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妄想夜  作者: 如方りり
9/9

追憶

真実を知らないまま大人になんてなりたくない。

俺は片手に力を込める。



公園の砂場を掘っていくと、水分を含んだ砂が出てくる。

それは川や海に通じているからだ。


「それまだ信じてんの?」


兄が呆れた顔で言う。


隠しても無駄。

砂場の下には、水が流れている。


「雨水が染みて」

信じない。


「砂場の深さ知ってるか?」

うるさい。


「せいぜい40センチ…」

なんの話だ。


あの10年前の夏の日。

幼かった俺には、確かに、涼やかな水音が聞こえたのだから。


今、暴いてやる。


砂場に膝をつき、小さなショベルを鋭角に入れる。


そのまま掘り続ける。


「やめとけ本当に」


掘り続ける。掘り続ける。


コツリと手応えがあった。何かに当たったようだ。


あぁ、失敗、失敗。

フチに近すぎたんだ。


砂場はすり鉢状になっているから、もっと真ん中を掘らないとコンクリに当たってしまうんだった。


掘り続ける。掘り続ける。


アタリがなかなか出てこない。


「やめとけ、本当に」


しゃがんで俺に忠告する。

そんなに邪魔をしたいのか。


掘り続ける。掘り続ける。

掘り続ける。掘り続ける。


汗が目に入る。

手が痺れてきた。


「お前の思い込みの激しさは病気だ」


今度は人格否定か。



だったら、あの時聞いた水音は?


ー暑い夏の日!!

ー少年だった俺が耳にした!!

ーせせらぎの音は!!



人目もはばからず、兄はズボンのチャックをおろした。

砂の山めがけて小便をかける。


ボボボ…と少し崩れる山。

それから道をつくり、俺が掘った穴に流れて行く。



その刹那、俺の耳元で記憶は鮮やかな色を持ち、全てが繋がる。


チロロ…


チロチロ…



「これだよ」



俺は泣いていた。


兄も泣いていた。

♠︎私も昔は砂場から海に繋がっていると思っていました。せせらぎの水音は聞こえませんでしたが。

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