希少種猫保護施設は
「希少種猫保護施設の仕組み?……そういえば、あまり知りませんでした…」
ぽっかりと口を開けながらとぼけた声でシュマンは言った。
それを見てやはりなとでも言うような顔でクロヤがため息をつく。
「シュマンが入ってきた時はこちら側も急だったからな。普通なら新人は春にまとめて入ってきてその時に希少種猫保護施設の事を説明するのだが…。お主の場合はまあ仕方ないと言えよう」
「ついてこい」と言いシュマンに背を向け歩き出した。はぐれないように人が多い希少種猫保護施設内のホールを歩いて付いていく。
ホールから離れ細い廊下に出た。そこには色々な部屋の扉がある。約50m先の一番奥には基地長室がある。
クロヤはその部屋の目の前で止まり、そこから振り返ってシュマンを見た。シュマンは首をかしげる。
「どうしたのですか?クロヤさん」
そう尋ねるとクロヤは上の天井を見上げた。その天井には小柄な人がひとりは入れる程度の穴がポッカリと空いていた。一体この穴はなんだろうか…?
「ヒカリ、休憩中済まないが、こいつに希少種猫保護施設の事を教えてやってはくれまいか?」
そうクロヤが言うと、穴の中から「了解なのですよ〜!」と幼い声が聞こえた。と同時にシュッとクロヤの前に着地する。
「ヒカリはいつでもクロヤ様の役に立つのですよ!」
金髪の髪の毛をポニーテールにした少女がクロヤ様の方を見て元気に手を挙げた。そしてシュマンに気付き、ビシッと気をつけをする。
「はじめましてなのです!希少種猫保護施設α基地、基地長援護班のヒカリと言うのです!シュマン様の事は基地長援護班内で有名なのですよ!よろしくなのです!」
そう言い蔓延の笑みを見せる。実に可愛らしい子だ。
「じゃあ早速探検と行くのです!ヒカリについてきてください!」
再びホールに戻った。お昼時だからみんな仕事休憩で雑談などでここに集まっているのだろう。大きなホールには真ん中に噴水があり、周りは幾つもの通路が中心であるホールからクモの巣のように張り巡らされている。
「ここから伸びる通路は全部で7つあって、それぞれ名前があるのですよ!今さっき行った基地長室に繋がってる通路は『第1通り』なのです!なんか町の道の名前みたいで面白いのです!」
ニコニコしながらヒカリが言う。シュマンは周りに広がっている通路を見渡しながら関心した。
「そして真ん中の噴水はこの希少種猫保護施設のシンボルなのですよ!もしもの事態があったらみんなここに集合なのですよ!パーティーとかもこの噴水を真ん中にして開くし、お祭りなんかもここをぐるぐると踊り回るのです!」
「そうなんですか!そういえばこの前採血した時もここでしたような気がします」
「健康診断なんかもここでしたりするのです!色んな行事があって面白いのですよ!行事がなくてもここはいつも充実してるし!お昼時今の時間帯は人が集まるのです!」
ホールの端っこに存在している小さなカフェを指さしてヒカリが言った。その隣には小さな図書館があり、たくさんの本が置いてある。お茶を飲みながら読書ができる空間だろうか、贅沢で充実している。
「これだったら全然飽きませんね!」
「これは保護施設生活援護員のお陰なのですよ!そういや、保護施設内の役所とかも話さなきゃですね!お茶でもしながら説明するのです!」
そう言いヒカリはカフェの方へかけていった。はしゃぎ回る姿にほっこりしながらシュマンは後を追う。
カフェでヒカリはキャラメルラテ、シュマンは紅茶をたのみ、ほっと一息つく。
飲み物もすべて無料という所がとてもいい。
「さて、続き話するのです!この希少種猫保護施設を仕切る中心的人物が『基地長』様だということは知ってるですよね?」
「はい!その基地長を支えるのが保護員から選ばれる『基地長援護班』…ですよね」
「当たりなのです!ヒカリやアマノさんもクロヤ様から選んでもらったのですよ!本当に感謝なのです!」
ヒカリはニコッと再び笑う。笑顔を絶やさない、しかもそれは作られたものではなく本物の笑顔だという事に安心感をもてた。彼女の感謝の気持ちがより一層強く感じられる。アマノといいヒカリといい、基地長援護班に選ばれた保護員は裏がない信頼できる人がなる。
「そして今シュマン様がなられているのは保護員の中の『一般保護員』という、主に希少種猫の救出や猫刈りの処理をする役所なのです!この役所は一番人が多いのですよ!アマノも一般保護員出身なのです!」
「そうなんですか!なんだか誇り高い感じです!」
「一般保護員はカッコいいのですよ!みんなの憧れの元でもあるのです!でも他の役所も負けてないのです!他には、一般保護員の手助けや傷の手当をする『救助援護員』、さっき言ったその希少種猫保護施設内の生活をより良くする『保護施設生活援護員』なんかもあるのです!そしてその保護員全体を仕切るのが『保護員長』、この役職は主に基地長様がなる事が多いです!」
