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妄想夜  作者: 如方りり
5/9

余命半年のOL

現代社会において、仕事を辞めてパーッと海外に行ったり好きなことをして暮らせるのは、宝くじで一億円当たった人と余命宣告された人だと思う。


私は、後者。


ここんとこずっと身体が怠いなとは思ってたんだけど、血便が出て食欲もなくなって、ついに病院に行ってきた。

初めて直腸の…その、お尻から管を入れる検査までした。

身内に癌の人はいるか聞かれて答えたけど、うちはお祖父ちゃんも叔母さんも癌で亡くしてる。確か、遺伝するんだよね。

血の気が引くってああいうのを言うんだな…。

先生に、入院した方がいいか、親に連絡した方がいいか聞いたら優しく笑って「また来週、検査しましょう。」って言われた。

良性の腫瘍じゃないんだって。

まだ20代だし進行が早いのかも。症状が出てから病院に行っても、そこらじゅうに転移してて、気付いた時には手遅れ。


ショックすぎて涙も出ないよ。

親になんて言おうか考えながら帰ると、誰かと神妙な顔で電話してた。

あぁ、家には連絡が来たんだなってすぐわかった。

お母さんが泣いてるの、あんまり見たことないからびっくりしちゃった。


仕事は、辞めよう。

とりあえず仲の良い先輩に…電話だと言いにくいからメールで伝えた。すぐに折り返しで着信があったけど、話す気分じゃないから出なかった。


友達にはSNSでお知らせした。こういうのって可哀想な自分をアピールしてるみたいで好きじゃなかったけど、実際なってみるとわかる。私が生きた証っていうか…どういう気持ちだったのか、遺しておきたくなるんだね。


私は、交友関係は広い方じゃない。だけど突然の報告に沢山のコメントがついた。

みんな、ありがとう。


それから一週間。仕事は有給消化にあてた。

好きな映画を観て、懐かしい友達に会って、今まで先延ばしにしてた予定を整理した。


そして、再診の日。

「さっき会社から電話があったんだけど。」

出掛けようとした私を、お母さんが呼び止めた。

「あんたずっと休んでるんだって?有給の申請もまだ…」

急だったから、申請は出してない。

でも書類なんて後からだって何とかなるでしょ。

「ごめんね。病院…、行ってくるから。」


家族は普通に接してくれてるみたいだけど、私の好きなものが夕飯に出てきたりすると堪らない気持ちになる。

親不孝な娘で、ごめんなさい。


今日はスムーズに診察室へ通された。

「半年、くらいでしょうか?」

勇気を出して先生に聞いてみる。

「うーん…もうちょっと早いと思いますよ。」

「えっ…。そんなに早く…。」

まだ、やりたい事いっぱいあるのに。

結婚して子ども産んで…それから…。

鼻の奥がツンとして、目から涙が溢れた。


急に泣き出した私を見て看護師さんが慌ててる。

「大丈夫よ、そんな悲観しないで。」

「今は結構いるんだから。痔になる若い女の子。」


…え?


「痔?」

「痔。」

「痔なんですか?私。」

「え?」

「余命わずかじゃないんですか?」

「痔じゃ死なないよ。」

カーテン越しに誰かがプッと吹き出す声。

「…癌じゃないんですか?」

「痔です。字はちょっと似てるけどね。ははっ。」

「食欲もなかったんですけど!」

「気のせいでしょう。」


じゃぁあの日、お母さんが泣いてたのは別件?

好物が食卓に並んだのも偶然?


無断欠勤にSNSでの報告までして、今さら痔だったなんて言えない。


…。


私の人生、本当に終了かも。


…。

♠︎直腸の検査は心身ともにダメージがでかいのです。

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