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第18話 迷宮トラップ再び

「……って、ガラでもねぇな。何でお前とこんな話してんだ、俺は」


 我に返って恥ずかしくなったのか、ゴルが坊主頭を掻きながら視線を逸らす。その仕草がちょっとだけ可愛らしいなと思ったリオンだが、いや、おっさんだしゴルだし別に全然可愛くないかとすぐに思い直した。


「……恥ずかしついででなんだが……昨日は悪かったな」

「ん? 何のこと?」


 いきなり謝罪されて、リオンはキョトンとする。


「あ、あれだよ……その……ティリアがいれば、お前は要らないとか言っちまったときのことだよ」

「ああ、お役御免ってやつね」


 あのときのことかと思い出し、リオンは頷いた。


「いいよ。……僕があまり役に立ててないのは事実だしさ」

「そうだな」

「そこは頷かないでよ!」

「まぁでも、悪かったよ。俺もちょっと反省したんだぜ」

「……明日は雨かな……」


 殊勝なゴルなんてぶっちゃけ気持ち悪いと思ったが、さすがにその言葉は呑み込んでおく。


「じゃあ、僕の方もごめん。しょっちゅう君のことゴリラと見間違えちゃって。今後は見間違えないよう、しっかり見極めることにするよ」

「どんだけだよ!? 俺どんだけゴリラなんだよ!?」

「頑張るから! ほんと、頑張ってどうにか間違えないようにするから!」

「やめろ! そんなに頑張らなくても間違えねぇよ! ま、間違えないよな……? 俺、さすがにそこまでゴリラってねぇよな……?」


 本気で不安がっているゴルが面白くて、リオンはぷっと噴き出した。



   ◇ ◇ ◇



 ゴルと別れてアパートに帰宅すると、すでにティリアが帰ってきていた。


「先輩、お帰りなさい」

「うん。……良い部屋、見つかった?」


 ベッドに腰掛けて美しい装丁の本を読んでいた彼女に、リオンは訊ねる。どうやら魔導書のようだ。

 実は今日、彼女は丸一日かけて部屋を探しに行っていたのである。


「やはりいいところは家賃が高いですね」

「うーん、女の子が安心して住める物件ってなると、やっぱそうだよねー」


 当然ながら、治安の良い地区にある部屋の家賃は高い。

 必ずしも値段に比例するとは限らないが、それでも高い物件ほど安全なケースは多い。安い物件だと簡単に合鍵を作ることができ、前の住民が普通にそれを持っていたりすることもあるのだ。


「ここのアパートが空いていればいいんだけどね」

「別に侵入者ぐらい撃退できますし、安くてもまったく問題ないのですが」

「だめだよ! 寝てたり気づかなかったり、すぐに魔法が使えない状況のときだってあるんだからさ!」


 リオンが強く主張すると、ティリアは心なしか少し口端を緩めて、


「……先輩、心配してくださってるんですか?」

「そりゃそうだよ!」

「そうですか……」


 俯きがちに頷くティリアは、どことなく嬉しそうだった。


「そんなに心配なら、もうしばらくこの部屋に置いておいてください」

「うっ」

「どのみち、いくら探しても今の私の財力では適当な場所が見つからないでしょうし」


 う~ん、とリオンは首を捻る。

 と、すぐにあることに思い至り、ぽんと手を叩いた。


「ていうか、サーシャかイルーネのところに世話になったらいいじゃん。二人ならすぐオッケーしてくれるでしょ」

「…………いえ私にはまだここでやり残したことがあるので無理です」

「え? いま何て?」

「私にはやらなければならないことがあるのです。この部屋で」

「どういうこと!?」

「家賃なら払います。なので私をここに置いてください。お願いです」

「ちょ、縋りついてこないで! 怖い! 目が怖い! 何なのさ一体!?」


 この子、端から部屋を出るつもり全然ないんだけど……っ? だったら部屋探しに行った意味ないじゃん!


 ぎゃあぎゃあ言い合い、しかし結局、頑なな彼女を説得することはできず。


「はぁ……もういいよ、とりあえず好きにしなよ。正直、なんかもう慣れてきちゃったし」


 投げやりに言い放つリオン。

 今日は色々あって疲れていることもあり、とにかく早く休みたかった。



  ◇ ◇ ◇



 ダンジョン〈死者の王国〉の未踏領域である、地下遺跡。

 この日、リオンたちはその地下二階の探索を進めていた。


「……大丈夫、みたいだね」

「ああ。中に木乃伊どもはいねぇな」


 前回ピンチに陥った、地下二階へと下りてすぐの部屋。

 十分に警戒して恐る恐る足を踏み入れたのだが、幸い棺桶の中は空っぽだった。


「復活している可能性もあったんですか?」

「うん。……低いとは思ってたけどさ。まぁ念には念を入れて行かないとね」


 ダンジョン内のトラップや出現場所固定型のモンスターは、一定期間が経てば復活してしまうのが常識だ。その期間はまちまちだが、さすがに一日二日程度では大丈夫なようだった。また、今回は出口を塞がれるようなこともなかった。


