魔術の力
翌日。
この村には馬車が走っていなかったので、やむを得ず歩きで次の街を目指した。
周辺の地理には詳しいダイアの案内と共に針葉樹の森を歩いていた。
「なんか不気味だな…」
近くの茂みから鳥の大群が飛び出す。思わず飛び退きそうになったがなんとか踏みとどまった。
「ん?」
俺は嗅覚の異変に気づき立ち止まった。
「血の匂いだ…」
俺は足早にその血の匂いをたどる。
その先にあったのは、無残に引き裂かれた死体。しかもかなり新しく、未だに鮮血が流れ出ている。
ダイアも驚いて口を抑える。
「いったい誰が…」
この傷跡、モンスターのものではない。大きな鎌のような刃物で肩から腰にかけて切り裂かれている。
明らかに人の手である。俺が周辺を探ろうとしたとき頭上から声がした。
「こんにちわぁぁぁあ!!」
急降下してきた赤髪の少女が大鎌を振った。
俺は剣で受け止めたが、なかなか重い一撃で、俺は後ろに大きく吹き飛ばされた。
「ナイス反射神経!お見事お見事!」
その少女は拍手しながら賞賛している。
「…ハァッ!」
俺は剣に炎を纏わせて反撃の体勢をとったが、彼女は両手を振った。
「いやいや!待った待った!ただの挨拶だってぇ…」
どうにも信用できないが、俺は炎を消した。
「えーと!申し遅れました!私、シアというものでーす」
てへっ☆と調子のいい態度を取る彼女はシアと名乗った。
「…これはお前がやったのか?」
俺が聞くと、首をブンブン横に振った。
「ち、違いますよ!私、これでもハンターなんで!」
そう言って赤毛の彼女はハンターの刻印が押された紙切れを差し出す。
確かに彼女はハンターだ。
「なんでいきなり攻撃してきたんだ?」
シアはにやりと微笑むと答えた。
「実はですね〜、昨日の戦いを偶然見てしまって、興味が湧いたというか〜」
昨日のクロロとの戦闘を見ていたと言う少女はふふっと笑みをこぼすとこう言った。
「私と手合わせ願いませんかね?」
「ねぇ、ダメですか??」
「ダーメーだ!」
「えー、りっくんのケチー」
「誰がりっくんだ!」
かれこれこのようなやりとりがずっと続いている。
完全にダイアは空気と化している。
俺は勝負を迫られるばかりである。
「こんな女の子が相手してくれるんですよ?いいじゃないですか〜?ねぇ〜」
確かにさっきの一撃からして、シアは強いと確信した。
でもだからこそ挑みたくないし、彼女に怪我はさせたくない。
「わかりましたよぉ!もぅ!」
やっとかと思いながら俺はため息をついたが彼女は頬を膨らませながら言った。
「じゃあ、殺します♪」
俺とダイアが青ざめた。その時にはシアの構えた大鎌が首に向かっていた。
俺は素早く抜刀して、受け止めるが大きな遠心力を利用した攻撃に俺は大きく仰け反った。
その隙にシアは鎌で俺を切り裂こうとした。
しかし鎌は俺の目の前で金の鎖に縛られた。
「…私を、無視しないで…」
「あらら?誰だっけぇ」
シアはダイアを人睨みするとすぐ元のヘラヘラした顔に戻った。
さらに鎖はシアの身体に巻き付く。
「…雷柱の鉄槌」
続けてダイアは雷魔術の詠唱。
シアの頭上に雷球が現れる。
その雷球は無数に現れ、雷が迸る。
シアの姿が見えなくなるくらいの量の雷が走り、やがて止んだ。
「…」
ダイアがやっと張り詰めた息を着いた時、シアの姿は跡形も無くなっていた。
「へぇ、雷…か」
「…!!」
雷に撃たれたはずのシアの声が響く。
しかし彼女の姿は見えない。
「…気をつけろ!ダイア!」
俺がそう叫んだ時には、シアの鎌がダイアの右肩を捉えていた。
確実に肩から腰にかけて切り裂いた。
ダイアの身体はまっぷたつに別れて、そして、消えた。
「ふぁ!?」
「…幻影移動…終わりよ…」
最後の詠唱は聞き取れなかったが、目に見えるほど大きな衝撃波が巻き起こった。