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その瞳に映る希望

血生臭い。だけどそれはある人には愛しくて。


あの日、狂気と赤黒い色で溢れたこの場所に落とされた私の目の前に…


黒い羽根の天使が現れた







汚い環境、汚い上司。


そんな中で自分自身も汚されていくのだろう。


私がこの目を利用されて軍隊に入れられていた頃、私は外見が女性よりだったことから、他の軍人たちに嫌らしい目で見られていた。


それは次第にエスカレートしていき、こんな結末に至ったのだろう。


ある日、私は上司に呼ばれ、汚くなった。


私の道具()を抑えられ、身動きを遮られた。


抵抗しようとしても屈強な男の力には私の力は及ばない。


嫌だ……汚らわしい……!


ただそれだけが頭の中を交差した。


そして限界に迫ったその時、


「嫌だ……!!助けて……!!」


「機械」であった私は初めて、誰かに助けを求めたのだ。


その瞬間、視界が眩く。


薄れる記憶の中、血生臭い匂いが微かに鼻についた。







「うー火薬くさいのですよ〜」


鼻をつまみながら金髪のポニーテールの女の子が言う。


「早く探し出して帰ろうなのです〜クロヤ様〜」


「ヒカリ、そう慌てるでない。ここは戦場跡だぞ。先々行って地雷でも踏んだらどうするのだ」


「大丈夫なのですよ!これでもヒカリは火薬使いの名誉あるドワーフ(キャット)なのですよ!心配無用なのです!」


胸を抑えて自信満々に話すヒカリにクロヤは少しため息をついた。視界が煙でぼやける。


ここは広い砂漠地帯だ。そんな広い砂漠に壊れた戦闘機が無造作に捨てられている。遠くの方で十字架が掲げられた墓が数百にも並べられている。戦死者は全てそこで眠っているのだろう。


蒸し暑さで汗がしみ、衣服がまとわりつく。


その墓に刻まれている名を確認して、そこに今回の保護対象の名が刻まれていないことを確認し安堵のため息を吐く。だが時間は長くは待ってくれない。


この戦場の情報を知らせる新聞を読んだ時、今回の保護対象は大層な活躍をこの戦場でしたという。


「…… 『シャ・プリュネル』の能力か……」


「クロヤ様、どうされたのですか?」


「……いや、ヒカリ、何でもないんだ。ただ……」


「簡単には、目を合わせてくれそうにないな…」


どこからか吹いた風が砂嵐を起こした。コートでヒカリと自分の身を隠し、砂嵐を防ぐ。


その時ー


「ーーーだ!助けて……!!」


「……!」


微かに聞こえた助けの声に、クロヤは無意識で動いていた。


「ちょ!クロヤ様……!!」


ヒカリが声をかけた時には、クロヤはその場から黒い羽根を広げて天空を舞っていた。









目を覚ました時、私はベットの上に横たわっていた。


汚されていると思った身体はどこも支障がない。


ふと、自分の横に人がいる事を察して身構えた。


「だっ誰だ!!?」


問いかけても返事がない。


「……この人……吸血猫(ヴァンパイアキャット)…どうしてここに…」


ベットの横にあった机に伏せて眠っている吸血猫に恐る恐る触れてみる。


揺すってみても起きない。この状況を不思議に思った。


と同時に、自分が気を失う前の記憶を思い出す。


背筋が凍る。手足がガタガタ震え、絶望に染まる。


汚いー汚らわしいーー


「……汚い……私は……汚い…」


自分を手を見てみる。手汗で濡れている自分の手がこの上なく惨めで、汚く感じた。


心が段々侵食され、黒く汚く染まっていく。


ふと立てかけてあった鏡を見る。


私の目はこんな惨めで汚い私には関係なく、いつも通りの美しい虹色を輝かせている。


それが自分にとって、何より惨めに思えた。


「…っ!こんな目…!!」


思いっきり目を塞ぐ。自分自身に目を背けるように、現実逃避する。


「……アマノ=スィエル…か?」


突然聞こえた低い声にビクリと身体を動かす。5m先に声の主がいる。


(さっきの吸血猫が起きたのか…?どうして私の名を…!)


