ボク&カノジョ(思考の捻じれたぼくら)
僕はあの後すぐに退院した。
肩や腰を強打していた以外、骨折も目立った外傷もなかったから。
リストと名付けた電子データのファイルは、放置してある。
メモ帳は新しく同じ種類のものを購入し、使いはじめた。
自室の、テーブルの端にあるリストバンドへ目をやる。
これは、彼女に押しつけられたもの。
彼女がいつもつけている物ではなく、僕をみて作ったのだそうだ。
それをどうして、あんなときに差し出されたのか。
判らないけれどそれ以降、彼女は僕により一層付きまとうようになった。
僕も彼女に対して、前より素を出すようになった気がする。
「自傷行為は止めてください。」
「……」
「居心地が悪くても目を反らさない。
そんなに死にたいのですか?」
「……今の流れで、どうして、そうなるの?」
彼女は不愉快そうに顔をしかめた。
ここは昼休みの空き教室。
普段は誰もそばを通りかかることさえしない場所。
「自然界では、目があったときに先に目をそらすのは弱い方です。弱肉強食なので、弱きものは強きものに殺されます。」
「目をそらしたら、君はわたしを殺してくれるの?」
「そこ、そんな受け身形で言わない。
あなたが本当に死にたいのでしたら、苦しめて殺して差し上げられますよ?」
「……苦しめて?」
「僕の個人的感情からです。」
「その思考、結構危ないと思うよ?
わたしよりも危ないんじゃないの?」
「生きたくても生きられないような方も大勢おられますのに、何もしなくても生きられるような貴女が、その貴重な生を無駄にするなど、許せることではございませんからね。」
仮に殺すとして、証拠を残してはいけない。僕は、罪に問われるのはいやですから。
ですが、人殺しをしても気付かれなければ、罪にはなりません。
だからなるべく血は流さず、身元が分からないほどにしてどうにか処分しなければならないわけです。
悲鳴も上げさせてはいけませんし、あなたがいなくなったという事実さえも消せれば上出来ですが、できないのでそれを僕と結びつけられてもいけません。
殺す手段は限られますが、用意はできますね。
「……意外と本気で考えてるんだ……。」