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第26話 死闘

 リオンがアンデッドと化したゴルを撃破したのとほぼ同じタイミングで、サーシャもまた大型の全裸マンを倒していた。

 トドメとばかりにその頭部を貫いた刃を抜くと、彼女は呼気を整えながら振り返る。


「……リオン殿。よかった。無事だったのだな」

「サーシャこそ!」


 二人は互いの無事を喜び合い、合流した。

 だが戦いはまだ終わっていない。二人揃ってこの広大なボス部屋の奥へと視線を向ける。恐らくリオンたちを巻き込むまいと、そこまで誘導していったのだろう。棺桶の向こう側では、死竜と死闘を繰り広げるララたちの姿があった。


 周囲を獣じみた速度で駆け回るララと、遠距離から矢で攻撃するイルーネが死竜の注意を常に引き付けている。

 その間、大魔法の詠唱をしているのがティリアだ。


 突如、激しい雷鳴が轟く。

 ティリアが放った雷魔法だ。

 高位力の電撃が死竜の頭部に直撃し、その鼻から眉間の上、それから角を粉砕し、頭蓋を削り取った。


 これで恐らくは三発目。そのすべてが頭部を狙ったもので、すでに死竜は頭蓋が大きく露出し、見るも無残な有様と成り果てていた。

 だが、未だ致命的と言えるほどのダメージを与えることはできていない。

 恐らく鱗が持つ魔法耐性だけではない。あの硬い竜の骨もまた、死竜に驚異的な防御力をもたらしているのだろう。


「行こう!」


 リオンは彼女たちに加勢するべく、サーシャとともに走り出した。

 サーシャはララの元へ、リオンはティリアの傍へと駆け寄る。


「……先輩っ」

「大丈夫っ? あと何発放てそう?」


 すでに三発の大魔法を放ったティリアは、やはり消耗が激しそうだ。


「……恐らく、雷魔法レベル4はあと一発が限界です」

「こっちと合わせて三発か」


 リオンは魔法銃を取り出し、頷く。残っている二つの弾丸には、いずれも予めティリアの大魔法が充填されていた。これと合わせれば、残り三発となる。


「倒せそうかな……?」

「ギリギリ……というところでしょうか。死竜の頭蓋が思っていた以上に分厚いため、もっと狙いを集中させなければ……」


 ティリアが言う通り、「頭部」などという大まかな狙いではなく、もっと狙いを絞って雷撃をぶつけなければ、頭蓋を破壊して内部にまでダメージを与えることはできないだろう。

 これまで直撃した三発は、顔の左側、頭の上部、そして右の下顎部分と、いずれもバラけてしまっている。


「狙いを定めるのも一苦労だね」

「……はい。雷魔法は元々威力が高い反面、命中力に難のある魔法なんです」


 広範囲魔法にしてその弱点をカバーする方法もあるらしいが、今回の場合、威力も集中させる必要があるためそれでは意味がない。どうしても命中率が犠牲になってしまうのだ。


 リオンの魔法銃にしても命中率はそれほど高くない。

 ティリアのように魔力で方向を調整する必要はなく、銃口を向けた方へと勝手に飛んでいってくれると言えば簡単に聞こえるかもしれないが、銃口を狙った箇所に真っ直ぐ向けるということが意外と難しいのだ。

 これまでの練習から言えば、むしろティリアよりも命中力が低いくらいである。だからこそ先ほどは命中しやすい胴体を狙ったのだ。


 ただ、それを補う方法があった。


「じゃあ狙いはあいつの顔の左側ね!」

「先輩っ?」


 急に死竜に向かって走り出したリオンに、ティリアが驚いて声をかける。


「僕はもっと近くで撃つよ! それなら当たりやすくなるでしょ!」


 そう。

 単純な話、近ければ近いほど命中率は上がるのだ。

 当然それだけ自分の身を危険に晒すことになる訳だが、ティリアと違ってリオンは詠唱する必要がなく、完全な無防備になることはない。


「てか、こいつら何なのほんと気持ち悪いっ!」


 だがそれを良しとしないのが、死竜の身体より分離した肉塊から生まれた不気味な生き物たちだった。それらは腕のようなものを伸ばしてリオンの足を掴もうとしてきたり、昆虫めいた羽をはためかせて空中を突進してきたりする。

