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第3話 愉快な仲間たち

「私、人付き合いが苦手なので少し不安です。というより、どうも私は周りから嫌われてしまう性質のようで。魔法学院でも、魔導書を燃やされたり、ローブを捨てられたり、トイレで水を掛けられたり、よくちょっとした嫌がらせを受けていました」

「そ、そうなんだ」


 それどう考えてもちょっとどころか、かなり悪質でしょ、と突っ込みたくなったリオンだが、やめておいた。


「気にしなくて良いよ。ていうか、うちのパーティ、変人ばっかりだからさ」


 それはもう、嫌というほどに。

 という続く台詞は胸の内に秘め、リオンは地図に従い進んでいく。途中、狼野郎と幾度か遭遇したが、二人の敵ではなかった。というか、すべてティリアの魔法で瞬殺だった。今のところリオンの出る幕はまるでない。


 やがて無傷で目的地へと辿り着く。転移トラップに引っ掛かり、仲間たちと逸れてしまった場所である。

 やはり予想した通り、そこにリオンの仲間の姿があった。


「よかったぁぁぁっ! 無事やったんやなぁぁぁっ!」


 こちらに気づくなり、大声を上げながら突進してくる人物がいた。

 金髪碧眼の、思わずハッとするような美少女である。だがそれ以上に多くの男性の視線を釘づけにしてしまいそうなのが、胸。

 やたらとボリュームのある双丘が、たゆんたゆんと揺れていた。しかもダンジョン内だというのに露出度の高い衣装を着ているせいで、物凄く目のやり場に困る。


「ちょっ、危な――――ぶふっ!」


 その勢いのまま飛び付かれ、リオンは衝撃で尻餅をついてしまった。


「心配やったんやでえええっ!」

「っ……っ! っ……っ!」


 い、息が! 苦しい! ちょ、死ぬから!