「へぇ……色んな役所があるんですねぇ…」
「これは希少種猫保護施設内部の役所で外部にもまた役所はあるのですが一旦ここまでにするのです。この各役所から1、2人ずつ、基地長援護班に選ばれるのですよ!ちなみにヒカリは保護施設生活援護員出身なのです!」
「そうなんですか!そういや……さっきまで穴の中に入ってたのは…」
「基地長室前で雨漏りが起きていたから工事中だったのですよ!ヒカリは古くから希少種猫保護施設に所属している名誉あるドワーフ猫の一族の末裔なのですよ!こんな雨漏り直ぐに直しちゃうのです!」
ドヤ顔で胸に手を当てながら自信満々に語るヒカリ。余程の自信家なのだなと少し苦笑いをこぼす。
本当に基地長のクロヤさんはじめ希少種猫保護施設の中心に属している人達はおかしな人が多い。
「ささっ!次に行くのです!ついてきてなのですよ!」
ヒカリに連れられ、とある通路に行く。壁には「第7通り」と書かれていた。
通路の先に進む度に次第に暗くなってくる。何か不穏な空気を感じた。
「この通路の先は、牢屋なのです。力の制御が出来なくて他人を害してしまった希少種猫や、正常じゃない希少種猫をここで監視るのです。希少種猫だからといって、いい人達ばかりじゃないですから」
ヒカリの声のトーンが下がる。シュマンも、先ほどとは違う雰囲気に、息を飲み込んだ。
狭い通路に牢屋が続く。ある牢屋の奥には傷だらけになった赤髪の少年が、座り込んでいた。
「この子は『突発型火猫』の子ですね。五色猫(火猫、水猫、風猫、光猫、闇猫)の突発型は力の制御がなかなか難しいのです。この子は性格こそいいものの使い慣れていなかってここにいるのです。……悲しいですよね、こんな所に閉じ込められるなんて…」
濡れた涙をゴシゴシと服に擦り付け、ヒカリは下を向いた。
悲しい現実に、心が囚われる。人の過去は、他人の心をも侵食する。胸が潰されそうになった。
「ヒカリ、どうしてここにいるのですか?」
足音とともに聞いたことのある声がヒカリを呼んだ。
振り向くと、そこには片手に鍵束を持ったアマノがいた。
「シュマン様、どうしてここにいらっしゃるのですか…?ここは基地長と援護班しか入れないのですが」
「ごめんなさい、アマノさん…。でもシュマン様なら、いいかなって思ったのです……。ごめんなさい」
ヒカリはそう言い、しゅんと顔を暗くした。アマノはため息を吐く。
「まあ、いいでしょう。…シュマン様なら大丈夫だと私も信じていますし。せっかくなので見ていかれますか?…新たな家族の誕生を」
そう言いアマノは鍵を使い火猫のいる牢屋を開けた。ギィ…という音に気づいたのか、火猫の少年はゆっくりと顔を上げる。
「もう大丈夫だよ、君はもう自由だ」
アマノが少年に優しく語りかける。少年は目を大きくして、驚いた様子でアマノを見た。
「シュマン様、あなたが連れていってあげてください。貴方様もこの少年と同じような能力をお持ちでしょう。 この中で一番、分かり合えると思うのです」
アマノはそう言い、少年を立たせてシュマンの所へ連れてきた。紅の瞳を広げながら、少年はじっとシュマンの方を見る。
息を飲み込む。そして少年に微笑みかけた。
「よく我慢できたね。僕もこの力を制御するの、なかなか難しかったんだよ」
少年の頭をなでる。紅がさっきより1層輝いた。
……僕も、こんなだったのだろうか……
師匠に保護された時に一時期だけここに入ったことがある。
……その時は怖いという感情しかなかったけれど…当時の保護員のみんなが、こんな僕を蔑もうともせずに笑顔で歓迎してくれた。
そうして僕はこの豊かな感情を手に入れ、暖かいこの保護施設に現在保護員として存在しているんだ。
この子もきっと……僕と同じ道を歩むのだろう…
ここでの生活も約束も……そしてこの牢屋のことだって…きっと何かの意味がある。
人々が温まる……そんな『希望』を持っているのだろう。
そして……僕らはこの希少種猫保護施設の『家族』になっていくのだ。
手をつなぎながら赤髪の少年と一緒に通路を長い廊下を歩く。段々明るくなってくる景色に、この少年の将来を照らし合わせた。
光が完全に周りを多い尽くした時、ホールにいた希少種猫たちはみんな歓声をあげて盛り上がった。
「おかえりー!」「よろしくなー」と飛び交う声とともに、シュマンは笑顔で少年に言った。
「ようこそ、希少種猫保護施設へ」
少年は驚いた顔をしていたが、しまいにはにこりと少年の笑顔を見せた。
頭をなでる。
「やっぱり、ここはいい所なのですよ!私達の帰るところであって、Homeなのです!それが一番ヒカリが伝えたかったことなのですよ!」
自信満々にヒカリが言う。シュマンはそれを笑顔で聞いていた。
希少種猫保護施設。
僕の帰る所だ。
この希少種猫保護施設内の全ての施設、仕組みは、僕達家族の憩いの場だ。
「改めまして、よろしくね!」
少年と共に笑いあった。
Fin