 それらをナイフで斬り倒しながらリオンは前進した。


「リオンはん! 前っ!」

「っ!?」


 イルーネの声に顔を上げると、頭上から毒々しい色の液体が降ってくるところだった。

 死竜が吐き出す強酸性の唾液だ。リオンは身を投げ出すように地面を転がり、危ないところで回避する。


「気を付けないといけないのが多すぎるよっ!」


 悪態を吐きつつ、すぐさま起き上るリオン。同時に牙を持った蚯蚓めいた生き物をナイフで斬り飛ばした。


 死竜はララを踏み潰そうと、先ほどから突進を繰り返していた。ララはあくまで時間稼ぎに徹していて、パーティ随一の俊敏さを活かしてそれをひたすら躱し続けている。


「オアアアアアッ!」


 地べたを這い回る虫をなかなか仕留められないことに苛立ったのか、死竜が身体を仰け反らせるようにして禍々しい雄叫びを上げた。


「っ! 今だっ!」


 その瞬間を好機と見て、リオンはトリガーを思いきり引いた。

 銃口から迸る雷光。

 衝撃で吹き飛ばされそうになるが、リオンは腰を下ろしてぐっと耐える。


「っ……くそっ! 少し逸れちゃったか!」


 光が収まり、煙を上げる死竜の頭部が見てきて、リオンは思わず舌打ちした。

 顔の左頬から首にかけてを抉っていた大きな傷。その部分への追撃を狙っていたのだが、僅かに下にズレてしまったらしい。それでも二つの傷は部分的に重なっていて、もう一発当てることができれば、頭蓋骨に穴を開けることが可能かもしれない。

 確実に仕留めるためには、あと二発。同じ個所に雷撃をぶつけたいところだ。


「リオン!」


 ララの声にハッとする。

 今の一撃のせいで、死竜の標的がリオンへと変わってしまったらしい。身体の向きを変え、死竜がその巨体を躍らせリオン目がけて迫ってきた。


「うわっ、ちょっ……ヤバいヤバい……っ!」


 すぐさま踵を返して逃げ出すリオンだが、あっという間に距離が詰まっていく。


「させへんで!」


 イルーネの死竜の注意を引こうと矢を放つが、しかし眼球を射抜かれても見向きもしない。

 気づけばリオンの目の前には壁――いや、棺桶だ。

 ズドオオンッ、と凄まじい音を立てて死竜が自らが眠っていた棺桶に激突する。


「あ、危なかった……っ」


 リオンは辛くも死竜に潰される寸前、横に飛んでそれを躱していた。死竜が前のめりの体勢で頭から棺桶にぶつかったため、胴体部分の勢いが削がれたことが幸いした。そうでなければ、リオンの小さな身体はクレープの生地のように潰されていたことだろう。


「はぁぁぁぁっ!」

「このデカブツめっ!」


 棺桶に激突した死竜へ、サーシャとララが攻撃を加える。

 死竜が苛立ったように振り返ると、すぐさま二人ともその場から離脱した。


「――レスガテオ、ラル、アルディリアーネ」


 そのときだ。ティリアの雷魔法レベル4の詠唱が完了する。

 彼女が放てる最後の一発。極限の集中で狙いを定め、先ほどリオンが抉った場所へと再び雷撃を発射した。

 轟音が上がり、閃光が弾ける。


「やった……?」


 だがその一撃は死竜を外れ、その後ろにある棺桶に当たっていた。直撃を受けた部分がガラガラと崩れ落ち、黒こげになった石の破片が四散する。


「そんなっ……外した……っ?」

「ち、違うっ! 今こいつ、躱したよ……っ!?」


 自らの失態に愕然とするティリア。

 だがリオンは信じられない思いでそれを否定した。

 死竜はティリアが雷を発射するその寸前、魔法が放たれることを予期したのか、咄嗟に身体を屈めていたのだ。

 これまで幾度も雷撃を浴びていたのだ。知能の低い死竜もさすがに学習したのかもしれない。


 これでティリアはもう、大魔法を放てない。

 残るはリオンの魔法銃の一発のみ。


「でも、これで仕留められるの……っ!?」


 この残る一発が狙い通りの箇所に当たったとして、果たしてそれで倒すことができるのか。

 あの死竜の頭蓋の硬さは異常だ。よしんば頭蓋を貫けたとしても、その中身にまで致命的なダメージを与えなければ倒せない。希望的に見ても、せいぜい五分五分といったところか。

 加えて、死竜は今のように躱してくるかもしれない。そうなると直撃させるのはさらに困難になるだろう。


 だが他に方法はない以上、その僅かな可能性に賭けるしかない。

 いや――


 そのときリオンの頭に天啓が舞い降りた。


「確実に倒せる、かもしれない……。……この方法なら」


 ぐっと奥歯を噛み締める。

 リオンは魔法銃を手に、侵入者たちに猛威を振るう死竜を睨み据えた。


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