 その豊満な胸に頭を押し付けるような形で抱き締められ、窒息しそうになるリオン。

 一方、少女の方はリオンの髪の毛の中に鼻を埋め、陶然とした顔になって、


「…………すぅはぁ、すぅはぁ……ぐへへへ、リオンちゃんの匂い……」

「っ……っ! っ……っ!」

「……じゅる……」


 ついには涎まで垂らし始めた。


「あの、そのままだと死んでしまうかと」


 さすがに看過できないと思ったのか、ティリアが声をかける。


「いやや! うちはもう、この子から一生放れへんで! げへへへ……」

「なるほど。つまり、死体にして一生傍に置いておくということですね」

「へ? ……あ」


 ようやくリオンが意識を失いかけていることに気づいてくれたらしい。


「――ぜぇ、ぜぇ……し、死ぬかと思った……」


 どうにか解放されたリオンは、しばし息を整え、殺人未遂犯を睨みつける。


「何するんだよ、もう! せっかく合流できたってのに、直後に仲間に殺されて死んだら目も当てられないよ!」

「ごめん、ごめん。リオンはんが可愛くて、つい」


 悪びれる様子もなく涎を拭うこの残念な巨乳美少女の名は、イルーネ=エンジュ。

《狩人》の〝加護〟を持ち、弓の扱いに長けた冒険者だ。

 少し耳が尖っているのは、森人族エルフの血を引いているかららしい。スレンダーな体型が多い森人族に対し、彼女は随分と肉付きがいいが。


「つい、で殺されたら堪んないってば!」

「むしろうちの正気を狂わせるリオンはんが悪い」

「何でだよ!」

「責任とって結婚して?」

「やだよっ! むしろそれ以上僕に近づかないで!」


 リオンより二つ年上の十八歳だが、なぜかリオンのことを溺愛し、やたらとスキンシップしてくるのだ。

 確かにリオンの見た目は中性的で、身長もあまり高くないせいか、女の子に間違えられることも多い。

 だが中身は男なのだ。一応。同年代の女性から抱きつかれたりなんかすると、色々と困ってしまうのである。


「リオン殿。とにかく無事でよかったのだ」


 と、声をかけてきたのは、長い黒髪を頭の後ろで一本に結わえた少女だ。

 リオンよりも背が高く、きりっとした眉と切れ長の瞳は女性なのに男前。蒼の鎧を着て凛と立つその姿は、それだけで絵になるほどカッコいい。


 彼女はサーシャ=リンドゥル。《聖騎士》の〝加護〟を持つ冒険者で、もちろんリオンの仲間である。年齢はリオンの三つ上。つまり十九歳だ。

 剣の腕に長けているとともに、その聖なる力でもって傷を癒すこともできるため、パーティに無くてはならない存在だった。


「怪我はないだろうか?」

「うん、大丈夫だよ、サーシャ。ありがと、君も無事だったんだね」

「うむ、もちろんだ」


 堅苦しく頷くサーシャ。

 少し生真面目すぎるところはあるものの、パーティの中では最も常識人というか、まともなメンバーであった。


「ちょっとうちとの扱いが違い過ぎひん?」

「当然でしょ」


 イルーネは悔しげにサーシャを睨んだ。


「なんや、じぶん。さっきまでは、リオンはんのことが心配で心配で堪らんみたいな感じやったのに、真面目ぶりおって」

「なっ……」

「じぶんかて、うちみたいに情熱的に抱き付いて再会を喜びたくて堪らんくせに」


 イルーネが指摘すると、サーシャは途端に慌て出した。


「わわわ、わたしはそんなこと露ほども考えていないぞ! たた、確かにっ、リオン殿はかわいくて、つい抱き締めたくはなるが――――って、ちちち、違うっ!? き、貴様っ、変なことを言うなっ!」


 ……こんなふうに勝手に自爆しちゃうのがなければなぁ。


「それよりリオン殿! か、彼女は一体?」

「あっ、そうそう」


 サーシャが露骨に話を逸らし、リオンはティリアを放置してしまっていたことを思い出した。


「一応、僕らのパーティへの加入希望者なんだ」

「ティリア=ランファードと言います」


 ぺこりと頭を下げるティリア。


「で、彼女たち二人が僕のパーティメンバー」

「うちはイルーネ=エンジュや。その格好、たぶん《魔法使い》か《魔女》の〝加護〟持ちなんやろうけど、まさかソロで迷宮に潜っとったんか?」

「わたしはサーシャ=リンドゥルだ。ふむ、となるとかなりの使い手なのだろう」


 イルーネとサーシャが簡単に自己紹介。


「まぁ、詳しいことは全員集まってから話すよ。えっと……団長とゴルは?」

「せやせや。あの二人、リオンはんを探しに行ったんやった」

「そっか……」


 どうやら自分の合流が一番遅かったらしい。しかも案の定、心配されていたようだ。

 と、ちょうどそのとき、


「んだとコラァ、てめぇ、もっぺん言ってみやがれッ!」

「ぐぼあっ!?」


 突然、怒号と殴打音、そして悲鳴がどこからか聞こえてきた。ああ、またか……よりにもよって何であの二人を二人きりにさせちゃったんだよ……とリオンは心中で嘆息した。


「痛ぇだろうが! このくそチビ!」

「ああん? てめぇ、オレのどこがチビだよコラっ? 言ってみやがれ!」

「いや身長百四十ねぇんだから、どこからどう見たってチビだろうが!」

「バカヤロウ! 人間の大きさってのは器の大きさで決まるんだよッ!」

「意味わかんねぇ――ぶほっ!?」


 いきなり肉達磨が吹っ飛んできて、リオンたちの足元でごろごろと転がった。


「ってぇぇぇっ、クソッタレが! いくら俺が頑丈だからって、いつもいつもすぐ殴りやがって! お前のどこが器がでかいってんだよ!?」


 叫びながら起き上ったのは、坊主頭の大男。と言っても、身長はそれほど高くない。せいぜい百七十後半くらいだろう。だが全身を覆う筋肉のせいで、かなり大柄に見えるのだ。


 遅れてもう一人、姿を現す。

 一見すると、真っ赤な髪が印象的な、十歳かそこらの女の子だ。しかし眼光は見る者を射殺さんとするかのように鋭い。

 リオンは呆れたように声をかけた。


「……団長、また喧嘩?」

「おうっ、リオン、生きてたか! 心配したぜ!」


 気づいた彼女はパッと表情を輝かせる。だが坊主頭を横目で睨み、すぐにまた不機嫌そうな顔になって吐き捨てた。


「いや、こいつがよ、さっき…………ああっと? 何て言ったんだっけ? ……ちっ、まあいい。てめぇがオレを怒らせた。その事実があればそれでいい」

「忘れてんじゃねぇよ!? 鳥か!? 鳥頭なのか!?」

「誰がチビだゴラァ!」

「チビとは言ってねぇだろ――ぶはっ!?」


 坊主頭の名はゴル=ラウ。見た目はおっさんだが、実年齢は二十二。

 一方、子供にしか見えない赤い髪の女性は、このパーティの団長であるララ=リリィ。これでも実年齢はパーティ最年長の二十三歳である。ちなみにララと呼ぶと怒るので、リオンたちは団長と呼んでいた。

 二人はこのパーティ結成当時からのメンバーなのだが、だいたいいつもこんな調子だった。


「ま、まぁ、喧嘩をするほど仲がいいって言うしね」

「さすがに限度があるのではないでしょうか?」

「……だよね」


 頑張ってフォローしてみたリオンだったが、フォローし切れなかった。


「確かに変わった人が多いようですね」

「でしょ?」


 良くも悪くも、これがリオンの所属する個性豊かなパーティ、〝空腹の獅子ハングリーズ〟だった。


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