎え入れられることとなった。サーシャが言う通り、魔法が使える仲間は冒険者たちにとって垂涎の存在なのだ。

 リオンとしても、誘っておいてやっぱりダメだった、なんてことにならなくて内心で少し安堵する。


「へへっ、可愛い子じゃねぇか」


 下卑た笑みを浮かべている輩が約一名いるのが気になるが。


「とりあえずはお試しって感じだけど、仲良くしてあげてよ」

「私なんかでよければ、これからお世話になります」


 変人ばかりで戸惑うかと思ったが、ティリアはそれほど気にした様子ではなく、リオンはホッと胸を撫で下ろした。

 ただ、先ほどの約一名にはしっかりと釘を刺しておくべきだろう。


「言っておくけどさ、ゴル。この子と君が、君の想像しているような関係になることは絶対にあり得ないから、変な希望を持たない方がいいよ。だからオフのときにデートに誘おうとか考えないで欲しいし、半径一メートル以内には近づかないで欲しいし、話しかけるのもなしだからね。いや、だって君のせいで嫌な思いをしてやっぱりここには居られない、みたいなことになっちゃったら、誘った立場として残念だからさ?」

「お前は俺を何だと思ってやがんだ!?」

「盛りのついたゴリラ」


 リオンは断言した。


「だっれっがっ、ゴリラだ! って、指差すんじゃねぇ!」


 ゴルは唾を飛ばして大声で怒鳴ってから、今度は吐き捨てるように言った。


「けっ、しぶとく生きてやがったと思ったら、所詮、この子のお陰だったってわけかよ。ははっ、このゴル=ラウ様と違って、お前は狼野郎から一発喰らっただけで紙屑みたいに吹き飛ぶ軟弱さだからな。一人じゃ何にもできやしねぇ」


 せせら笑ってくるゴルを、リオンはきっと睨みつける。


「うるさいよ。僕を君なんかと比べないで。そもそも僕、人間だし」

「俺だってれっきとした人間だ!」

「え……?」

「何でマジで驚いてんだよ!? 自明だろうが!」

「でもさ、ついこの前、〈猿の楽園〉で大猿モンスターと間違えられて他の冒険者に襲われかけてたじゃん」

「ぐっ……あ、あれはっ……」


〈猿の楽園〉もこの〈迷宮の大樹〉のダンジョンの一つであり、猿系のモンスターが出現する場所だった。そこに現れる大猿がゴルとそっくりなのである。


「もしかして自分の顔、鏡で見たことないの? あ、君にそんな知能はなかったか。鏡に映った自分を見て『誰だこれ?』って首を傾げちゃうくらいだもんね」

「んな訳あるか! さすがに俺だって、ちゃんと鏡に映ってるのが自分の顔だってことくらい認識できるわ! むしろ認識できるからこそ鏡を見ないようにしてんだよ! ……くそぉ……俺だってよぉ……もっとカッコよく生まれてきたかったんだよ……」

「あと、名前もゴリ=ラアだし」

「ゴル=ラウだ!!!」

「ちょ、こんなとこでドラミングやめて」

「してねぇだろ!!」

「うっせぇ!」

「ぐぼぉっ!?」


 いきなり横合いから割り込んできたララに蹴り飛ばされ、近くの壁に叩き付けられるゴリラ。いや、ゴル。


「……ひ、膝が……脇腹に突き刺さった……」


 と、呻くゴルだが、いつものことである。それに彼にとって、これくらいのダメージは些細なことだ。

 ゴルは《重戦士》の〝加護〟を持っていた。それゆえ身体が異常に頑丈で、パーティでは敵の攻撃を最前線で一身に引き受ける盾役タンクを熟している。


 イルーネが《狩人》で、サーシャが《聖騎士》。そしてゴルが《重戦士》。

 しかし〝加護〟持ちが多いのは、何もこのパーティに限ったことではない。

 そもそも、戦闘に関係する〝加護〟持ちが冒険者の大半を占めているのだ。名の知れた冒険者たちもほぼ例外なく戦闘系の〝加護〟を有していて、それゆえ戦闘系の〝加護〟は冒険者として成功するためには必須と言われているほどだった。


 ただ、何事にも例外は付き物だ。

 その一人が団長のララ=リリィだろう。

 拳と足で戦う彼女だが、《拳士》の〝加護〟を持っていない。にもかかわらず、そこらの《拳士》なんかよりもよっぽど強い。


 しかし彼女はアマゾネスだ。

 アマゾネスというのは、なぜか女性しか生まれてこないと同時に、どんな〝加護〟も持たない特殊な種族である。しかし代わりに卓越した身体能力と独自の武術があり、幼い頃からの厳しい訓練によって戦闘民族とまで呼ばれ、怖れられるようになった稀有な存在だ。


 一方、リオンには本当に戦いの才能がまったくなかった。


 分かってるよ。僕が一人じゃ何にもできない雑魚だってことくらいさ!


 悔しいが、ゴリラの言う通りなのである。

 ちなみにそんなパーティ内序列最下位のリオンは、仲間たちにも自分が英雄の息子であることを言っていなかった。ゴルはともかく、彼女たちが「英雄の息子(笑)」なんて馬鹿にしてくるとは思わない。けれど、何となく今の今まで言い出せずにきたのだった。

 いつか自信を持って伝えられる日が来たらいいなとは思っているが、恐らく当分の間は無理だろう。


「ま、とにかく、改めてよろしく! ティリア」


 もやもやを頭から振り払って、リオンは笑顔で新しい仲間に手を差し出した。

 ティリアが握り返し、


「はい。よろしくお願いします。リオン先輩」


 ――リオンの魂が震えた。


「……? どうかしましたか?」

「い、今……今、なんて言ったの……?」

「え? よろしくお願いします、と」

「その後!」

「リオン先輩」

「わあああああああああああっ!」


 リオンはいきなり大声で叫び、それから興奮のあまり思わずぴょんぴょん飛び跳ねた。


「せ、先輩だって! 僕、先輩って呼ばれちゃったよ!」

「学院では上級生のことをそう呼ぶのが一般的だったので、使ってみたのですが……ダメでしたか?」

「ダメじゃないよ! うん、先輩! いいね! ぜひこれからもそう呼んでよ!」


 パーティの中で最年少、そして加入したのも最後だったこともあって、今までずっと弟(妹)的な立場だった。けれど、これからは違う。

 そうか、僕は先輩になるんだ!

 後輩ができたことが無性に嬉しいリオンだった。


「そんなことで喜び悶えとるリオンはん……控えめに言うてもマジ天使やで……」


 そんなリオンを見て、イルーネが恍惚とした表情を浮かべている。

 一方、サーシャも微かに頬を染めて「か、かわいい……」と呟いていた。


「だ、だったら俺のことも先輩って呼んでくれよっ」

「ダメだよ、ティリア。そもそもこいつのことは呼ばなくて良いし、どうしてもって場合はゴリラって呼べばいいから」

「はい。分かりました、ゴリラさん」

「マジでやめてくれよぉぉぉっ!?」

「うっせぇ!」

「ぐはっ!?」


 またしてもララに吹っ飛ばされるゴルだった。


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