「くっくるな!!私に近寄るな……!」


(だめだ…近づいたら…私は汚いから…)


アマノは酷く怯えた様子で吸血猫…クロヤを拒んだ。


「…アマノ=スィエル…こっちを見ろ」


「嫌だ…!私は汚いから…!醜くて汚い」


「こっちを見ろ!アマノ!!」


大きな声にビクリと身体を縦に震わす。思わず目を見開き、その人の方を見てしまった。


その人と目が合う。その人の目はこれまで自分が何回も見てきた鮮血の色をしていた。


だけど……それは、それだけは……何故か美しく感じたのだ。


しばらくの間その目に引き付けられる。


「……やっと、見てくれたか」


その人の声で我に返り咄嗟に目を隠す。そして同時に、ある疑問を抱いた。


「ど……どうして…私の目を見ても気絶しないんだ……?」


その言葉を聞き、その人物……クロヤは薄く微笑んだ。


「…お主の、仲間だからだ」


目を見開く。


これまで1度も…私は『仲間』と言われたことが無かった。


でもこの人は……こんな汚い私を……


「……私は…汚いのでしょうか」


ふと言葉が口から漏れでる。


「貴方から見た私は…どう映っているのでしょうか。私は汚いのに……汚れているのに……そんな言葉をかけて下さるまでの価値もないのに……」


「…??……どこが汚いのだ……?」


きょとんとした顔でクロヤがこちらをみる。その反応にアマノも驚き目を丸くする。


「……どこが汚いのだ?むしろ心身共に美しいと我は思うのだが…」


サラリとクロヤが発言する。


瞬間、アマノの胸になにか異変を感じた。


引き締められるような感覚と同時に顔もどんどん熱くなっていく。


これは……一体……


「アマノ、我と共に、希少種猫保護施設へ入らないか?……お主の力が必要だ」


「……我の、一つの『希望』になってはくれまいか?」


そういうクロヤに……アマノはより一層心を締め付けられた。


そして同時に……心が清らかに晴れていくような気がした。


深呼吸を一つする。


「……はい」


その人の瞳の奥の鮮血の色がより一層輝きを放つ。


私はいつしか、その瞳に吸い込まれていったのだ。


その時だけ……その時だけはー




自分の事も、許せそうな気がした。













「アマノさん!!」


金髪の女の子に呼び止められて振り返る。


「ヒカリ、どうしたのですか?任務に行ったのでは…」


「クロヤ様が呼んでいるのですよ!新しい任務らしいのです!」


「…はい、ありがとうございます。ヒカリも気をつけてくださいね」


そう言い長い廊下を歩く。途中で基地長援護班の集会室により、自分の武器を持つ。


ふと立てかけてある鏡を見た。


あの時とは髪型も服装も違う。綺麗に整えられた髪型は、もうあの頃のあと影もないし、洋服ももうボロボロではない。


だがそこに映る瞳のあの虹色は、今も変わらず残酷で美しい。


「……こんな物を美しいと……言えるわけがない…この目は…」


その時、あの日見たあの瞳を思い出した。


決して虹色に輝いているわけでも単色のムラのない美しい色でもない、少し濁った鮮血の色……。


「…あの目が美しいと思えるのは……きっと私が、あの目に心を奪われたからでしょう…」



そう言い、部屋を後にした。


少し気分が良い。微笑を浮かばせながら基地長室のドアを叩く。


「失礼します。クロヤ様」


「ああ、急で済まないが、ドアの近くにある血の入った瓶を持ってきてはくれぬか…?どうも我は動けそうもない」


また無茶をしたのかと思い、溜息を吐きながら瓶を持ち、クロヤの元へ行く。


いつも目を追っている銀髪の長い髪に、黒いコート。白い肌に埋め込まれているのは、普段めったに見せることのない、私が好きな色。


「…?何を見ておるのだ…?我をジロジロ見ても得することは無いぞ」


鮮血の色が私を捉える。



私は、その瞳にあの日と同じように吸い込まれた。







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