 前回の戦闘後、大量に転がっていた木乃伊男たちのすべて死骸も無くなっている。ダンジョンの中に吸収されたのだろう。

 ダンジョン内で発生したモンスターたちは、倒されるとそのうちダンジョンへと綺麗さっぱり戻っていくのだ。もちろんダンジョン外へと移動させた死骸については、消失することはない。


「だけど冒険者の死体なんかは、そのまま残っちゃうんだよね。ゴミとかもだけど」

「モンスターが食べてしまうケースもあるんやけどね」


 とりあえず木乃伊男ゾーンを何事もなく抜けることができ、一安心だった。

 それでもここは何が起こっても不思議ではない未踏破領域。警戒心を解いてしまいそうになるときこそ、しっかり気を引き締めていかなければならない。

 と、部屋を出てすぐにモンスターに遭遇した。


「っ! 来るぜ、全裸マンどもだ」


 先頭を進んでいたララが身構え、リオンたちも即座に臨戦態勢を取った。

 数は全部で四体。いつも通り天井や壁に張り付いている個体もいる。


「おらぁぁぁっ!」

「はっ!」


 ゴルが振り下ろした戦斧が、全裸マンの頭部を粉砕。

 さらに、サーシャが振るった剣が全裸マンの首を斬り飛ばす。


「ラルダーロ」

「このっ!」


 ティリアが天井にいた全裸マンに電撃を浴びせて地上に落とすと、リオンとイルーネが協力してトドメを刺す。

 その間にララが一体倒していた。頭部が三百六十度以上も捩じ曲がり、首がもげかけている全裸マンが足元に転がっている。


「だいぶ慣れてきたね」


 ゴキブリ並みの生命力を持つ全裸マンだが、動く死体や骨戦士などと同じく、不死身という訳ではない。弱点だってある。頭と、それから首だ。ここを重点的に攻めれば、比較的楽に倒すことができた。

 とは言え、ちょっとナイフで刺したり矢で貫いたりしたくらいでは死なないのだが。


「だが油断は禁物だ、リオン殿」

「うん」


 地下二階になると全裸マンの出現率が高くなった。動く死体の数は少なくなり、その分、木乃伊男に出くわすようになっている。木乃伊男は必ず棺桶の中おり、事前に予測することが可能なので対処しやすい分、数が多い点が厄介だった。


「行き止まりか」


 さらに進んでいくと、小さな部屋に出た。何もない空間だ。どうやらララが呟いた通り、行き止まりらしい。


「さっきの分岐点まで戻るぜ」


 ダンジョンではよくあることだ。落胆することなく、すぐに気持ちを切り替えて元来た道へと戻ろうとする。


「……部屋の隅から魔力を感じます」

「え? ほんと? 見たとこ、何もないけど……」


 不意に足を止めて呟いたのはティリアだった。

 しかしリオンには何も感じない。《魔女》の〝加護〟を持つ彼女でなければ分からないほど、微弱な魔力なのかもしれない。


「隠蔽されているのかもしれません。……これは――」


 と、ティリアが部屋の片隅へと近付いていったときだった。

 突如として、彼女の足元に淡い燐光を放つ魔法陣が出現した。


「っ、トラップ!?」


 しかもこの光……つい先日、〈人狼の洞窟〉で踏んでしまったそれとよく似ている。リオンは戦慄した。

 転移トラップだ。


 転移トラップは、ダンジョンのトラップの中でも最も厄介なものの一つである。最初から魔法陣が見えているものはまだいいが、中には隠蔽されているものもあって、そうなると足を踏み入れるまで分からないためほぼ対処は不可能だ。


「ティリア!」


 リオンはほとんど反射的に手を伸ばし、彼女の腕を掴んでいた。

 次の瞬間、二人の姿が消失する。ティリアだけでなく、リオンもまた転移に巻き込まれてしまったのだ。


 残されたのは、ララ、ゴル、イルーネ、サーシャの四人。


「リオンはん! ティリアはん!」

「待つのだ、イルーネ!」


 すぐにイルーネが後を追おうとするが、それを咄嗟にサーシャが制した。転移先が固定の場合もあれば、ランダムの場合もある。バラバラに追えば、前回のように全員が別々の違う場所に飛ばされてしまう危険性もあった。〈人狼の洞窟〉程度の何度ならともかく、このダンジョンでの分断はさすがに厳しい。


「心配するのは分かるが、慌てるな。手を繋ぐぞ。ここでオレたちまで分断されたらまずい」


 対処法としては、手を繋ぐなどして一緒に転移することだ。これならたとえランダムの転移トラップだったとしても、最悪この四人がバラけてしまうことはない。


「転移先が固定ならええんやけど……」


 祈るような気持ちで、四人はリオンたちの後を追った。


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