わたしの家の決まりごと
お母さんは、いつも言います。
「脱いだお洋服は、裏返しのままにしたらダメよ」
って。
なるべく気を付けてはいるけれど、ときどき忘れて裏返しにしておくと言われてしまいます。
わたしは、いつも心の中で思います。
…どうせお洗濯するんなら、そのままでもいいのに。
…長そでのお洋服なんていちいち表に返すの面倒くさい。
「なんで裏返しじゃダメなの?」
お母さんに聞いてみました。
「お母さんも小さい時、おばあちゃんに言われてたのよ。」
「なんて言われてたの?」
「裏返しのまま置いといたら、お洋服に首を絞められるよ、って。」
「お洋服が飛んでくるってこと?」
「そうよ、こわいでしょう。」
「お母さんは首絞められたことあるの?」
お母さんは、ひと呼吸おいて答えました。
「あるわよ。」
そんなの嘘みたいな話だけど、本当だったらどうしよう。
寝ている間にお洋服が飛んできて首を絞められたら死んでしまうかも知れません。
おばあちゃんの家に泊まりに行った時、思い切って聞いてみました。
すると、おばあちゃんは
「そんなこと言ったかしらね?」
と答えました。
…なぁんだ、お母さんの作り話だったんだ。
…怖がって損した。
よく考えてみたら、優しいおばあちゃんが、そんな怖い話をするわけがないのです。
おばあちゃんの家の、畳の上に敷いた二枚のお布団。
いとこのエリちゃんは隣ですやすやと眠っています。
わたしも、オレンジ色の電気を見ているうちにだんだん眠くなってきました。
その日、怖い夢を見ました。
夢の中で裏返しのお洋服が、わたしの首を絞めています。
…怖い、苦しい、助けて。
一階で、時計の音がボーンボーンって鳴りました。
目を開けると優しいおばあちゃんの顔。
おばあちゃんが、ブラウスでわたしの首を絞めていました。
そういえば、さっき脱いだブラウスが裏返しのままだった気がします。
思い出したのと同時に、わたしはまた眠ってしまいました。
眠ってしまって、目が覚めることはありませんでした。
♠︎私の家でも、祖母の代から言われてました。
今だに脱いだ拍子に服が裏がえると、思い出して怖くなります。